段々、字数が減っているような気がしますが、単に切りやすそうなところで切っただけです。
眼の前に広がるのは大海原、その上に広がる青空、白い雲、そしてそれらを横切る水平線。
おそらく地球のどこかにだってある有り触れた風景。
そしてどこにでもある食事風景。
「この魚、食っても大丈夫なのかな」
「大丈夫でしょう。多分」
シャマーラはしっかり焦げ目のついたそれに齧り付く。
毒性なんぞ知ったことかとでも言うかのように食事ペースが落ちる様子もない。
ちなみに魚は研究所から持ってきた釣具で釣ったものだ。
見た目は日本でも見たことある魚に似ている、そう水族館で見たことある。
自分がいつも食べていた魚よりもかなり鮮やかな見た目だ。
いや、見た目に抵抗感を覚えているのも事実ではあるがZi人には耐性があっても地球人にはない、ということはありえる。
不用意に手を出すのも……
「……まあ、いっか」
うまそうに食ってるのを見ているとなんだかもうどうにでもよくなってしまった。こっちだって腹が減っているのだ。
一応この辺りは最初にいた施設の荒野と違って木々だって多少は生えているし、そこには木の実ぐらい実っているかもしれない。だが何を選んでも同じことだ。
どうせどこから食べ物を持ってこようとこの惑星のものには俺にとって未知の食べ物であることは変わらない。
そうやって自分に対して適当に言い訳して串に刺さった魚を一口。
意外においしい。
日が沈み月が目立ち始めた。
今晩は此処で野宿だ。
まあ、食べ物がない荒野よりはここのほうがマシだろう。
それこそ寒くなったらゾイドの中で寝ればいい。
今夜中にこれからどうするのかを話し合う……いや、土地勘のない俺が口出しすることもないだろうから、シャマーラがこうだと決めたらそれに従うだけになりそうだ。
そうやって他人任せにできれば、どんなによかったか。
「タカナリ。今後の話をする前に知っていてほしいことがあるの」
彼女は何かを決心したふうに口を開いた。
「知っていてほしいこと?」
彼女は頷き、続ける。
「かつてこの大空には三つの月があったの。大昔にすでに一つなかったから私は二つの月しか見たことないけど」
「……今は」
「今は空には月が一つだけあるでしょう?昔はそうじゃなかったのよ。月が一つ……落ちたのよ。この大地に」
「月が、落ちた?」
「原因は知らない。私が見たのは月が砕けるその瞬間まで。でもきっと沢山死んでしまった、人も、ゾイドも、一つ目の月が砕けたときもそうだったらしいから。だから……」
ここまで言われて初めて彼女の言いたいことがわかった。
施設からこの海沿いの林まで人はおろか、人工物らしき跡すら見当たらなかった。
「だから、何処へ行っても人っ子一人いないかもしれないって、そういうことか?」
「……かもしれないってことだけは覚悟しておいてほしい。私は破片が大地に落ちるところまでは見ていないから今回の月の喪失がどのような影響を及ぼしたかはわからないから」
正直、あまりに衝撃的で本当のことを言うと月のことについては実感が持てない。
地球の月は一つだし、今見える月も一つ、俺からすればこちらのほうが自然だ。
だが、これで彼女がコールドスリープしていたことやあの並べられた棺がなんなのかはっきりわかる。
俺と彼女はある意味同じだ。
見知らぬ世界に放り出されて、何処に行けばいいのかわからないのだ。
俺は何処に町があるのかわからない。
彼女はまだ町があるのかわからない。
何が“シャマーラがこうだと決めたらそれに従うだけ”だ、暢気なこと考えやがって。
「……」
「……」
両者無言の時間が続く。
「……わかった。とりあえずそのことも踏まえて明日はシャマーラの知ってる町があったところや人がいそうなところを巡ってみたいんだけど、どうする?」
最初に口を開いたのは先に無言の時間に耐えられなくなった俺だった。
「そうね、それがいいかもしれない」
その後、日が昇ったら、ストームソーダ―で上空に飛んで周りを再確認することになった。その上でなかったらどうするかを大雑把に決めて二人ともコクピットで寝ることになった。
寝たところで状況が好転するとは思わないが、今は眠ったほうがいいだろう。
明日はどうなるのかなんて、わからないのだから。
朝、いや、日が昇りきってしまっているから昼に近いだろうか。
「しまった。寝過ごした」
慌ててコクピットを降りると釣竿と魚をたんまり入れたバケツを持ったシャマーラが戻ってきたところだった。
