この物語は一体どうなってしまうのでしょうか?
「う~ん、このイチジクの葉、いい研究材料になるかも。ああ、でもこっちのイチイの種もいい品質だ」
「パパ、今日はその店は予定には入ってないわ。無駄遣いはなし」
「でもキャロル。これは本当に稀な物で今回逃したら、次はいつ出会えるか分からないんだよ!」
とある町のバザー。果物、食器、薬草、肉、アクセサリー、何でも売っており、人々が自分のお目当ての物を買おうとごった返している中、とある三人の姿がある。
「そんなこと言って前買った青銅とか、荒鷲の羽は研究室の隅っこに転がってた。掃除しているときに、蜘蛛の巣になっていて大変だったんだから」
「うっ・・・」
父と娘の勝負は、娘の勝利に終わる。敗因は、父のズボラさであり、もとより家事を一手に引き受ける娘に勝てる道理もなかった。
「‥‥‥キャロル」
「駄々をこねても駄目!うちの家計もカツカツで値上がりしたお野菜を買うのがきついんだから」
「いや、そうじゃなくて、ほら」
「ん?」
キャロルと呼ばれた少女はとりあえず父のさす方向へ顔を向ける。父の悪あがきと思っていたのだが・・・
「いやぁ、良い御召し物を着ていらっしゃる。どこの仕立て屋でお買いになられたのかな?なに、自分で作ったもの?ほほぉ、それは素晴らしい。つきましてはその時のことについてあそこのカフェで少々お聞きしてもよろしいかな?」
そこには最後の一人が俗にいうナンパを仕掛けている姿があった。普段の話し方ではなく少々気取った感じ、最初に身にまとっている物から褒めるいつもの手口、強引すぎるお世辞にも上手とは言えない方法。ただ、勢いだけはあるし顔もそれなりにいけて、悪い物は感じないのでそれなりの成果はあると言えばある。向こうの女性もまんざらでもない。
キャロルはそれを見て、ゆっくりと、しかし無駄のない動作で無表情で買ったカブを構え、そのまま投げる。
「この、バカアアアアアア!!」
「グエ!!」
「ああ、店主。このイチイの種、もう少し負けてくれないかい?これぐらいなら出せるんだが。え、銅一枚分だけ?ハハハ、バカ言っちゃいけない、銅三枚、いや五枚は負けれるはずだ」
ナンパをしていた馬鹿を制裁した後、戻ってきたキャロルが、交渉に熱中していた父の姿を見て、笑いながら怒るという珍技を披露することになる。
「うーん、結構うまくいきそうだったのになぁ」
「もうちょっとで銅四枚は負けさせることが出来そうだったのに」
「馬鹿なこと言ってるんじゃないの!お兄ちゃんもパパもいっつもおんなじことして油断も隙もない」
父と兄の残念そうな声を一喝する。まあ、街に来た目的とは関係ないことをして、しかもこれも二度や三度のことではないのだから怒られて当たり前なのだが。
罰として荷物を持った二人を引き連れてキャロルは街の中心にある広場に出て、そのまま近くのベンチに座る。荷物を二人に下ろさせ、買った中身を確認し始めるがその顔にはまだむくれたままだ。
「おい、イザーク、何とかしろよ、お前のせいだぞ。大体、毎回変な物買おうとするけど何なんだ?あれ、なんか使い道あんの?その金、酒にでも使った方が良くない?」
「いや、君のせいだよ。毎回毎回下手なナンパして恥ずかしくないのかい?あれで引っ掛かる人はいないよ。その熱意、なんかほかのことに使わないかい?差し当たって錬金術とかね」
「はあ!?下手じゃありませんー、さっきのももう少しでいけましたー。それに一応言っとくけど、あれでも昔よりは多少は凝った手口使ってるんですけど。最初はそのままアタックだったから、それでも皇は落とせたし」
「それ、最終的にめった刺しにされて逃げられたんじゃなかったんだっけ・・・」
「・・・・・・うるせぇ」
醜い責任の押し付け合いから、思わぬ傷口をえぐられ男は思い切り落ち込む。イザークも、思ったよりダメージを受けた様子を見て思わず慰めに入る。
しかし、そんなことをしていてもキャロルの機嫌は直らない。どうしたもんかと二人は頭を悩ませ、まだ怒っているかと恐る恐るキャロルの顔色をうかがう。
