「君の名は。キルヒアイス」   作:高尾のり子

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第20話

 

 

 夜12時から、キルヒアイスは三葉の部屋で手紙を読み、アンネローゼさんなら抱いても問題ないよね、と書かれていたので震える手で、それもやめてほしい、という文面の手紙を、すぐに書き出していた。後宮で、どんな体験をしてきたのか、少なくとも大きく傷ついているに違いないアンネローゼに対して、どうか、そっとしておいてほしい、彼女の心の傷が癒えるまで、という内容の文面を三葉に理解してもらえるよう、何度も書き直しているうちに夜明け前になり、やっと決定稿ができあがり、布団に入って眠った。

「お姉ちゃんは酒税法の予知夢を見たよね? その予知夢って、どんな感じだった?」

 朝9時過ぎ、四葉が部屋に入ってきた。寝不足だった三葉の目が開く。

「ぅ……はい? おはようございます、四葉」

「あ、お姉様の日か。ま、いいや、唾液を口の中に貯めて」

「……………」

 四葉が何を求めているか、いい加減わかるようになってきたので困る。

「せめて、顔を洗ってからでもよろしいでしょうか」

「濃い方がいいから、そのままで」

「………」

 仕方なく応じた。そして、問う。

「四葉、このような行為に、どういった意味があるのですか? 単なる家族の親愛ではありませんよね」

「う~ん……全部説明していいかなぁ……とりあえず、予知夢の話だけ。お姉ちゃんはさ、前に予知夢を見たことがあるはずなんだよ。酒税法について」

「酒税法?」

「前にね、私が口噛み酒を商品化したら面白いかもね、って言ったら真っ赤な顔して酒税法違反っ! って即答したんだよ。普通の女子高生なお姉ちゃんが酒税法なんて言葉を知ってるはずがないのに。これは、たぶん、予知夢を見たんだろうなって」

「……予知夢ですか……」

「で、今確かめてわかったよ。予知夢というより可能性の世界、もしも、口噛み酒を商品化すると、たしかに売れるんだけど、そのうち姉妹そろって酒税法違反で逮捕されるの。だから、やめておいた方が無難。お姉ちゃんには、漠然とその記憶が残ってたの」

「………今の行為で、それがわかったのですか?」

「うん。朝ご飯、そろそろ食べなよ。もうサヤチンさんたち来るよ」

 促されて冷めた朝食を摂り、台所を片付けていると、早耶香と克彦が夏休みの宿題をもって現れた。ほんの30分ほど宿題を三人でしていると、四葉は川遊びに出て行き、一葉も老人会の定例会議に出かけていったので家の中に三人だけになると、早耶香は甘えるように克彦の肩に頭をもたげた。

「今日は私が先がいいなぁ」

 昨日も三人で三葉の部屋で抱き合っていた。この町にはバイト先もなく三人とも帰宅部で夏休みになると、することがない。川遊びかゲームか、おしゃべりか、けれど三人とも若い熱情を健全な青少年として持ち合わせている。そして、すでに一線を越えている高校生らしく何度も何度も、したくなる。他の糸守高校の生徒たちも相手さえいれば、似たような過ごし方をしているので、夏休みに入るとコンビニでは避妊具の仕入れが増える。部活もバイトもない高校生らしく克彦と早耶香がキスを始めると、そっと立ち上がって部屋を出ることにした。そうなると、早耶香は初めて二人きりで克彦と抱き合えることに喜びを感じて盛り上がっていく。お昼まで三葉の部屋で楽しみ、昼食の時間になって一旦それぞれの自宅へ帰り、また午後から集まった。早耶香が問う。

「午後から、三葉ちゃんとテッシー、二人きりでエッチする? たまには三人よりさ」

「「………」」

 克彦に見られると、身体が熱くなるのを感じたけれど、首を横に振った。

「いえ……今日は、そういった行為は……やめておきます」

「生理はじまったの?」

「………いえ……そういう気分なんです」

 たしかに身体は求めているし、三葉から禁止はされていないけれど、アンネローゼとはしないでほしいと伝えるのに自分だけ欲求に身を任せるのは気が引けて遠慮した。克彦が残念そうに宿題のテキストを拡げた。

「たまには、ちゃんと勉強しておこうぜ」

「そうだね」

「そうですね」

 まじめに宿題を三人で進め、夕食前になって克彦と早耶香は帰り、一葉を手伝って夕食を準備し、やっと川から帰ってきた四葉と三人で食べた。

「お姉様、いっしょにお風呂に入ろう」

「………。いえ、そういった許可も、まだ、いただいていませんし」

「律儀だねぇ」

 四葉は一人で入浴すると、すぐに眠った。

 そして夢を見た。

 秋祭りの日だった。

 新米が獲れたことを祝う新嘗祭の意味合いもあるので、年中で重要な神事でもあるし町民も多くが集まっている。

 いつも通り、四葉は巫女服を着て準備を整えているけれど、三葉は自室に引き籠もって布団に潜り込んでいる。

「お姉ちゃん、そろそろ本番だよ」

「……やだ……おもらし巫女って言われるもん」

「はぁぁぁ……もう何ヶ月も前の話なのに、いつまで気にしてるの?」

「いつまでも言われるんだもん!」

「……わかったよ、陰祭りでいいからさ。巫女服に着替えて、この部屋で一人で雅楽に合わせて舞いをして口噛み酒を造っておいて。誰にも見られない陰祭り形式なら、できるよね?」

