転生オリ主ドロップアウト   作:クリネックス

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続きました……。


厄災の予感-5

唐突に意識が覚醒する。

今は一体何時なのか、日差しはまだ部屋に差し込んでいないため予定している起床時刻よりかは早いのだろう。だんだんと頭が回転をし始める。しかし、それは決して爽やかな目覚めなどではなかった。なぜだか、心臓に重石を乗せられたかのような不快感がある。はて、この苦しみの正体はなんなのだろうか。

 

まだ半覚醒の頭で昨日のことを思い出してみる。

昨日、自分が進学した県立舞天高等学校の初登校日。入学早々ではあるが、新しいクラスで少し浮いてしまった。しかし、今更少し浮いたくらいでここまで引きずる自分ではない。よってこれが原因ではないな。

その後はどうしただろう。スタバで適当に携帯をいじった後、ぶらぶらと街を散策して時間を潰していた気がする。そして確かその時に……

 

その時に?

 

「……」

 

ああ……ああ……。そうだ。そうだった。

悪霊を除霊をする姿を同じクラスの白羽さんに見られ、そしてそれを取り繕うためにとんでもない醜態を晒してしまったのだ。

 

いや、しかしどうだったか。あの後、白羽さんと一緒に下校をしたのは覚えているのだが、気が動転しすぎていて具体的にどのような会話をしたのかを覚えていない。何か他にまずいことをしてしまっていたか。いや、何事もなく家にまでたどり着いた気がする。自分は普通ではいられなかったが。

ああ、もう思い出すのも億劫になってきた。

 

回想を行うにつれて春彦の意識は完全に覚醒していったが、どうにも目を開ける気にはならなかった。

白羽さん昨日のアレ引いてるかな。いや、でも終始和やかな雰囲気で帰宅できた気もするぞ。案外自分の気にし過ぎなんじゃないか?そんな訳ないか、自分が逆の立場だったら完全に引いてる。むしろ通報されていないのが奇跡だ。だけどよく考えてみろ。確か家の近くまで一緒に帰れた気がするし、少なくとも向こうは気にしてはいないのではないか?いや、自分の頭のおかしい言動を見られていたのは確かなのだ。しかし彼女は終始楽しげな雰囲気を醸し出していた気がするし……

 

「ふぅ………」

 

長めの深呼吸を行い頭を落ち着かせる。動悸や自己嫌悪の憂鬱な感覚は治ったが、こんどは無気力感がどっと春彦を襲った。

もう全てがどうでもいい。こんなもの無理して学校に行く必要もないだろう。よくよく考えれば自分はおそらく祖父の仕事を継ぐことになるので学歴なんか関係ないじゃないか。もういっそのこと明日から本家に引っ越して修行を頼んでみようか。いや、やっぱりどうでもいい。もう一回寝よ。

不安や焦りからか予定していた起床時間からかなり早めに目を覚ますことになった春彦は、面倒なことから現実逃避を決め込み再び眠りに落ちるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……きろ…

 

何かが聴こえる。でもなにもする気が起きない。瞼を上げる気もしないし、音の正体を確認する気も起きない。

 

……きろって……ってんだろ……

 

うるさい。思わず唸り声が出る。かけられる声によって中途半端に意識が覚醒し始めてきた。不快な感覚だ。

 

「起きろっていってんだろこのバカタレが!」

「っ………!」

 

軽めの拳骨が眉間に落とされた。痛みはほとんどないが、急なことで驚いて飛び起きる。急いで目を開けるとそこには……

 

「……おはようございます、お母様……」

「はい、おはよう。目が覚めたならさっさと着替えて降りてくる。ご飯すぐにできるよ」

 

慣れ親しんだ顔が目の前にあった。

春日野静。自分の母親だ。名前は静なんて淑やかな字面だが、自分には昔から容赦がない、サバサバとした性格だ。もっと名前に引っ張られてくれてもいいのに。もうちょっと甘やかされたい。

 

いや、そんなことはどうでもいい。今は母に自分の気持ちを打ち明けねば。

 

ゆっくりと立ち上がり、まっすぐと母の方を向いて言葉を紡ぐ。

 

「母さん、俺学校行きたくないんだ」

「ぶっ殺すわよ」

 