「おはようタカナリ。今日は随分遅い起床ね」
「……おう、おはよう。大漁じゃないか」
「起きてからずっと釣ってたからね。タカナリはいつまでたっても起きてこないし」
起きて早々嫌味を言われてしまった。
もしかして、ずっと釣りをしていたのだろうか。
寝過ごしたのは事実だが、待たずに一人だけで飛んできてもよかったと思うのだが。
「悪かったよ。コクピットにしては意外と心地よくてね」
「そう?別に寝やすい感じじゃなかったけど。まあ、そんなことはいいから昼食にしましょう」
「そうだな。生き残った人達を探すついでに魚以外の食べ物も探そう。いくらおいしくてもこのまま魚ばかりじゃさすがに飽きる」
腹の調子が落ち着いてからストームソーダ―を浮上させた。
前に座っているシャマーラが。
今回はとりあえず上空から地上を見渡してみるだけなので、燃料――いや、ゾイドが生物であることを考えると燃料というのもおかしいかもしれない――が勿体無いというシャマーラの意見もあって俺のストームソーダ―は林に待機だ。
先程までいた林の開けた場所が遠くなっていく。
俺はこのマグネッサーで浮く感覚が何故か好きだ。何というかフワッと浮いていく感じがする。まあ、今回はかなりの高度をとるので、全部マグネッサーシステムだけで浮いていくことはできない。浮力が得られる高度に限界があるらしいからだ。
「タカナリ、見て!海の向こう」
考え事をしている間にシャマーラが何かを見つけたようだ。
海の向こうと言っても釣りをやってた海岸の対岸ではなく、そこから見て左側の大地の向こうの海、そのさらに向こう、そこには緩やかな曲線を描く地平線が広がっていた。
「あれ、大陸か?」
「そんなはずない。あんなところに大陸があるはずない」
それは俺もなんとなくわかる。
彼女に見せてもらった地図にはあんなところに陸はなかった。まして今見える範囲から考えてもあれは間違いなく大陸並みの大きさがある。
もう驚き疲れているので、彼女ほど混乱していないが困惑はしている。
真下の大地を見る。人工物らしきものは見当たらない。少しの緑と広大な死の大地が広がっている。ほかには何も見えない。
こちらにはある筈のものがない。
「……行ってみるか?」
“もしかしたら何かあるかもしれない”そう思って訊くと彼女は頷きだけ返した。
何となくあの大地に招かれているような気がしていた。
時は変わって某所。
デスクワーク。と言ってもこの部屋に紙媒体はあまりに存在せず、恐らく地上の人間が見てもよくわからない機器を扱うものばかりのこの場所に一人の女性が慌てた様子で入ってきて一番奥にあった机の前で停まる。
「パラ部長。旧西方大陸の辺りでゾイドが飛んでいるのが確認されたって本当ですか」
その女性は自分の上司に問う。
かつて西方大陸と呼ばれた地域に、空が飛べる野良ゾイドは確認されていない。そして人が移住したことも確認されていない。
そうするとその飛行ゾイドはなんなのか。
本人は軽く訊ねたつもりなのかもしれないが、机に身を乗り出している時点で周りからそうは見えないだろう。
本人は気付いてないだろうが。
「なんだ、もう噂が飛び交っているのか」
「
「本当だ。そのうえ現在、新大陸方面に進路を向けている」
「あれ?今回はやけに正直にお話になるんですね」
意外そうな顔をする部下に苦笑しながらも、上司は椅子に背中を預けてから告げた。
「最高評議会は彼らが何者であろうと関係なく、地上に妙な影響を与えることを懸念している。それで今回の件、うちの部署から人を割こうと思う」
「へー、調査ですか。誰にやらせるんですか。今暇そうなのだとロンですか?」
「いや、お前の後輩にやらせる。情報収集には長けているうえ、ちょうどよい場所にいるようだしな。内容はすでに連絡済みだ」
「そうなんですか、あの娘に。そういえばゾイドの名前は判明してないんですか?」
女性が机から手を離した。
一番聞きたかったことが聞けたので多少落ち着いたのだろう。
「その確認も兼ねた調査だ。もっとも今回の、旧西方大陸エリアの調査については私やお前も動かなければならなくなるかもしれないがな」
何はともあれ今は唯、彼も彼女も報告を待つばかりである。
図書館の蔵書は紙媒体だったし、ソラシティって紙使ってないことないよね。
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