(習作)終末の痕跡   作:雑兵(仮)

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思ったよりも進まない。


5話 その矢を射た者は誰だ

とある交易都市の一角にある商館の中。

灯りを使っていない所為か少々薄暗い。

窓から入ってくる日の光だけがこの部屋唯一の光源だが、今はまだ日も高く、この部屋の主達にはそれで十分なのだろう。

部屋の中では二人の男女が机を挟んで向かい合って座っている。

 

「それで、例の件はどこまでわかっているのかな」

「……それを訊きに来たのですか?」

 

面倒くさい、とでも言わんばかりだが、男も慣れたものでそのまま受け流す。

男は商人としてここにやってきたことになっているが本当のところは違う。

とある組織に所属するエージェントである。

向かいの女の方もそうなのだが、彼女は商人としての自分が性にあっていると考えている節があり、商人としてやってきたと思っていた男が本業の話を始めた時点で面白くなかった。

 

「それもあるけど、部長が言うには君は連絡をたまにサボるらしいからね」

「そうですね、彼らが何者なのか、何が目的でこの大陸にやってきたのか、未だわからず仕舞いといったところです」

 

サボりに関してはスルーした。

どうせ、己の知的好奇心を抑えられなかったので足を運んだに違いないと先の言葉を聞いた瞬間からわかっていたので社交辞令として訊いただけだった。

 

ただ、サボったのは本当だ。

どうも彼女は副業に力を入れ過ぎているのではないかと同僚の間では専らの噂である。

それでもその副業で得た“網”が使えるので黙認されているから今回の調査に彼女が選ばれたのだ。

 

「じゃあ、今回は何の収穫も得られなかったってことかい?」

 

女が少し考える仕草をした。

少しの間を空けて女が口を開く。

 

「……これはあくまで推測になるので上には報告するつもりもないのですが……二機のうち、片方の搭乗者にはゾイド戦の経験があるように思います」

 

男は思い出した。

彼女はこんな場所にふんぞり返ってはいるがゾイド乗りとしての腕前はそれなりだった筈だ。

その彼女がそういうのなら多分そうなのだろう。

 

「……へえ、それは興味深いね。片方だけに戦闘経験があるってことは、つまり、その相手がまだ旧西方大陸周辺にいる可能性があると?」

 

言った当人はあまり本気にしていない。

だが、絶対にないとは言えない。

あの地域には人は住めないし、それゆえに掘り起こされるゾイドだってありはしない。

その筈である。

それは空に住む彼らやその上司達にとっては常識であり、誰もがそう思っていた。

だからこそ今回の未確認ゾイドに関心が集まっているのだ。

普段なら踊るばかりで進みもしない議会であっさり調査申請が通ってしまうあたり相当注目されている話題なのだ。

 

「そこまでは私の管轄ではわかりません。あのゾイドが最初から旧西方大陸にいたのかどうかですらはっきりしていませんので……それにしても」

「それにしても?」

「いえ、何――」

 

彼女の言葉を勢いよく扉を叩く音で遮られた。

 

「ローレンさん!静かの都に行っていたテスラさんから緊急の手紙が――」

「内容は今確認するので入ってきてください」

 

部屋の主が皆まで言わせず入室を許可すると、現れたのは10歳くらいの少年が入ってきて主に手紙を渡すと一礼してそそくさと退室していった。

 

「今の子は?」

「意外ですね。ロン・マンガン、貴方は人には興味を示さない男だと思っていたのですが」

「そんなことはないさ。僕だっておもしろい人物には興味くらい持つよ」

 

そうですか?とあまり信じて無さそうな顔をしながら手紙の封を切る。

 

「彼は……私が商人として採った弟子です」

「弟子?」

「ええ、商人としては弟子くらい採った方がそれらしいでしょう」

 

確かに商人が弟子を採ってもおかしくはないが。

どこか釈然としないがそれよりも今は手紙の内容が気になっていたのでこれ以上の追及はしないことにして男は手紙の内容を訊ねた。

眼の前の同僚の性格からして見せたくない手紙ならそれを理由にここから追い出されているだろう。

 