胸倉を掴まれて体を引き寄せられる。ってか母親が息子に殺すとか言うなよ。怖すぎるんだよ。

 

「いや、待って、違うんだ母さん。ほんと今回は事情が事情なんだよ。ほんと話だけでも聞いてくれ」

「事情ってあんた……。まぁ聞くだけ聞いてあげるわ」

 

呆れたような声が返ってきたが、どうやら話は聞いてくれるようだ。しめた、ここまできたらいけるぞ。シリアスなオーラを出しつつ慎重に喋るんだ。仮にもこの女は母親。息子が真剣に悩んでいると知れば無下にはしないだろう。

 

「俺高校デビューに失敗したんだ。クラスでも浮いてる。心に深い傷を負ってしまったから、もう高校は退学して爺ちゃんとこに行くことにします。今までお世話になりましたお母様」

 

神妙な顔で母さんに告げる。決まった。

……なぜだ。割と強めの拳が腹めがけて飛んできた。

 

「入学早々なに馬鹿なこと言ってんのよあんたは、まったく……」

「うっぐ……」

 

痛みから思わずうずくまる。こいつやっぱ頭おかしいんじゃないか?実の息子に腹パンとか聞いたことないぞ。児童相談所に駆け込んでやろうか。

 

自分のことを完全に棚に上げて馬鹿なことを考える春彦に、静は呆れた顔で話しかけてきた。

 

「はぁ……馬鹿やんのはそこまでにしておきなさい。あんま待たせる(・・・・)と悪いじゃない。さっさと支度しなさい」

「……ん?」

 

待たせる?はて、自分は何か待たせているものがあっただろうか。犬の餌……は毎日朝早くに母親があげている。他に何か待たせる…待たせて悪いと感じる事があっただろうか……?

 

自分の困惑を読み取った母親は、ニヤニヤとした嫌な顔で話しかけてくる。

 

「いやぁ、あんたも案外やるじゃない!さすが私の息子。昨日、真っ青な顔で帰ってきた時はほんとどうしようかと思ったけど、お母さん安心したわ」

「あの……要領を得ないんですけど……」

 

なぜだろう嫌な予感がする。とてつもなく大きな。

体感したことのある寒気と恐怖に怯える春彦に静かは続けて答える。

 

「ラフィエルちゃんって言うの?あんな可愛い娘と仲良くなるだなんて、春彦も中々隅に置けないじゃない!ほら、せっかく迎えにきてくれてるんだし早く降りてきてご飯食べなさい。コーヒーだけであんまり待たせるのも悪いでしょう?」

「あっ(察し)」

 

死んだ。たった今春彦の心が死んだ。

母親は今自分に対してなんと言った?ラフィエル?迎えにきている?これは一体何事なのだ?

 

唖然とする春彦を置いて静は部屋を出て行ってしまった。

春彦は震える体を抑えながらなんとか制服へと着替え、洗面を済ませてから、1階にあるダイニングへと降りる。

するとそこには……

 

 

「おはようございます、春日野くん」

 

満面の笑みを浮かべる天使(悪魔)のような美少女がいた。

なぜだ。なぜこの女が自分の家にいて、自分の母親と談笑しながら優雅にコーヒーを飲んでいるのだ。って言うかそもそもなんで俺の家の場所を知っているんだこいつは。

 

「なんで、って…。もう、春日野くん忘れちゃったんですか?昨日一緒に家の前まで帰ったじゃないですか!」

 

ぷんぷんと軽く頬を膨らませながらラフィエルは答える。

いや、そもそもこの女ナチュラルに人の心読んでないか!?なんで他の文に対しての返答をしてるんだ!?

 

「まったく、もう、春日野くん?人の心なんて読めるわけないじゃないですか?春日野くん結構思ってること顔に出てる事が多いので気をつけた方がいいですよ」

 

自分が思っているが顔に出やすい人間だと言うことは昨日のことからも十分把握してはいるが、それにしても相手が自分の心を読んでいるか疑問に思っている顔ってのはどんなものなのだろうか。

いや、もう考えても無駄だろう。そんな気がする。

 

「あー、えっと、白羽さん?あのどうして僕の家にいr」

「うふふっ。昨日別れた時に顔が真っ青だったじゃないですか。もしかしたら私が何かしてしまったのかなって心配になったんです。家が近いことは昨日わかったのでどうせだったら一緒に登校したいなって思いまして。様子を見るついでにお誘いに来たんです」

