詰まってました。
「あれ、ヤクゥ達だけかい?」
茂みの中から現れたバンブリアンのコクピットから降りて、辺りを見回したがいると思っていた人物はいない。
其処にいたのはヤクゥとドクゥの二人と彼らのグスタフ。彼らは知己の商人、そして本業の関係者だ。
「ん?なんだロンか。ローレンならさっきガーゴに向かったよ」
「どうせ、今あの娘が担当してる話でも聞きたかったんだろ」
ロンは頭を掻く真似で誤魔化す。眼の前の商人にはバレバレの様だ。
「まあ、お望みのモノはあるんだ」
そう言ってヤクゥはロンに厚めの本を一冊手渡した。
「それの間に挟んであるんだとさ」
「ヤクゥ達は中を確認しなかったのかい?」
「開いてみな」
「成程、確認できなかったのか」
本を開くと其処に入っていたのはソラシティ製のメモリー媒体だった。勿論、地上の機械では情報を閲覧することはできない。
「馬鹿言うんじゃない。そんなせこいこと俺がするかよ」
「ヤクゥはローレンから直接聞いてたから――痛たたっ」
「要らんこと言うんじゃないよ」
二人の漫才をスルーしながら本を閉じた。
「まあ、二人にも用があったんだ」
「ふん、やっと決まったか。で、どいつ何だい」
ちょっと待っててくれ、そう言ってロンはもと来た道を走って木々の向こうに消えた後、すぐ戻ってきた。
ゴリラ型の大型ゾイドを連れて。
「へえ、コングなだけでも珍しいのにこいつはすごいな。見たことないやつだ」
「デッドリーコング。リーオの武器持ちさ」
「乗ってるやつはどうなんだ?」
「そっちも問題ない。ガラガ、降りてきてくれ!」
デッドリーコングの頭部が開き、大柄な男が出てきた。
「お前らがロンの言ってた商人か」
「ああ、そうさ。俺はヤクゥ、ついでに此奴はドクゥだ。アンタは?」
「俺はガラガ。雷鳴のガラガだ」
目の前は真っ暗だった。
何故か両膝を丸めてどこか狭い場所にいる。
もがいてみるが身動きが取れない。自力では出ることができない。
上を見上げる。天井も近い。座っているのに手を伸ばせば当たってしまう。
とにかくここから出たかった。
「誰かいないのか?」
試しに人を呼んでみた。
身動きが取れなくても口は動いた。
だが、返事は返ってこない。
誰もいないのだろうか。
もしかして外にまで声が聞こえないのだろうか。
いくら待っても返事はない。
自分はずっとこのままで、ただこの何もわからないままずっとここにいなければならないのだろうか。
それはいやだ。
こんなところでこのまま――
また人を呼んだ。
さっきより大きな声で。
外へ、そしてより遠くに届くように。
「誰かいないか!」
――いるが、何か用か?
今度はすぐ返事が返ってきた。
声色から性別は判らないがどこか聞いたことがあるような声だった。
だが、今は誰でもいい。
人がいるとはツイてる。
「ここから出してくれないか。こっちからは出られないみたいなんだ」
――そうか。だが、それでいいのか?私が出していいのか?外に出てしまっていいのか?
「なんでそんなことを訊くんだ?ここよりはどう考えたっていいに決まってるだろ」
何を言っているんだ?誰が好き好んでこんな狭いところに居続ける物好きがいるんだ。
こっちの状況なんて考えもしないのか、外の人は言う。
――そこよりも外がいいとは限らないだろう。私が君を出しても後悔するかもしれない。
後悔するかどうかなんて知ったことか。
そもそもここに居ることを選んでもきっと後悔する。
この声を逃せば、もう二度とここからは出られない気さえした。
「……それでも外の方がいい。ずっとこのままなんていやだ。俺は外に出たい」
――わかった。
散々渋ったくせに外の人はこっちが拍子抜けする素直に答えた。
それからすぐ、正面から縦に割れ一条の光が入ってきた。
聞き覚えのあって面倒くさい声の主の顔を拝んでやろうと、眩しさで少し目を細めながら見た先にあったのは――
「……ん?」
目を覚ますと俺はストームソーダーの中にいた。
いや、起きたときストームソーダーのコクピットにいるのはいつものことだ。
何故かここ以外では落ち着けなくてこの惑星に来てからというもの一度もコクピット以外で寝たことが無かった。もう一カ月程度この生活をやっているのでこのままでもいいかな~、なんて思っている。そのことにシャマーラは不満そうではあったが、宿泊費が浮いてお得だと言ってやったら渋々納得してくれたようである。問題があるとすれば、気付いたら後ろのシートでシャマーラが寝ていることだろうか。
「……そういえば盗賊退治に行って帰ってきたら急に眠くなって寝ちゃったんだよな」
今回はこの大陸に来て最初に賊と出くわしたときと同じくらい疲れた。
実際ガーゴでやることと言えば、ディガルドの偵察についてはシャマーラかコトナさんがやってくれるだろうし、報奨金はそのとき受け取るだろうから、旅支度くらいだろうか。シャマーラはたまに大雑把なところがあるが、コトナさんがついているのだから大丈夫だろう。
そんなわけでストームソーダーの足が地面についたかどうかぐらいにはもう寝ていたかもしれない。
ハッチを開いて外に出る。そして軽く伸びをする。
これもいつも通り、ただ今日は伸びをした瞬間立ちくらみと吐き気に襲われた。
座るのにちょうど良さそうな煉瓦の山に腰掛ける。
ストームソーダーに乗っている間は特に気にならなかったが、反動が来たのだろうか。
どういうわけか乗っている間はどれだけ速く飛んでも気にならないのだが。
少し落ち着いてから周りを見る。
ストームソーダー二機と、レインボージャークが一機。女性陣の姿が見えないから、ガーゴ領主館にでも行ったのか。
クルックーっぽい白い鳥が領主館の方に飛んでいくのが見える。俺が起きたことを知らせにでも行ったのだろうか。
入れ違いになっても面倒だし、とりあえず留守番でもするか。そもそも気分が悪いのであまり動きたくない。
「そこの御方」
煉瓦の上でボーっとしていると声をかけられた。
声のした方に顔を向けると老人が立っていた。
老人と言っても背筋はわりと真っ直ぐしていて物腰柔らかそうな、である。
「タカナリ・キリヤ様でよろしいですかな?」
誰だろうか。領主の使用人か?それとも自警団の関係者か?