すると、キャロルは確認作業を中止して、じっと前を見つめていた。二人は首をかしげてキャロルの視線の先を見る。その先には人形劇が行われていた。赤、青、黄、緑の四体の騎士がドラゴンを倒しに行く感じのストーリーか。それを食い入るように見つめているが、正直遠すぎてちゃんと見れるのは目がいい男ぐらいでキャロルにはあまり見えていないだろう。しかし、ああいうのは金を払ってお菓子を買って見るシステム。無駄遣いをするわけにはいかないため、キャロルは我慢しているのだ。
だが、これは二人にとってチャンスだ。そのことに気付いて二人で顔を合わせて笑う。
「キャ~ロル」
「!べ、別に見たいわけじゃ!ああ、忙しい、忙しい。早くチェックを終らせないと」
意識を復活させたキャロルは慌てて作業を再開させようとする。しかし、目はまだチラチラと人形劇へ向かおうとする。
「無理をする必要はないよ。見たいなら見たいってハッキリ言っていいんだ。俺は兄で、イザークはお父さんだ。キャロルのそんなお願いぐらい聞いてあげるさ」
男は懐から銅貨を取り出してキャロルに握らせる。けれど、キャロルの顔にはまだ迷いがある。
「でも、そんな、わがままを」
「じゃあ、これはご褒美だ。頑張ったキャロル、一生懸命なキャロル、俺たち二人をてきぱき働かせるキャロルへの、ね」
だから行きなさいとキャロルの背中を押す。そこまで言ってようやくキャロルは笑顔になって人形劇を見に走り出す。
「転ぶんじゃないぞー!」
「よかったのかい?あれは、君のポケットマネーだ、何か買いたいものとかなかったのかい?」
俺を心配してイザークが声をかけてくる。なんか申し訳ない顔をしているがキャロルの笑顔のためならいくらでも払える。
「まあ、女と一杯やるための金だし、それに比べたらいい使い方だ」
「全くだ。お金もキャロルの為に使われていい気持ちだろう。キャロルー!楽しんできなさい!」
「‥‥‥お前ハッキリ言うのね」
確かにそうだけどさ。さーて、俺もお仕事するかね。
「イザーク、ちょっと離れるぞ」
「‥‥‥またかい?本当にすまないね、いつも君に世話になってしまって」
非常にすまなそうな顔をするイザーク。まあ、あっちも既にイザークだけじゃなくて俺も対象だから、俺が戦うのも当たり前なんだけどな。ベンチから立ち上がり、誘われた裏道へ入っていく。
人の気配がないのはあいつらのお膳立て。ではドブネズミすらいないのはなぜか?それはきっと野生の勘なのだろう。ここにいたら命が消し飛ぶという生命の勘。
「お前らもしつこいな。イザークはお前らに興味ないし、俺もそうだ。これで話は終わり、そうだろ?」
「そうはいかない、我々にはいくらでも人材が必要なのだ。それにお前のその強さは異常だ、研究対象に相応しい。引きずってでも連れて行く」
黒いフードを被った奴らが現れる。パヴァリア光明結社、少し前に追っ払ってから行く先々に現れる。そのたびにつぶしていたのだが、それでますます目をつけられた。完全に悪手だった、いや結局こいつらは諦めないか。
錬金術師たちは、よくわからん陣は発生させて火や氷で攻撃してくる。それを躱せば、風を纏った剣で切りかかってくる。この剣は厄介だ、つかもうとすれば風で切り裂かれるし、よけようとしても風で刀身以上の攻撃範囲がある。
「あらよっと!」
「グオッ!」
なので早く潰そう。地面を強く踏んでエネルギーを流し込む、そのエネルギーが爆発して土が相手に襲い掛かる。名付けてプグヌス・テッラ、土の拳だ。キャロルからならった錬金術の応用。
次に来るのは筋骨隆々の男、おまけに手に火がついている。相手の内臓を砕きながら焼く感じかな。俺もそれに対抗すべく、手から水を出しながら相手の拳を使う。
「俺の拳を!!」
「アルミス・アクア、水の鎧徒いうのはどうかな、かっこいいと思うんだけど。あと、俺は肉弾戦が得意なんだよね。お前もいい鍛え方をしているけど、踏み込みが足りない」
