「んだよ、この学校広すぎだろ。浜松にこんなん作るとか税金の無駄ってレベルじゃねーぞ……」
ラフィ達と別れた後、強まりつつある頭痛に耐えながら保健室を探していた。
しかし、今日は舞天高校へ入学してまだ2日目。各教室の場所を未だ把握しきれていない自分は、無駄に広く、そして入り組んだこの高校の構造に悪態をつきながらとりあえず人気の少ない通路を選んで歩くことをにしていた。
直死の魔眼を完全開放したのはいつぶりだっただろうか。魔眼の使用には脳に負荷がかかるため、大抵は限定開放で留めていた。相手を強く見つめ、気持ちを切り替えてから魔眼に力を入れるとうっすらと線が浮かび上がるのだ。この方法だと、使用後も疲れ目程度でおさまるので問題はなかった。
しかし、完全開放となるとそうはいかない。一瞬でも気をぬくと狂いそうになるあの地獄のような風景。殺人を覚悟した状況ならまだしも、日常生活での使用には無理があったようだ。
しかし、ガヴリールのあの凄まじい霊力はいったい何だったのだろうか。なにせ、自分の五感が狂うレベルの膨大な力だ。人間が持つそれとはあまりにも格が違いすぎる。
だとしたら御愁傷様である。自分の知る限りこの世界に人ならざるものは、せいぜい悪霊程度しか存在しない。そんな世界でエクスカリバーやエヌマなんちゃなんてなんの意味もなさないだろう。自分の直死の魔眼も大概ではあるけど。
使い道があるとしたら……なんだろう?博物館に寄贈するとか?でも魔法も存在しない世界でそれが本物だと信じてもらえるのだろうか。無理だろうなぁ。やっぱり使い道なんかないのか。ナイス前世の俺。神様転生を経験したのかどうかはわからないが、ご都合主義の直死の魔眼は最悪ではないチョイスだ。でも欲を言えば手から石油を出す力とかの方が欲しかった。
まぁ結局のところ、あの2人の正体を疑ったところで知識のない自分には答えなぞ出るわけがないのだが。考えるだけ無駄なのだろうな。
昨日今日で濃い時間を過ごしすぎたが、その結果が良い方向に転んでくれてよかった。2人とも友達になれたし、これからの学校生活は楽しみだ。
「あーーーーー。あーーーー。もう無理、限界、死ぬ、死んじゃう……」
適当なことを考えて痛みから意識を逸らしていたが、そろそろ限界のようだ。耐えきれない頭の痛みに思わずその場でうずくまる。幸いにも、この近くには生徒がすぐに使う教室はないようだ。ホームルームまではまだ20分近くあるし、少しここで休憩することにしよう。
冷たい廊下に腰を落とし、体操座りの姿勢で頭を抱える。痛みは弱まるどころか更に増す。これ以上時間が経てば頭が爆発するのではないかと不安になるが、経験上そのうち治ることはわかっているので呻き声を上げながら耐え続ける。
「ん?ちょっとあんた、大丈夫なの!?」
どれくらい時間が経っただろうか。実際には2、3分だろうが、耐えている間はその何倍もの時間に感じられた。痛みは治る気配はないのだが、声をかけられたことで意識が覚醒する。声の主に体を揺すられながら、なんとか言葉を絞り出す。
「いや……ちょっと持病の偏頭痛が……時間経てば治るから……」
「へんず…よくわからないんだけど、こんなとこにいてもどうにもなんないでしょ。保健室行きなさいよ」
「……場所わかんなくて……」
頭を上げて話しかけてきた女生徒の顔を確かめる。深紅の髪を後ろで二つにわけ、リング状にまとめている。前髪には蝙蝠の髪留めをつけ、充血ではなく淡い赤の瞳を持った可愛らしい顔立ちの女の子だった。
「うぇっ!?あんた……あー、もう。しょうがないわね」
向こうはこちらの顔を見ると少し驚いた様子だったが、その後自分の体を起こし肩に手を回してくれた。
「ごめん……ありがと……」
「ほんとよ全く、この大悪魔たるサタニキア様から手を貸してもらえるなんて。感謝しなさい人間」
口調は尊大だが、それなりに鍛えて体重もある自分の体を支えながら歩みを揃えてくれるところから優しさが感じられる。
「君……こんなとこで何してたの……?」
「君じゃなくて胡桃沢=サタニキア=マクドウェル。この私が直々に名前を名乗ることを光栄に思うことね」
「ごめん、サタニキア…マクドナルド…なんちゃらさん?俺は春日野春彦……」
「いやその間違い方は無理があるでしょ!?私の名前は胡桃沢=サタニキア=マクドウェル!次間違えたら地獄に落とすわよ!」
「そっか……ごめん……バーガーキングさん……」
横を向くとモスバーガーさん(仮)は額に青筋を浮かべている。
はて?自分は何かしてしまったのだろうか。ダメだ、頭が痛すぎて何も考えられない。
「それで、その…ロッテリアさんはこんなとこで何してたの……?」
「あんたわざとやってるでしょ!?わたしのこと馬鹿にしてるでしょ!?本当に捨てていくわよ!?」
「ごめんごめん……えーっと、胡桃沢さん?」
「はぁ……、サターニャでいいわよ。ここに来ていたのはこの学校の構造を知るため。わたしはいずれこの世界を手中に治る存在。まずは手始めにこの学校を掌握しなければならないでしょ?」
「………………………そっか」
「?なんかやけに溜めが長くない?」
「頭痛のせいだよ。頭が痛すぎるのが悪い」
そ、そう?とサターニャは納得してくれた。
アレなのだろうか。この子はあの…アレの病なのだろうか。しかも口から出るタイプの。
いや、仮にも自分を助けてくれた相手だ。あまり残念がっては失礼だろう。
「そういえばあんた、昨日の喫茶店での
なんだデビルズアクションって。昨日の喫茶店ってことはアレか?幽霊観察のことか?こいつの想像する悪魔ってそんな平和的なものなのだろうか。
「あー……まぁ俺は
「えっ!?あんた
「ちょっと話が通じてない気がするんですけど……」
「いいから行くわよ我が眷属!下僕の面倒を見るのも主人の務め、ちゃんと保健室まで連れて行ってあげるから安心しなさい!」
「あっ……これは通じてませんね……間違いない……」
自分のことを下僕認定したサターニャは、肩に回していた手を離すと無理やりおんぶし、全速力で廊下をかけて行くのであった。
一方その頃ラフィエルは。
「ガヴちゃん!?何やら春彦くんのもとで面白いことが起こっている予感が!」
「ラフィ……?」
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