ええ、そうですけど。そう返事をすると老人はそのままの様子で話を始めた。
「私はテスラといいます。しがない商人です。先日、私の商会の者があなた方に迷惑をおかけ致したようでして、この度はその謝罪に来ました。お時間を頂いてもよろしいですかな」
先日のこと、とは何のことだ?街で買い物したときに何かあったか?
気分が悪いのに勘弁してほしい。
「いきなりそんなことを言われてもよくわからないのですが。そもそも商人に迷惑かけられたことなどまったく……」
なかった……た?
いや、あったな。
テスラという名前は知っている。俺がこの惑星で知っている数少ない人名だ。
眼の前にいる人物が何者であるかやっとわかった。
思わず立ち上がって、目を見開いてしまった。それからストームソーダーの方を見る。距離は25m程、やろうと思えば逃げ切れるか?
「思い出していただけましたかな」
「……賊を差し向けてきた商人の一人だったと記憶しています。そうするとほかの名前は偽名ですか?」
「さあ、何しろ私の部下が珍しいゾイド欲しさにやったことですからそこまでは判りかねます」
眼の前の老人は多少申し訳なさそうに、それでいてあくまで事務的に答えた。
「……ご用件はそのことに対する謝罪であると?」
「そう心配成されずとも他意はございません。ゾイドから離れた瞬間を狙ったのはそうでもしないと時間を割いていただけないと思ったからでして……そもそも私の様な老いぼれ程度どうとでもなりましょう」
「それで本題は?」
「はい、お詫びとしまして何か必要なモノがあれば我が商会に出来る範囲ならば取り寄せてみせましょう。勿論、無料です」
信用できるかどうかは置いておくとして言ってることは別におかしくない。謝罪のために最大の誠意を示しているってことなんだろう。好意的にとらえれば。
「……もう謝罪そのものは受け取ったので今回の様なことがもう二度とないと約束してくれるのならそれだけでいいですよ。契約書類にして寄越してください」
「はぁ、それだけでよろしいのですか?」
「そうですね、それだけで落ち着かないのなら付け加えて、大型ゾイドのレッゲルの……一カ月分相当の現金くらいは貰いましょう」
ここで、文句ついでに色々注文つけてもいいのだが、ビームや大砲使ってくる賊を差し向けてくる人達にそれをやるのは少々おっかない。シャマーラは彼らに言いたいことがあるだろうが、お偉いさんが自ら頭下げに来たと言えば文句は言うまい。俺としてはちょっかい出してこないというのであれば特に言うことはない。
老人も若干拍子抜けた様子だったが、何か言って要求が増えても損するだけだと思ったのか、今度は何も言わなかった。
「相場はガーゴのジェネレーターの物でよろしいですかな」
「ええ。あ、それと……」
「何でしょう?」
さて、俺としてはここからが重要だ。本当は気分が悪いからとっとと帰ってもらいたいんだが、ちょっかい出してこないと保証させるものがもう少し欲しい。
「我々はこの大陸に来て間もない。色々と知らないことが多くて困っています」
「そのようですな」
「こんなご時世ですからね。何時補給が必要になるかわかりませんし、どこで取り扱っている弾薬が高品質な物かすらわかりません」
「ダンヤク……確かに、鉄の玉は場所によっては品質に違いがありますし、商会によっては取り扱っていない径行の玉もありましょう」
ん?妙な間が空いたうえに“鉄の玉”って……。いや、どう呼ぼうが構わないが。
「どこか良い商会を紹介してくれませんか?」
さすがに途中から薄々気づいていたのだろう。待ってましたと言わんばかりだ。
「先程の条件に合う商会に一つ心当たりがあります」
「では、今後様々な街に行ったとき利用したいので、商会のある街や場所について詳しく教えていただけないでしょうか」
「ふむ、わかりました。それも含めて今から必要な物を用意しますので暫しお待ちを」
テスラ老との話が終わり暫らくして女性陣が帰ってきた。
話し合いの結果、現金と商会のある街が記してある簡易的な地図貰ったことは言っておこう。流石に相談無しにお詫びの品を受け取ったのは良くないだろうから、一応謝っておくか。そう思って口を開くより前にシャマーラの声に遮られてしまった。
「おはようタカナリ。仕事取ってきたわよ」
「……」
いきなり訳の分からないことを言っているので、シャマーラをスルーしてコトナさんの方に顔を向けると彼女も苦笑いで返してきた。
「とりあえず、ここに降りてから今まで、何があったか説明してほしいんだけど」
なんで俺は謝罪しようと思ったのか。
そもそも、勝手に決めるのはどちらかというと彼女の方じゃないか。
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