拳をつかんだまま、壁に叩き付けて黙らせる。
さて、残りは距離を取って攻撃してくる。こっちが近づこうとすると離れるし、こっちが離れようとすると近づき、距離というアドバンテージを離さない。
けど、俺だって距離のある敵を攻撃する技なら持っている。その場で飛び上がり、上空で足に風を集めて巨大な刃とする。イメージするのは皇が使った巨大な剣。名付けるならグラディウス・ウェントス、風の剣。
それをそのまま相手に叩き付ける。
「ふう~、これでお終いと。お前ら大丈夫、死んでない?」
返事はない、屍・・・ではない。ぴくぴく動いている、なら大丈夫だ。こんだけ暴れてるのに人が来ないのはこいつらが細工しているのだろう、なら後片付けもお願いしよう、道や壁がボロボロだ。そのまま、そこを後にする。
「それでね、四人の騎士が赤い竜を倒すとそこから三匹の竜が生まれるの!それと戦っているとまた更に六匹の竜が現れて大ピンチ!すると緑のライオンに乗った王様が現れて、四人の騎士と力を合わせて竜に大勝利!それで騎士たちは各々のポーズを取るんだけどほんとにかっこよかったんだから!」
「ハハハ、それはすごいな」
む、キャロルが戻ってきてる。人形劇は終わったのか、さてこれはどうやって戻ろう。なんかいい言い訳はないかな。ナンパしてた、は駄目だ、また機嫌が悪くなってしまう。
と、そこに果物屋がジュースを作っているのが目に入る。あれがいい、キャロルも興奮していてのどが渇くだろう。言い訳の種をゲットするために俺は歩いて近づく。
「オレンジ三つ頼む」
「へい!銅貨三枚になります」
とほほ、これで財布はすっからかんだ。まあ、しょうがない、ガラスコップを借りてキャロルとイザークのところに戻る。
「ほら、これ飲んで落ち着け」
「あ、お兄ちゃん、ありがとう!お兄ちゃんにも劇のお話をしてあげるね」
「僕にもかい?重ね重ねすまないね」
「パパ!こういう時はごめんなさいよりありがとうだよ!」
「・・・そうだね、本当に、本当に、ありがとう」
まだイザークの奴気にしてんな。それとありがとうキャロル、でもな、口の端にお菓子の食べかすが付いていて締まらないぞ。ほら、ハンカチだ。
ジュースを飲み終わった後、俺たちは帰路に就く。家に着くまでにキャロルに人形劇の話を聞かせてもらった。目立つのが好きな騎士とか、意地の悪い騎士、無邪気やクールな騎士。そして最後に出てきた王様、竪琴の好きな歌う王様、双子の弟と共に最後は歌で国民を鎮める、そんな話をキャロルから聞かせてもらった。それにしても、大食らいの竜はいいとして全身に剣とか弓を付けた竜ってどんな竜なんだ?
「それじゃあ」
「「乾杯」」
キャロルを彼に寝かしつけてもらった後、大人二人でワインを飲む。うん、おいしい、掘り出しものだというのもあるけど、彼と飲んでいるのもあるだろう。人と飲むなんて妻が死んで久しくなかったからね。
彼とは街でパヴァリア光明結社に絡まれているときに会った。野次馬として見に来た彼は巻き込まれて、彼らを追い払った。そのお礼として家に招いたけど、話してみてすぐに悪い人ではない、いい人だと気づいた。でも、それ以上に彼は寂しい人だと気づいた。
彼は記憶喪失で彼の経歴はあまり話してくれない、せいぜい長い間生きているということだ。けれど、それでもわかることはある。いつも、人のぬくもりに、愛に飢えている。街に着てナンパをするのもきっと誰かを愛して愛されたいからだろう。まあ、女好きというのもあるけれど。
そして彼が家に居着いてからこの家も明るくなった。特に喜んでくれたのはキャロルだ。あの子には母親がいなくて寂しい思いをさせていた。けれど、僕にはママ以上の人はいない。だから、彼があの子の兄になってくれて本当に良かった。僕がいない時も彼がキャロルの傍にいてくれる、だからキャロルは寂しくない。
けれど、一つ心配がある。それはいつまで彼がキャロルの傍にいてくれるかということだ。彼はもともと流浪の人だ。彼はいつも過去を探している、きっとそこに置いて来てしまった何かがあって、それは彼にとって大事な物なんだろう。
