成り代わり短編集   作:紗代

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食戟のソーマ
薙切薊成り代わり


もし本当に「生まれ変わり」があったとしても、これほどうれしくない転生先はないだろう。

 

なんで

 

よりによって

 

――――――薙切薊なんだー!!

 

 

 

 

 

 

皆さんこんにちは。前世サブカルクソ女、今世ラスボス系まっくろくろすけに転生しました。薙切薊です。まじねえわーって思い出したのが幼稚園の頃。まだ幼稚園だからいくらでもやり直しは効くはず!!なんて孤軍奮闘したのはいい思い出です。

ええ、見事に失敗しました。おかげで高等部一年生で三席、二年生からは一席になりましたよ。唯一の救いは先輩たちと後輩に恵まれたこと。堂島先輩も才波先輩も優しくていい人で潤ちゃんはひよこのように私を慕ってくれていた。才波先輩が中退してしまったことにはショックを受けたけど、それは仕方がないことだったのだ。現実で見ると漫画で見るより更に憔悴しているのが分かったし。

 

堂島先輩も卒業し、それから更に私が三年生になると進路が決まってないこともあって色々なところからスカウトが来た。どうしようか迷っていると総帥から仕事が来た。「薙切家の臨時の専属料理人をやらないか」と。

特にこれと言ってやりたいこともなく、老後とこれからの生活の心配をしていた私にとって高給取りで保障が付き、好きな調理ができるうえ薙切家の食卓に並ぶものなので高級食材が使い放題というまさに楽園のような条件であったため一も二もなく飛び付いたのだった。あと私が今世も女、かつこの仕事も臨時なので薙切との縁も総帥以外とはそんなに強くはならないだろうと思ってのことだった。

でも現実はちがった。薙切家には令嬢はおらず、男児二人の兄弟だった。あー、まあそんなこともあるよねーで料理をこなしていた。臨時とはいえクビにされることなく働けるのは元十傑たる所以だろう。

 

薙切家で働き約一年。私は薙切家兄弟の長男にプロポーズされた。頭が付いて行かない。元々彼とは料理のことやちょっとした提携先の味見などで度々顔を合わせていたし、一時期は付き人の真似事をしていた時もある。薙切家の中では結構仲が良かったがまさかプロポーズされるとは思ってなかった。断ろうと言葉を濁したが逃がさないとばかりにその日から毎日殺し文句と贈り物の嵐だった。結局根負けし絆されてしまった私はめでたく薙切家の一員となったのだった。

プロポーズを受け入れたその日の宴会で分かったことだが、どうやら私へのプロポーズは私に惚れた夫(本人が大声で言ってた)とそうす・・・お義父さん(今日からそう呼ぶように言われた)が共謀してのことだということだったらしい。二人とも内輪だけの宴会で羽目を外して飲み過ぎたらしくベロンベロンだったのでおそらく本音なのだろう・・・唯一常識人の義弟・宗衛さんは事情を知っていたのかひたすら私に謝り倒していた。対照的にレオノーラさんは「マア!薊が家族ニナルナラ、私も協力シマシタノニ!除け者ズルい、反対デース!!」とプリプリ怒りながらも私が嫁ぐことに関してはノリノリだった。この中でダントツに仲良かったのはレオノーラさんで、彼女には色々話していたのでもし本当に加わっていたらもっと早い段階で事が進んでいたのではないのだろうか。

しかしまあ、私もこの時には既に夫に惚れ込んでいたので結果オーライだろう。

結婚式は場違いなんじゃないかと思うくらい盛大なものだった。

 

そして二十歳の時、待望の娘が生まれた。名前はえりな。やっぱりか。私たち夫婦は黒髪だがえりなは美しい金髪だった。しかし私のような原作知識を持たない人たちも驚くことはない。私やレオノーラさんのように才覚を見出だされて薙切家に入る者は珍しくない。学園と同じく実力主義な一族であるためきっと先祖にヨーロッパ系の人がいたのだろう。因みに私の浮気はあり得ない。夫が宗衛さんと同じく夫バカでおはようからおやすみまでずっと一緒だからだ。

仕事の時はキリッとしているのに家に帰るとデレッとなる。うーんかわいい・・・なんて思ってしまうくらいには私も彼にベタ惚れだ。えりなが生まれてそれに拍車がかかり、夫バカに親バカが付け足された。しかし構いすぎてえりながげんなりするまで抱っこするのは如何なものか。

 

えりなが五歳になりアリスちゃんが北欧に行った頃、えりなは寂しそうにすることが増えた。

 

「・・・」

「今日もえりなは窓の外に釘付けか」

「仕方ないわ、アリスちゃんがいなくなって寂しいのよ」

「そ、そんなことありません!」

「ふむ・・・ああ、そういえば薙切インターナショナルの視察の仕事があったな。たしか同行者の制限はなかったはずだ。私は薊とおまえを連れて行こうと思っているんだが・・・一緒に行くか、えりな?」

「行く!付いて行きます、お父様!」

「そうかそうか、では来週までに準備を済ませておきなさい」

「はい!」

「ふふ、よかったわね。えりな」

「はい、お母様!」

 

その時原作しか知らなかった私はまだ知らない。

 

これが最後の家族三人での旅行になることを――――――




この後無事にデンマークからは帰ってきますが、その一週間後くらいにえりな父は不慮の事故で亡くなります。それから主人公はえりなを育てるためにも自分の仕事だけでなく夫の仕事や別の薙切の仕事もこなすようになります。
えりなが主人公に料理を作って主人公のために料理人を目指したり、主人公を目標にしたり。主人公は主人公で娘を溺愛したり、自分の先輩や後輩や娘の先輩とかに無自覚にフラグ建てたりさせたい。

ラスボスには成り得ない、そんな主人公です。

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