そこのところはオリ設定でやっていきます。必ず駄天させますのでご安心を。
「んで、悪事を働くって具体的になにすんのさ」
サターニャに連れられ、勢いよく教室を飛び出した自分とラフィであったが、特に当てがなかったのかブラブラと校舎をさまよっていた。
「ん〜、そうね……。あんた達はまだ悪行初心者でしょうし、まずはわたしがお手本を見せるからよーく見てなさい!」
悪行初心者ってなんだ。
疑問を抱く自分とは対照に、ラフィはにこやかな笑顔で拍手を送っている。
「おいラフィ、そんなことしてるとあいつすぐ調子に乗るぞ」
「え?ああ、乗らせようとしてやってますから。安心してください」
「お前……」
昼の一連を体験した上で何を安心しろって言うんだ。
不安を抱く自分をよそに、サターニャはどこからか取り出した眼鏡をかけ、キメ顔でこちらこちらに話しかけてきた。
「そこ!勝手に喋らない!良い?今からわたしが行うのはC級
サターニャは高らかにこちらに宣言する。
これから一体なにが始まるというのか。皆目見当もつかない自分は、彼女から発せられるプレッシャーに思わずゴクリと唾を飲む。
こちらの様子に満足したサターニャは、近くの空き教室の掲示板に貼ってあった移動教室の予定表を勢いよく剥がすと、それをくしゃくしゃに丸めて自動販売機用のゴミ箱へ投げ捨てた。
「は?」「えっ?」
思わずラフィと自分の声が重なる。
今サターニャは一体何をした?いや、それは見ていたからわかるのだが。こいつ始める前にC級だとか悪魔的行為だとか刺激が強すぎるだとか言ってなかったか?
今の行為が宣言されたそれだと信じられない自分は、戸惑いながらもサターニャの方を向く。
あ、あってるっぽいわ。全力でドヤ顔してやがる。
「え〜っと、サターニャさん?今のがその……悪魔的行為なのですか?」
「そうよ!どう?この流れるような悪事2連コンボ!まぁ、あなた達にはまだ理解できないのかしらね?この
うっわぁ……うっぜぇ……。質問したラフィエルだが、笑顔のまま額にうっすらと青筋を浮かべている。自分ですら思わず強く拳を握り締めるが、急いで気を落ち着かせる。
「……ちなみにさ、どれとどれの2連コンボなのかおしえてくれない?」
「はぁ?そんなん見せた通りよ。大丈夫春彦?もしかしてまだ体調悪い?」
急に視界が歪み始める。無意識のうちに魔眼に力を入れてしまったようだ。
いや、落ち着け春彦。こいつはこういうやつなんだ。朝を思い出せ。彼女は弱っている自分を保健室まで運んでくれた心優しい少女ではないか。
「そっ…そっか……。ごめんよサターニャ。それでさ、本当にわかんないから教えてくれないかな?」
「えー、もう、仕方ないわね。あんまり自分でやったことを説明するのはスマートじゃないから嫌なんだけど…」
「そこをなんとかさ、ね?」
しょうがないわね、とサターニャは呆れ顔で説明を始める。
「いーい?まずわたしはこの教室の掲示板に貼ってあった、生徒に伝えなければいけない重要な情報が書かれたプリントを剥がしたの。このままだと、新学期が始まってまだ完全に時間割を把握していない生徒達は困ることになるわよね?ここまで大丈夫?」
「…………おう」
なんでこいつは一々癪に触る言い方しかできないんだ。
「そして!そのプリントを自販機のペットボトル用ゴミ箱に投げ捨てたのよ!」
「これで仮に誰かが異変に気付いたとしてもプリントを探し出すのは困難!」
「しかも本来まとめてリサイクルされるはずのペットボトルに不純物を混ぜることでこの地球の環境にも致命的なダメージを与えることに成功したのよ!」
「どう!?最高に悪魔的な行為でしょう!!」
無駄に大げさな手振りとともに、サターニャの口から畳み掛けるように放たれた言葉の意味を反芻するようにつぶやく。
つまり……あれか?これで生徒も先生も困っちゃうねーってことなのか?
「ぷっ…ぷくー、流石ですね、サターニャ様!」
「ん?案外見所あるじゃないラフィエル!あなたをサタニキアブラザーズの長女に昇格させるわ!んで春彦!あんたは長男から次男に降格ね!あっ、でも安心しなさい。こらからの働きに応じて序列は変動するから、精進することね!」
なんだサタニキアブラザーズって。いつから俺はこいつの義兄弟になったんだ。そもそも男は俺1人しかいないんだから長男から次男に降格って意味わかんねぇよ。ってかやっぱサタニキアブラザーズってなんなんだ。
「……なぁ、サターニャ」
「うぇっ!?な、なによ…」
サターニャの肩に手を置き、無理やりこちらの方を向かせたところで、まっすぐと彼女の目を見て話しかける。
「今のがC級
「そ、そうよ!どう?あまりのスケールの大きさに恐れ戦いた?」
どっから湧いてくるんだその自信は。
「んじゃB級は?」
「えっ?それは……そうね、例えば学校にゲームを持ってきて休み時間にやるとかー、後は後は授業中に音楽を聴くとかかしら?」
高校生かよ。いや、高校生なんだけど。悪魔要素どこ行きやがった。
「……それじゃA級は?」
「んー、遅刻とか……授業中にゲームとか……」
「…………それ以上は?」
「えっ、それ以上?あんたなんて恐ろしいこと聞くの……。誰かが座ろうとした瞬間に椅子を引くことね……。でもこれは超ド級悪魔的行為。実践すれば魔界追放も免れない禁忌だわ……」
ダメだ、もう耐えられない。
肩に置いていた手を背中に回し、ゆっくりとサターニャの体を引き寄せる。
「にゃ!?ちょっ!?あ、あああああんた!いきなりなにすん「サターニャ」……なによ……」
彼女を軽く抱きしめ、落ち着かせるように背中を優しく叩いてから震える口でなんとか言葉を紡ぐ。
「これから……これから…みんなでいっぱい悪いことしような……?」
「はぁ!?ってあんたなんで泣いてんのよ!?意味わかんないんだけど!?ってかまず離しなさいよ!ちょっ、ラフィエル!助けなさいー!」
「(何なんですかね、この状況)」
夕暮れ時の学校、人気が減り静寂が支配しようとしていた廊下に少年の嗚咽と少女の困惑の声が響き渡る。そこには、喜劇の類に愉悦するラフィエルでさえ困惑させるような、狂気的な空間が出来上がっていた。
サターニャの抵抗虚しく、それらは春彦の嗚咽が止まるまで続くのであった。