そんなことを考えていると、彼は真剣な表情をする。
「イザーク、悪いことは言わない、あれはやめておいた方がいい」
「うん、なんのことだい?」
「とぼけるな、お前の錬金術を使っての人助けのことだ」
彼の声が一層険しさを増す。うん、言われると思った、これは想定していたことだ。
「確かにお前のやっていることは立派さ、聖人君子さ、救世主さ。けれど、今はまずい。最近協会の異端審問が脅威を振るってただの薬草も悪魔の仕業にされるぐらいだ。ましてやお前のは錬金術、本物の奇跡さ。このままだと、お前は助けた奴らに殺されるぞ」
「錬金術というのは秘匿されるものだからね、それを人前で使うというのは他の錬金術師たちから見ても異常、だからきっと彼らも助けてはくれない、むしろ殺されるのは大歓迎だろう」
「それが分かっているならッ」
「けど、それは出来ない」
そうだ、それは出来ない。僕の勝手な錬金術師としての誇りの為に、僕の無謀な夢の為に。
「僕にはね、夢があるんだ。世界の全てを知り人々が分かり合える世界が来ることがね。けれど、そのためには人々は助け合わなきゃいけない、手と手を取りあわなければいけない。もし、救える命があるのに救わないなら、手と手を取り合わないのならばそんな世界はやってこない。それは、僕は嫌なんだよ」
「ふざけんな!」
彼に胸ぐらをつかまれる。揺れた机の上でコップが倒れてワインが流れる。
「お前は、イザークはキャロルの父親だろう!なら、お前はキャロルのためには何でもしないとダメなんだ!夢?なんだよそれ、そんなものがキャロルより大事だっていうのか!?違うだろ、そんな夢なくても人は生きていける、人は幸せに」
「なれないよ。それはただ生きているだけだ、それじゃあ駄目なんだ。僕が最後まで夢の為に頑張ることが、キャロルの幸せの世界につながるんだ。世界を知って手を取り合うことで、人と人は手を取り合える、世界はそういう風にできているんだってね」
そう言うと彼は言葉に詰まる。ああ、これはずるい言い方だ。キャロルの為になる、それを言われてしまえば彼は何も言うことが出来ない。
「・・・それでも」
だけど、彼にも思いがある。それはきっと譲れない思い。
「それでも、親は、父親は娘の傍にいるべきなんだ。苦しい時、つらい時に傍にいて支えてあげなきゃ駄目なんだ、それが父親なんだ、託された願いなんだ・・・」
かすれるような声でそうつぶやく。おそらく、彼自身も意識せずに言う言葉。きっと彼の失われた過去からの言葉。
僕たちの間に沈黙が横たわる。けれど、それは思いがけない侵入者で終わりを告げる。
「・・・どうしたの?喧嘩でもしたの・・・」
目をこすりながらキャロルが現れる。おそらく、この騒動で目を覚ましたのだろう。
「何でもないよ。さあ、キャロル、ベッドに戻ろう。また寝れるまで一緒にいるから」
「うん・・・」
彼はキャロルの手を引いてベッドまで連れて行こうとする。そこに僕は一つの機会を見た。僕の懸念を消すための一つの機会を。
「・・・もしも、僕に何かあっても君はキャロルとずっと一緒にいてくれるかい?」
きっとこれは呪いの言葉、彼を縛り付ける言葉。でもきっと、彼はうなづいてくれる、彼もキャロルを愛してくれているから。
「馬鹿が。俺だけじゃねえ、イザーク、お前もキャロルと一緒にいるんだよ」
こっちを見ずにそう言い残して、彼とキャロルは扉の奥に消える。一緒、一緒にか・・・
「・・・そうだね、僕も一緒にだ」
「またやられてきたのかい、君たちは。いったいどんな奴なんだ、その男というのは。教えてもらえるかい、サンジェルマンに報告する前に」
「錬金術を使えて、格闘が得意?・・・彼か、まさか?・・・そんな馬鹿な話はないか」
「まあいい。行かせてもらうよ、今度は僕が。気にする必要はないよ、単なる暇つぶしさ」
何故だ、何故シリアスに。この物語はギャグだったはずだ。
・・・全部局長が悪い(責任転嫁)