「静かな都が陥落しました」

「とうとうそこまで来ちゃったか」

 

そろそろ来るだろうと思っていたのか、二人ともそれほど驚いていない。

 

「……実はここからが本題なのですが、今回の件、ディガルドの方も関心を示しているようでして、未確認飛こ……長いので私はシルエットから“鏃”と呼んでいますので以後そう呼びますが、その“鏃”の戦闘があった場所の調査をやっているみたいですね」

「ディガルドが?じゃあ奴らとは別勢力ってことは、はっきりしたってことか」

「ええ、ですがこれでディガルドの勢力圏での調査は私の商会だけではさすがに困難になりました」

「そうだね」

 

ロンにはローレンの言いたいことは分かっていた。

上司から聞いた話だと、先日、彼女は調査のためにデカルトドラゴンかザバットを寄越すように要請してきたらしいのだが、却下されてしまった。

ソラシティとしては彼女が言う“鏃”の正体が判明するまでデカルトドラゴンを筆頭とした航空戦力を動かしたくないのだ。

そのうえ、自分達の直属の上司は今、旧西方大陸に向かった調査隊に付き添っているのでデカルトドラゴンでソラシティに残っているのは一体だけだった。

 

彼女はそんな状況を利用して予算かゾイドでもまわすようにこちらからも進言しろということなのだろう。

 

「一応、僕からも上に言っておくよ」

 

実際にそれを全部調査のために使うかどうかは彼女性格からしてないだろうと、ロンは経験上そう思いながらも今後も情報を流してもらえるように便宜くらいは図っておくことにした。

 

 

 

 

ストームソーダーで地面を滑る。

 

「ふう……」

 

コクピットに居ながらも聞こえるタービン音のBGMで高ぶる心を落ち着かせる。

マグネッサーウイングで少し浮かせたまま背中のエンジンポットによるターボブーストを排気ノズルで微調節しながら、目標に一直線。両翼のソードを展開。

展開された黒い刀身がレーザーを纏う。

根本に当たる様にストームソーダーを傾ける。

紫電とは別の輝きを放つその剣は次々に獲物を屠っていく。

たまに飛んでくる破片は無視して前進。

ただ、ひたすら切っていく。

 

「さて、これくらいでいいかな」

 

雇い主に確認をとる。

モニターで確認すると雇い主が微妙な顔。

 

「……ちょっとやりすぎたかな」

 

少し調子に乗って切りすぎたか。

それでもお金は貰えるのだろうかと、不安に思いながらもストームソーダーを降りて雇い主に一応、声をかけた。

 

 

 

 

此処は城塞都市ガーゴ。

荒野の中に鎮座する城壁は城塞都市の名に恥じぬほど厚く、そして高い。

そんな巨大な壁の上に砲台代わりに並べられたモルガキャノリーの数もこの都市の武力を象徴するものの一つだろう。

見るものを圧倒すると同時にその大きさから人々に安心感を与える。

この街に来た者達は必ず最初にこの城壁の出迎えをうけて門を潜っていくのだ。

 

「タカナリ、ストームソーダーでどこに行ってたの?」

「……日雇いの仕事だけど」

 

俺には何故か怒り気味のシャマーラがお出迎えである。

俺は彼女の飯代まで稼ぎに行ってきたつもりだし、書置きも残してきた、確かに彼女を起こした方がよかったかもしれないが、なんでそこまで怒っているのだろうか。

 

「なんで怒っているのかわからない?日雇いの仕事なんてゾイド使わなくたってこの街の中で何かあるでしょ。それなのにこんな置手紙だけ残して、そもそもこれ、漢字じゃない。読めるわけない!」

 

そういえば、日本語で書いちゃったな。

クロスワードやったときも特に気にしなかったが、自然に書いた文字は日本語のままだった。

一応、日本語でも喋れることは確認しているから単にこっちの言葉が使えるようになっただけなのかもしれない。

 

残しておいた書き置きを掴んだ腕をブンブン振る彼女は“言い訳があるなら聞こうか”とでも言わんばかりだが、思慮が足りなかったのは俺の方だからここは素直に謝っておくか。

