「んじゃ、今日の授業はここまで。明日から本格的に教科書入ってくから予習忘れんなよ」
4限終了のチャイムが鳴ったことにより、数学教師が授業の終わりを告げた。関係ないのだが、この教師なんで室内でグラサンをかけているのだろうか。スキンヘッドも相まってそっちのスジの人にしか見えない。
あの後、サターニャに連れられて保健室へと運ばれた自分は事情を説明し、1時間ほど休息を取ってから授業に復帰した。遅れて教室に入った際にラフィから話しかけられたので多少注目を集めたが、その後は問題なく授業を受けることができた。
胡桃沢=サタニキア=マクドウェル。冷静になって考えれば彼女もなかなかに奇抜な人物だ。
名前はラフィやガヴリールと同じミドルネーム。服装は学校で許可されているとはいえ初日から指定外の真っ黒なシャツにリボンではなく真っ赤なネクタイを締めていた。
しかし、正直彼女を警戒する気は起きない。それはもちろん弱っている自分に手を貸してくれたことや、先にラフィやガヴリールと出会っていたこともあるのだが、それ以上に彼女からは特筆して述べるよう霊力を感じなかったからだ。
いや、あの時はガヴリールの気に当てられて感覚が鈍っていたため断定は出来ないのだが。それでも、少なくとも2人のような異常な力は持っていないはずだ。
後は……まぁ、ドSに比べれば中二病の方がまだマシだよねっていう。
中二病と言えば、彼女は自分とは違い典型的なタイプの方であるようだ。自らを大悪魔と名乗り、世界征服を目論むという設定。普通の人なら引くかもしれないが、彼女の場合はあの可愛らしい容姿に、所々見える優しさや気のいい雰囲気が相まってうまくキャラ付けされていると思う。いや、アニメや漫画じゃあるまいしキャラ付けなんていうのは失礼かもしれないが。
なんだか話をしている時に眷属だか下僕だかに認定されたようだが、正直あれもありなんじゃないかと思ってしまった。結構話してて気が合うタイプのようだし、自分もその手の話は嫌いではない。それに容姿は整っているし、出るところも出ていたような……。
うん、決めた。さっきの設定をもし彼女が覚えていたとしたら付き合うことにしよう。下僕といってもせいぜいパシリの真似事ぐらいだろうし、その程度美少女が相手だと思えば大した問題では……
「はーーーるーーーひーーーこーーー!一緒にご飯食べましょーーー!」
……問題ではないと思っていた時期が僕にもありました。
他クラスからとつじょ大声をあげてやってきた少女の姿に驚き、教室が静まり返る。
呼ばれた名前は?春彦?確か春日野春彦という生徒がいたはずだ。
皆の好奇の視線が自分に集まるのを感じる。
これはまずい。急いで周りを見渡すと皆が一様に唖然とした顔でこちらを見ていた。いや、それはまだリカバリーが効く分構わない。問題はラフィだ。
あ、終わった。とてもキラキラした目でこちらを見つめている。
「あー、いたいた。おーい春彦!お弁当持ってきたから一緒に食べましょ!」
あの女の子と春日野春彦との関係はいったい何なのか。授業が開始してまだ2日目。クラス内の人間関係もまだ定まっていない状況で、わざわざ他クラスに来るほどだ。皆が考えることは同じだろう。
そんなもの俺が知りたい。
いや、まて、動揺している場合じゃないぞ。あの
「あー、サターニャ?一緒に飯食うのは構わないけどとりあえず外にで
バン!
誰が机を叩いた音が自分の言葉にかぶさる。
恐る恐る音の発生源を辿ってみると、そこには椅子から立ち上がりこちらを見つめるラフィエルの姿があった。
やめろ。もうやめてくれ。頼むから余計なことをしないでくれ。
「春彦くん……その子とはいったいどのような関係なのでしょう……?」
まず俺とお前の関係はなんなんだ。
えっ、白羽さん?なんで春日野くんのことを名前呼び?これってもしかして修羅場?
静まり返っていた教室がかすかにざわつき始める。
「いっ、いや、ラフィ?ちょっとおちつk」
「ふんっ。春彦はこのわたし、胡桃沢=サタニキア=マクドウェルの第一の下僕なの。あなたこそ一体何者よ!」
詰んだ。
サタニキア、お前に羞恥心は存在しないのか。なんで状況を理解していないのに無駄に対抗心燃やしてんだ。
「わたしは春彦くんのお友達です!それより春彦くん!下僕とは一体なにごとですか!はっ、もしやそういったご趣味が!?」
「いや、違うからな。頼むから話をk」
「そうよ!春彦は今朝、この偉大なる悪魔、サタニキア様と契約を交わしたの。それよりわたしはあなたが一体何者かって聞いているんだけど?」
なに?俺この場に存在していないの?いちいち言葉を被せないと喋れないのかこいつは。
つうかなに勝手に肯定してくれてんだ。たった今俺がドMであるとクラスメイトから認定されてしまったぞ。
「……っ!白羽=ラフィエル=エインズワースです。それより、サターニャさん!?契約って一体なにをしたというのですか!?」
「えっ!?それはその……あれよ!胡桃沢家に代々伝わる契約の儀式的な……えーっと……とにかく!契約は完了しているのよ!残念だったわねぇ、ラフィエル?」
「いや!お前なんもしてねーだろ!?なに適当なこと言ってくれてんの!?」
「うるさいわよ春彦!あんたは黙ってなさい!」
「そうです!春彦くんは黙っていてください!」
「っ……」
周囲からの冷たい視線と、2人のあまりの気迫に思わず押し黙ってしまう。ああもう無理だ。どうにでもなれや。
落ち着いたところでラフィエルが切り出す。
「ですがサターニャさん?あなたは今朝春彦くんと契約を結んだだけなのですよね?」
「そうよ!それがどうしたっていうのよ?」
「ええ。何を隠そうわたしは昨日春彦くんと一緒に下校し、今朝共に登校したのです。共に過ごした時間はわたしの方が上。これでわたしの
「なっ!?」
一緒に下校?そう言えば昨日途中でいなくなっなような。私今朝一緒に歩いているところ見かけたよ。えっじゃぁ白羽さんと春日野くんの関係ってやっぱり?殺すぞ春日野。
おい待て、最後のは駄目だろ。
ああ、なんで俺は入学2日目にしてクラスメイトから殺害予告を食らってるんだ?俺がいったいなにをしたっていうんだ。
「ふんっ!確かにわたしと春彦はまだ契約を交わしたばかりよ。でもこれからは2人でたくさん
「なっ!?悪いことですって!?そんな破廉恥なこといけません!」
「ああもう、誰か俺を殺してくれ……」
「こんにちは〜。あの、このクラスに……って、えっ!?なんですかこの状況!?」
2人の無意味な押し問答は、今朝の春彦の様子を心配して見に来たガヴリールの手によって、やっと納められることになるのであった。
なんだかんだで10話です。
活動報告欄に簡単なご挨拶とアンケートを載せていますので気が向いた方は目を通していただけるとありがたいです。
10話を通して作中で1日半しか経過していないこの小説ですが、軽く読めるを目標に書いていきますので、これからもよろしくお願いします。
あと、投稿頻度は不定期です。