転生オリ主ドロップアウト   作:クリネックス

17 / 17
dropout-4

サターニャ達と出かける当日。山奥の廃校に向かうということで一通りの道具をリュックに押し込んだところで時計を眺めると、針は8時50分を指していた。待ち合わせは家から15分ほど離れた舞天島駅に9時30分に集合することになっているので、早めに向かうとしてもあと15分は余裕がある。

 

身につけるもののチェックはした。ジャケットの内側には刃を落とした短刀が一本。それから、念のため祖父に送ってもらった魔除けの札も3枚。後は財布とハンカチとスマホ。これだけあれば問題ないだろう。

 

用意も済ませ、中途半端に余った時間をどう過ごすかと悩んだところで呼び鈴が鳴った。インターファン越しに相手の顔を確認してみると、そこにはラフィの顔があったので急いで玄関の扉を開ける。

 

「おはよラフィ。もしかして朝食べにきた?」

「あー…いえ、そういうわけでは。早めに目覚めてしまったので時間を潰すために寄ったのですが、それでもまだ余裕がありますね」

「俺も準備済ませて暇してたところだし、もう行っちゃおうか。荷物持ってくるからちょっと待っててくれる?」

「わかりました。ごゆっくりどうぞ」

 

 

 

♢♦︎♢

 

 

 

「それにしても春彦くんは結構大荷物ですね」

 

家を出て駅へと向かって歩いている中、ラフィが話しかけてきた。

確かに自分のリュックはあまり余裕がなく、外から見ても膨れている。一方ラフィはリュックを背負ってはいるものの、中に荷物が詰まっているようには見られない。

 

「あー、うん。ロープとか懐中電灯とか入ってるから」

「ロープですか?」

「一応廃墟に行くわけだし、何かあったら洒落にならないでしょ?ネットで調べた災害セットっぽいものは一通り詰め込んだんだ。どうせサターニャは用意してないだろうし」

「んー、確かにそうですね。どうしましょう、わたしも懐中電灯とお弁当ぐらいしか持ってきていないのですが……」

「複数必要になることはないだろうし問題ないんじゃない?それよりも大切なのは服装だけど、見た所動きやすそうな格好はしてるし大丈夫だと思うよ」

 

ラフィの今日の服装はジーンズにTシャツ、その上にパーカーを羽織るというシンプルなものだ。靴もスニーカーを履いており、山を登るのにも問題ないだろう。

 

関係ないのだが、女の子ってなんで私服になると急に可愛くなるのだろうか。いや、ラフィはどんな服装でも間違いなく美少女なのだが。それでも彼女と知り合ってからしばらく経ちある程度は慣れたと思っていたのだが、いつもと違う格好だとついドキッとしてしまう。

てかTシャツがやばい。いつもの制服にセーターだとギリギリ気にならないのだが、Tシャツだと彼女の豊満な胸の膨らみがもろに強調されている。

ダメだとはわかっているのだが悲しいかな男の性、無意識のうちにそこに目線がいってしまい、慌てて前を向く。

 

動揺した自分の態度に気づいたのか、ラフィがからかうような笑みを浮かべながら話しかけてきた。

 

「ふふっ、どうですか春彦くん?このシャツとか新しく買ってみたんですけど、似合ってます?」

「……いいんじゃない?かわいいかわいい」

「むぅ、つれない反応ですね」

「いや、褒めてるのに。じゃなきゃどういう反応すればいいのさ?」

 

もういいです、と言うとラフィはプイッと顔を背けてしまった。

胸を見つめてしまったことといい、余りデリカシーが足りてなかったのだろうか。

不安になり何か言葉をかけようと思ったところで、ため息まじりにラフィが話しかけてきた。

 

「はぁ……初めて会った時のうぶな春彦くんは一体、どこにいってしまったのでしょうか……」

「……多分ラフィに殺されたんだと思う」

「そんな!わたしが何をしたっていうんですか!?」

「自分の胸に手を当てて考えてみなよ」

「え〜、胸ですか?もう、春彦くんのえっち!」

「そういうとこだぞおまえ。そういうところだからな」

 

確かに今までの人生でまともに女の子との関わりがなかった自分は、彼女と知り合って数日は不意の女の子らしい仕草にドギマギしていた。しかし人間とは慣れる生き物なのだ。自分の弱点に目をつけたラフィがそっちのネタで毎日からかってくるうちに中途半端な羞恥心などは消え去ってしまった。だがそれのおかげで今はもう軽く流せるほどのスキルは身についた。

彼女ができたわけでもないのに女慣れしてしまった事実が、なんだか枯れてしまったようで虚しく感じられる。

 

落ち着いたところでラフィが話しかけてきた。

 

「まぁ春彦くんって、それでいて結構女の子慣れしてますもんね。サターニャさんをいきなり抱きしめられるくらいには」

「いや、だからそれは違うんだって」

 

痛いところを突かれた。ラフィか言っているのは自分が初めてサターニャと出会った日の放課後のことだろう。

 

「うふふっ、あの時の春彦くんの大胆な行動に顔を真っ赤にして動揺するサターニャさんは大変おもしろ……いえ、可愛らしかったですよ」

「申し訳ないことしたとは思ってるよ……でもさ、勘違いしちゃうじゃん。だって軽いイタズラレベルのことを悪いことって喜んでんだよ?複雑な家庭環境なんじゃないかって思っちゃうじゃん?」