 

「考えなしの行動だった、すまない」

「そうよ、そもそもストームソーダーは私のなんだから……それに」

「それに?」

「……やっぱりいいわ。私お腹すいちゃったから早く食べましょ。タカナリ、昼はもう食べた?」

 

わざとらしく話題を変えたにこれ以上の追及はしなかった。

 

「……そうだな。お金は俺が出すよ」

「……当然よ」

 

当然とは言ったが、俺には、恐らくシャマーラもずっとこんな生活を続けていくのかなんてわからなかった。

 

今だって、海で魚を釣っていた時と変わらない。

お互い帰る場所もなく、ここに留まる理由もない。

いつまでいっしょにいることになるのかもわからない。

 

いけない。

どうもストームソーダーに乗ってないとマイナス思考になってしまう気がする。

いや、これが俺の本来の思考だっただろうか?

 

「おーい、コトナ。タカナリ見つかったわ」

「そう、よかったわね」

 

はっ?

 

そこには数日前に出会った女性が前回別れたときと同じように突っ立っていた。

因みに、その大きさの鳥を肩に乗せていて重くないのだろうか。

 

「なんでコトナさんがいるんだ?」

「タカナリを探してるときに会ってね。ついでに私達に用があったらしいから一緒に探してもらってたのよ」

 

てっきり前回の件でできるだけ接触を控えるもんだと思ったがどういうことなんだ。

今日のコトナさんは前回別れたときと比べると機嫌がいいように見える。

シャマーラと何か話したのだろうか。

 

それにしても用事?

 

「俺達に用事って?」

「……ここじゃあ話せないから、移動しましょう」

 

そういって個室のある料亭……いや、レストランだろうか雰囲気的に、へやってきたわけだ。

 

先に、注文を済ましてから話が始まった。

 

「で、コトナさん。ここまでして聞かれたくないことって?」

 

態々個室まで用意したのだから余程のことなのだろう。

 

「そうね、少なくとも私にとっては」

「ん?」

「ねえ、コトナ。それってさっき私に話したこと?」

「そうよ、シャマーラには先に話したけど、ゾイドを造る技術っていうのはほとんど残ってないの。だから、この時代の人々は昔造られたゾイドを掘り起こして使っているの」

「それはこんなところで改まって話さないといけないほど重要なことなのか?」

「あなた達にとってはそうかもしれないけど、この時代ではゾイドの製造技術があったことどころか、地中に埋まっていること以外ほとんどわかっていないの」

 

コトナさんは一度間を開けてまた話し出した。

 

「でもすべての人がそうではないわ」

「コトナさんもそうだと?」

 

彼女は頷いた。

 

前回の言い回しからして、コトナさんはやはり何か知っているようだ。

 

「だから、それを秘密にして護っている人々にとってはそれを知っている私達が少々目障りになるかもしれないってことよ」

 

何故かシャマーラが先にコトナさんの言わんとしていることを言ってしまったが、言われた本人は少しホッとしているように見える。

 

「私もシャマーラから聞いて初めて知ったことが幾つかあったわ。タカナリは本当に空より高いところから来たの?」

 

空よりも高いって随分大雑把だけど、確かにそう言えなくもないか。

 

「大前提として惑星が丸いっていうのはわかる?」

「ええ、シャマーラから聞いたけど、この大地が丸いだなんてちょっと実感が湧かないわね」

「まあ、頭だけでもわかっているなら少し話そうか、俺の住んでた地球はこの大地と同じ惑星の一つで、それが空の向こうにあるんだ。俺は君達とは異なる惑星から来た者、所謂、異星人てやつなんだ」

「……異星人」

「まあ、違う惑星の人間なんて俺がいたところでも迷信の類として扱われるものだから、あんまり難しく考えずに途方もないほど遠くから来たってことで頼むよ。変に特別扱いされてもこっちが困るし」

「そう?まあ、それならそういうことにしておくけど」

 

結局、前回と説明が全然変わっていないが、同じZi人のシャマーラが地球のことを説明してもピンときてないのに地球人の俺が説明して腑に落ちるようなものでもなので大雑把でいいだろう。

