矢霧波江成り代わり
―――人に期待するのは間違っているのだろうか?
―――それとも私が間違っているのだろうか。
今世の両親はあまり家庭に興味のない人たちだった。会社の重役だった父親が重要な取引を失敗し、役から降ろされたことで更に悪化し、夫婦喧嘩も絶えない居心地の悪い家庭。幼い私どころか生まれてやっと離乳食に変わったばかりの弟もないがしろにする両親にいつしか期待することをやめた私は、弟の親代わりをしつつ早く自立する事を望んだ。
「姉さん!」
「ふふ、どうしたの誠二」
笑顔で駆け寄ってくる可愛い弟。ごめんねお父さんとお母さんじゃなくて。本当は私からより両親から愛されたいであろう年頃なのに。
「大好き!!」
「私もよ、誠二」
笑顔の弟を抱きしめる。だからこそ、私ができる限りこの子を愛そう。何不自由なく、普通の子たちと同じように育てる。そう決意した。でも
「僕、姉さんさえいればそれでいいや」
それはだめよ。私がいなくなったらあなたが一人になってしまうもの。そう説得しても聞く耳を持たない弟に内心困った。こういう時は私よりも外界に興味を持たせるべきなのかもしれない。そう思って一番に思いついたのはあの「首」だった。
「そうだ、ねえ誠二、姉さんがいいもの見せてあげる」
そしてそれ以来、弟は「首」によく会いに行くようになった。
「ねえ、またあの首見に行きたい」
「姉さん」
「またあそこに見に行っていい?」
「姉さん」
「あの子に会いたい」
「姉さん」
「彼女に会いに行ってくる」
「姉さん」
弟が私以外に目を向けたのは嬉しい。でも「首」だけでなくもっと色々なものに関心を持ってほしい。でもきっと私にも「首」にも飽きてそのうち学校の友人や可愛らしい彼女に関心が向いて、普通に育っていってくれるだろう。そう思っていた。
「姉さん。俺――――――俺には姉さんと彼女さえいればいい」
はずだった。
私は、間違えたのだろうか?ただ漠然とそんなふうに思ってしまった。
弟はそろそろ高校に進学する。そこで少しでも私と首への執着を緩ませるような出会いがあればいいけど―――
「じゃあ姉さん、マンションに着いたら連絡するから」
「ええ、気を付けてね。」
今日から弟は一人暮らしになる。月日は早い、そして残酷だ。結局私はあの子を「普通」にしてあげられなかった。
「誠二」
私から離れたことでもっと周りに関心を持てるように、あの子の世界が広がるように祈ることしか出来ない。
そしてその願いも空しく、あの子が「首」を持ち出しそれが発端となってあの事件に巻き込まれていくことなど、今の私には考え付かないことだった。