 

この女とうとう台詞(セリフ)まで被せてきやがったぞ。どこまでぶっ飛んでやがるんだ。ってか顔が真っ青だったのはお前のせいだよ。現在進行形でまた青くなりつつあるよ。

 

「そっ……そうなんだ……。ははっ、俺はもう大丈夫だよ。昨日はちょっと調子が悪くってさ。心配かけたならごめんね?」

「あら、そうでしたか!体調が良くなったのでしたら何よりです。ですが、それにしてはまだ顔色が優れていないような……?」

 

だからお前のせいだよと心の中で叫ぶが、それをそのまま口に出すわけにはいかない。

 

「あっ……朝が弱いんだ、俺。だから寝起きはいつもこんな感じなんだ」

「そうそう、この子ったら昔から目覚めが悪くって。私が起こしても中々起きないし、いつも朝はこうなのよ」

 

の割には夜更かしもするし困ったものよね、と優しく微笑みながら母が朝食を運んできた。ナイス援護。このまま適当にこいつの相手をしといてくれ。

 

「まあ、そうでしたのね。うふふっ可愛いです」

「毎日だから憎らしくもあるけどね。でも今日はあなた、随分目覚めがいいじゃない。もしかして、ラフィエルちゃんみたいなかわいい娘が来てくれたから?」

 

何ぬかしてんだこのババァは。そう言うの思春期の息子が一番嫌がるっての保険の時間に習わなかったのか?マジで親子の縁切ってやろうか。

 

「まぁ……そうっすね」

「あらまぁ、失礼しちゃうわ。でも毎日こうだとほんと助かるんだけどねぇ。明日からもラフィエルちゃんが迎えに来てくれたらなぁ」

 

だから何ぬかしてんだよこのババァ!?白々しく白羽さんの方むくんじゃねぇよ!?マジになったらどうすんだよ!?息子心労で死ぬぞ!?

いや、こいつ……母さんのこの僅かに上がった口元。憎らしい目つき。

間違いない。こいつ気づいてやがる。事情までは知らないだろうが白羽さんが息子のダメージになることに気づいてやがる。

 

「まあ!春日野くんさえよろしければぜひご一緒させていただきたいです!私も帰国したての一人暮らしで寂しかったんです。初めてできた日本での友達ですし、一緒に登校することにも憧れてたんですよね!」

 

よろしくねえよ!?なんでこいつはこいつでちょっと乗り気なんだよこの尻軽女が!女の子が軽々しく男と一緒にいたいとか言うんじゃねえよ!俺が前世の記憶持ってなかったら5秒で告白して振られてたぞ!?わかってんのか!?

いや、こいつ……白羽さんのこの天使(悪魔)のような笑み。愉悦に浸る表情。キラキラと光る瞳の奥に、かすかにみえるどす黒い闇。

間違いない。こいつ気づいてやがる。昨日のことから自分が俺のダメージになると気づいてやがる。

まずい、今の状況は非常にまずい。このままだとこの天使(サディスト)のおもちゃルートが親公認で確定してしまう。まずい。まずすぎる。こんなんもう転生者どころの騒ぎではない。長期的に自分の心が蝕まれることになる。

 

「いっ、いやぁ白羽さん?できれば遠慮しt」

「ええ!勿論構わないわ!よかったわねぇ春彦?ラフィエルちゃん来てくれるって!お母さん、春彦にお友達ができて安心したわ」

「っ……!」

 

構わなくねぇよ!?ってか痛い!見えないところで息子の足の指踏んでんじゃねぇよ!言葉が出ないレベルで痛いんですけど!?

白羽さんは白羽さんでこれ完全に気づいてるよね!?だって顔が愉悦で歪んでるもん。なんか心なしかツヤツヤしてるし!

 

「構わないわよね?春彦?」

「ハイ、モチロンデス」

「うふふっ。よろしくお願いしますね、春日野くん?」

 

あぁ、救いは存在しないのだろうか?

 

死んだ目で抗えない現実をなすがままに受け入れた春彦は、これからの自分の生活に絶望し、目のハイライトを静かに消すのであった。




今度こそ厄災の予感は終わりの予定です。
次回からはみんな大好きあのキャラを登場させる予定。

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