 

ああ、そういえば。

 

「質問、いいかな」

 

どうぞ、と促がされたので遠慮なく。

 

「もしかして冷蔵庫とかあったりする? 食べ物を冷やして保存しておくための機械なんだけど」

 

自分でも他に聞くことあるだろう、と思わないでもないが、確かに生活品である程度進んだ文化圏ならあるだろうと期待が持てる物品ではある。

 

「ええ、似たようなものを使ったことがあるわ」

 

やっぱりそうなのか。

まあ、それでも一般的でもないんだろうけどな。

 

「タカナリはほかに何か聞きたいことはないの?」

「じゃあもう一つ」

 

ここは厚意に甘えるべきだろう。

 

「ここから東の海際辺りまでに影響力を持ってる商人または商会に心当たりないかな」

 

東の海は俺達が渡ってきた海だ。

俺達にちょっかいをかけてきているのは、賊の話を信用するなら彼らを焚き付けた商人であり、ストームソーダーの移動範囲から考えて都市の領主である可能性はまずない、結局、賊に話を持ってきた商人達の上にいるやつが一番怪しい。

コトナさんは俺達よりはこの辺に詳しそうなので何か知ってないかと思ったのだ。

 

「商人か商会?そうねえ、私もこの辺りに来てあまり経ってないからあまり力になれないわ」

「ああ、なら仕方ないか。じゃあ、今度そういう話を聞いたら教えてほしい」

 

そもそも必ずしも有名な人物だとは限らないが、自分でも街聞き程度はやってみるかな。

 

「タカナリ、それって賊を差し向けてきたやつの話?」

 

いつの間にかデザートを食べ始めているシャマーラが言った。

 

「まあ、今のところこれくらいしか手掛かりがないからね」

「何の用か知らないけど、そういう相手に手を出すのは止した方がいいんじゃない?」

「もう手を出されてるから今更だよ、拙かったら夜逃げするさ。俺は定住する理由もつもりもないから」

「まあ、私のストームソーダーFXにかかれば大したことないでしょうし、コトナが心配しなくても大丈夫よ」

「それならいいけど……」

 

それから、自分の住んでたところとどこが違っただの、どこが同じだとかの話になり、ついでだからと賊からは聞けなかったこの辺りの情勢などについて話していた。

 

「そういえば、二人とも何やって生計立てていくつもりなの?」

 

コトナさんがふと、話題を変えた。

 

正直、耳の痛い話だ。

以外なことにシャマーラは旅慣れてはいるが職に就いたことなどなく、俺も大学内の短期バイトを少ししたくらいでしかない。

お金がないと食っていけないがその経験が不足しているのだ。

そのうえ、シャマーラはどうもその辺の危機感が欠けているような気がする。

当人は自給自足で何とかなると思っているのかもしれないが。

 

「今はまだ日雇いの仕事をやってるけど、いつかは職を探さないといけないと思ってる」

 

日雇いと聞いてシャマーラが訊ねてきた。

 

「そういえば、タカナリは何処に何しに仕事に行ってたの」

「ん?言ってなかったっけ、難民が増加したから木材が不足してるらしくて、木を切りに行ってたんだ」 

 

俺がそう答えた途端、シャマーラの表情が目に見えて険しくなった。

 

「……私のストームソーダーで木を切ってたの?タカナリ」

「あ、ああ」

「……ちゃんと木屑や葉っぱはとっておいてね」

 

そう言うに留めてそれ以降黙ってしまったが、寧ろ、そこまで言って怒らないのが逆に怖い。

 

気まずい沈黙。

 

「……えっと、二人とも」

 

空気が徐々に悪くなっていくのを見かねたのかコトナさんが口を開いた。

 

「よかったら一緒に仕事する?」

 

その言葉の後、今回はちゃんと内容を聞いた俺達は一応少し考えてそのお誘いに乗ることにした。




ガーゴのイメージは割と出鱈目です。
まあ、ルージ達がハラヤードに来たときにはすでに陥落したこと以外で語られることもないですし。
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