「まぁ、ですがそれを感じてすぐに行動に移る春彦くんも春彦くんだと思いますけど……」

 

ジト目でこっちを見つめてくるラフィ。

自分でもあの時はどうかしていたと思っているのだが、その原因の6割は彼女なのだから黙っていてほしい。色々ありすぎてまともな状況判断ができないほど疲労していたのだ。それに、勘違いとはいえ本当にサターニャに同情していたためやましい気持ちなんてものは微塵もなかった。

いや、ほんと。抱きしめた時の柔らかい感触だとか髪からふわりと漂う甘い匂いとか全然気にしてないし、特に何も感じなかったのだ。

 

「春彦くん?顔がにやけてますよ?」

「えっ!?き…気のせいじゃないかなぁ?」

「はぁ…顔に出やすいのは相変わらずですね。いやらしいことを考えるのを咎める気はありませんが、せめて周りに気を使っていただきたいです」

「違うって!別にいやらしいことなんて考えてないから!」

「はいはい……っと、あれ?あそこにいるのってサターニャさんじゃないですか?」

 

待ってラフィ、そこを流さないでくれ。いやほんとに違うんだって。サターニャに対してそんな変なこと想像するなんてありえないから。

 

……もう取り合ってもらえなさそうなので諦めてラフィの指差す方に目を向ける。そこにいたのはトレッキングウェアに身を包み、大きな山岳用バックを背負ったツインテールの女の子。

向こうもこちらに気づいたのか、手を振りながら駆け寄ってきた。

ってか誰だあの子。

 

「来たわね!遅いわよあんた達!」

「おはようございますサターニャさん。お早いのですね」

「えっ」

「ふふんっ、当然の行動よ!あなた達こそ、この偉大なる悪魔サタニキア様の仲間だという自覚をもう少し持ちなさい」

「うふふっ、ごめんなさい」

「まぁそんなことはどうでもいいんだけど。揃ったことだしさっさと移動しましょうか!」

「ええ、それは構わないのですが……春彦くん?さっきから黙り込んでどうかしましたか?」

 

困惑していたところでラフィに話しかけられた。

 

「いや……」

「いや?何が嫌なんですか?」

「いや、そうじゃなくて……」

「なによ、はっきりしなさいよ」

 

もう1人の子からも声をかけられてしまった。わかってはいるのだが、これはもう口に出すしかないのだろうか。

躊躇いながらもゆっくりと口を開く。

 

「きみさ、やっぱりサターニャなんだよね?」

「はぁ?」「えっ?」

 

2人は同時に困惑の声を上げた。

 

「なに言ってんのよあんた!まさか、わたしの顔忘れたんじゃないでしょうね?」

「いやわかってるんだ。わかってるんだけど……」

「けど?」

「……ドーナツがないサターニャって違和感ありすぎて確証が持てなかった」

「はあ!?」

 

サターニャは意味がわからないといった表情でこちらを見つめてきた。

いや、だってツインドーナツを下ろしたサターニャってただの美少女ってうか……あの特徴的な髪型に慣れてしまったぶん違和感しか感じられない。普段とのギャップも相重なって思わずときめきかけてしまったくらいだ。

 

「ちょっと!あんたそれどういう意味よ!」

「まぁ、声聞いて安心したわ。やっぱサターニャはサターニャなんだなって」

「だからどういう意味なのよ!意味わかんないんだけど!」

 

こちらの言葉に激昂するサターニャだが、見兼ねたラフィが吹き出しながらなだめてきた。

 

「ぷっ……まあまあ、サターニャさん。春彦くんはいつもと違う可愛らしい格好にびっくりしちゃったんですよね?」

「うぇっ!?か…かわいいって、なに言ってんのよ!?」

「ん?まぁそだね。かわいいかわいい」

「なにその態度!?冷めるの早すぎでしょ!?」

 

いや、だってこのくだりさっきやったし。熱くなりかけた心も話してみたらいつものサターニャで安心したというか、治ったというか。うん、やっぱりサターニャはサターニャだ。

 

1人で勝手に納得し終わったところでこらえていた笑いが落ち着いたのか、ラフィが未だまくし立てるサターニャを沈めにかかった。

 

「ふぅ……わたしは満足しましたし、そろそろ移動しましょうか?予定していた電車も来ますし」

「あ、ほんとだ。ちょうどいい時間じゃん」

「ちょっと!?わたしはまだなにも納得してないんだけど!」

「悪かったってリーダー。ほら、引率たのむよ。危ないところに散策に行くんだからリーダーが引っ張ってくれないと」

「えっ!?り…リーダー……?」

「そうですよ?サターニャさんが計画を立てたのですから。頼りにしてますからね、リーダー」

「ふ…ふん!仕方ないわね!ほら2人とも早くしなさい!遅れたら置いて行くわよ!」

(ちょろいですね)

(ちょろすぎるだろ)

 

自分とラフィが投げかけた冷めた目線に気がつかないほど高揚しきったサターニャは、軽い足取りで駅のホームへと向かっていった。

ちょうどその時電車の到着を告げるアナウンスが流れ、自分たちもその後を追うのであった。




最近の感想、返しそびれてしまいすいません。
このお話も結構引っ張っちゃってますが、あと3話程度で終わらせる予定です。

全然関係ないんですけど小説書くのって結構難しいんですね。参考にしている小説になかなか近づけないというか……。何か短編でも書いて描写の練習してみようかなぁ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。