春日野春彦は転生者である。
前世の記憶というものを自覚したのはいつ頃だったか。少なくとも小学校低学年の頃はそのような奇妙な感覚に蝕まれることはなかった。
きっかけというものは思い出すことはできないがある時を境に俺は自分が転生者という分類の人間だということに気がついた。
前世の記憶、といっても断片的な知識であり前世の自分が本当に自分であるのかと尋ねられれば答えに詰まってしまうような、あくまで客観的な知識である。前世の友人や家族の顔はもう思い出せない。自分のこともはっきりとは覚えていない。わかることといえば自分は魔法も超能力もないごく普通の日本の一般家庭に生まれ、何の変哲も無い学生生活を送り、18だか19だかで死んだということだけだった。
さて、ではなぜそのような酷く曖昧な知識を元に自分が転生者であるとはっきりと自覚するにあたったのか。それは自分に常人にはない異能が備わっていることを理解したからである。
春日野家というのは古くから存在する退魔師の家系であり、今の自分の家族はその分家にあたるそうだ。しかし、本来血筋に受け継がれる霊能力というものは時代が経つにつれて薄まっていったようで、親戚の中でそれを継承した人間は祖父だけだった。だが、自分は先祖返りということで強い霊感が備わっていた。
小さい頃はまだよかった。自分は前世の知識を思い出しておらず、この現代日本には妖怪のような類はどうやら確認されていないらしかった。人を殺せるレベルの悪霊というものも存在はするのだろうが、そんなものツチノコに遭遇するレベルのレアケース。自分はせいぜい常人には見えない人のような何かがふとした瞬間に見える程度。
しかし、それが脅威に感じられるようになったのが小学6年生の頃。祖父につれられ除霊の仕事を見学していた時、俺が初めて人に害をなす悪霊というものを目にした時の話だ。
はっきりと人の形をし、幼い自分ですら感じられるほどの悪意を発している悪霊を祖父や叔父が払っている中で、自分はその悪霊を目を凝らして眺めているうちに奇妙な感覚を覚えた。辺りの景色が歪みはじめ、色彩も滲んでいる。その中で異常なまでにはっきりと見える悪霊の身体には、例えるならば「線」としか形容のできないものが浮んでいるではないか。その頃にはもう前世の知識を思い出していた自分はその線に心当たりがあった。襲いかかる最悪の予感や、とめにかかる親戚の声を無視してでも自分はそれを確かめるために悪霊へと近づき、その線を爪の先で
突然のことに唖然としている祖父や駆け寄ってくる親戚を目にしながら与えられた情報を整理し記憶と照らし合わせてみる。不思議な線、視覚、掻き消えた幽霊。サブカルチャーにはそれなりに精通していたためその正体は簡単に思い浮かんだ。
あ、これ詰んだわ
そんなこんなで自分が異能を持って異世界に転生したことを自覚した俺は、同時に親戚一同にも霊を浄化する力を受け継いだ子供だと認識されてしまった。
分家の子供が唯一退魔の力を受け継いでいるというのはそれなりに問題にもなったようだが自分が家を離れたくないという意思をはっきりと両親と祖父母に伝えたところ、紆余曲折あって時たま本家に呼ばれるだけで実家で生活を送り続けることができるようになった。
正直そこら辺の記憶は曖昧なのは自分がそれどころではなかったからである。
直死の魔眼。その能力は厨二病を患っていた時に多少調べていたため記憶はある。
目に見えた線や点をなぞるだけで相手を殺すことのできる超能力。
まて、皆が言いたいことはわかる。
そう、何を隠そう自分は型月ニワカなのである。
その手の作品で触れたことのあるのは
これは非常に危険な事態だ。仮にこの世界が型月の世界観の場合、異能持ち転生オリ主には数え切れないレベルの死亡フラグが襲いかかるであろう。いや、もしかしたらフラグすらなしに殺される可能性すらある。
幸いにもまだこの世界が型月時空であると確定したわけではない。両親や祖父に魔術のことをそれとなく尋ねてみたら笑いながらその存在を否定されたし、自分自身も目を凝らせば発動する魔眼以外に自覚できる異能力はない。
しかし、安心はできない。魔術というものはたしか表には出されないものであったし、仮にこの世界が型月時空でなくても自分のような異能力持ちの転生者が複数存在するかもしれない。
死ぬのはごめんだ。自分の目標は幸せな人生を送ること。そのためには非常に慎重な行動が求められる。
見てろよ神様。例え泥水啜ってでもこの異世界でいきのびてやるからな。
主人公の持つ力は直死の魔眼もどきの別物です。
それと主人公はニワカオタクであったためガヴドロは未読未視聴、存在すら知りません。