「うん………それなら…」

 渋々、巫女服に着替え始めた三葉が部屋の窓から空を見上げて言った。

「あ、ティアマト彗星……分裂してる」

「………」

 四葉も見上げると1200年に一度の彗星が割れていた。

 三葉が感動して言う。

「うわぁぁ、キレイ………。……けど、こっちに……レールキャノンみたいに……っ! 直撃コース! 四葉! 伏せて!」

 姉に抱かれるのと同時に視界が真っ暗になり、そして気がつくと、姉が死んでいた。

「…お……ね……」

 自分も声が出にくい。手足が動かせないし、そもそも手足があるのか無いのかさえ、わからない。血が流れ、その血が落下してきた隕石から染み出している何らかの液体と混じっている。

「……ああ……」

 ものすごく痛くて苦しいのに、妙に幸せな心地だった。

 四葉は夢から醒めた。

「っ……やっぱり夢か……この未来は避けないと。……あ、やっちゃった」

 ぐっしょりと布団が濡れている。生温かくパジャマと下着も濡れているし、それは血ではなかった。四葉は敷き布団を椅子にかけて干すと、パジャマと下着は脱いで洗濯機に入れ、お尻と前をシャワーで流してから新しい下着とパジャマを着て、掛け布団を敷いて夏なのでバスタオルをお腹にかけただけで寝直すために目を閉じた。

 

 

 

 三葉は捕虜交換のためにイゼルローンを訪れていた。アンネローゼとは光年単位で遠く離れていて今日中に会えそうにはない。そんな残念な気持ちで交換文書に署名していたので、うっかりジークフリード・キルヒアイスと書くところを宮水と書いてしまい、二重線で消すのも問題あるかと思い、宮水・ジークフリード・キルヒアイスになった。

「……」

 ヤンが古美術品に描いてあるような漢字を見て不思議そうにしているけれど他人の氏名に余計なことを言うのは非礼にあたるかもしれないので自重している。そもそも文書も形式的なものなので、あろうがなかろうが、ここまで来ては捕虜交換をお互いのために整然と実行するしかない。ヤンは間違わずに自分の氏名を書いて、三葉と握手するために向かい合った。

「……」

「……」

 二人が握手する。三葉は少し握力を強めにしながら言う。

「私の友達は、あなたに殺されました」

「……それは……申し訳ない」

 とっさにヤンは謝ったけれど、ここで謝るヤンも軍人として異常だったし、捕虜交換の式典上で恨み言をいう三葉は、ただの子供だった。さらにヤン艦隊では、先の戦いでの二度の追撃戦を受けた経験からキルヒアイスのことを、追撃の赤鬼、と呼んでいたりする。ダスティ・アッテンボローが腹に据えかねて口を開いた。

「そんなこと言ったら、こっちだってなぁ…」

「アッテンボロー」

「……」

 ヤンに制止されて仕方なく黙る。三葉は続けた。

「同盟って民主主義なんですよね?」

「ええ……まあ、一応はね…」

「戦争を続けたい人、何割くらいいるんですか?」

「………どうだろう……。私は、やめてほしいと思っているけれど、なかなか…」

「………」

 三葉が握力を抜いた。

「お互い、やめられるといいですね」

「同感です」

 三葉とヤンは握手を解くと、敬礼して三葉が立ち去るために背中を向けた。そして、ユリアン・ミンツと目が合ったけれど、声をかける気にはならず、そばいた女性士官に声をかけたくなったけれど、それは自制してイゼルローンの内装を懐かしそうに見上げた。

「ここに来るのは久しぶり……少し、滞在してもいいですか? 歓楽街とか見てみたいから」

「………」

 ヤンがワルター・フォン・シェーンコップの顔を見る。

「ははは、歓楽街ですか。ブラスターを預けていただき、身体検査を受けていただけるなら小官がお供しましょう」

「はい、お願いします」

 三葉がブラスターを預けるのでベルゲングリューンが異議を申し出る。

「閣下、危険です」

「それを言ったらトール・ハンマーの射程内に入った時点で危険だから」

「それは、そうですが…」

「さすがに、軍服だと目立つかな」

 三葉はシェーンコップに見張りと護衛を兼ねた随伴を受けてイゼルローンの商店街で平服を買おうとする。

「あ…通貨が……。これって銀行で交換できますか?」

 帝国マルク紙幣を見せられてシェーンコップは肩をすくめ、財布を出して両替してくれる。

「フェザーンまで行かんと交換できませんからな。手数料30%でよろしいかな」

「はい。それで」

 平服を手に入れた三葉は目立つ赤毛を同盟の文化に合わせるようハードジェルで固めて髪型を変えた。

「どう? まだ、追撃の赤鬼に見える?」

「一見してわからんでしょうな。変装して何か目的が?」

「うん、ナンパ。一晩だけなら後腐れ無いし」

「なるほど」

 とても嬉しそうにシェーンコップは微笑んだ。二人でナンパ目的で歓楽街を散歩するけれど、すぐに大混雑してタメ息をついた。捕虜交換のおかげで、やっと解放された同盟軍兵士たちも一時金をもらって歓楽街へ入ってきている。長い捕虜生活から解放された喜びは大きく、歓楽街は立錐の余地がないほどになった。

「酒だぁ!」

「自由だ!」

 表通りで叫んでいる兵士たちの影でアーサー・リンチも、ちびちびと美味そうに同盟産のウイスキーを飲んでいる。

「ここでナンパは無理かな」

「たしかに」

 二人で公園へ移動した。そして、同じ目的と事情で公園に来ていたオリビエ・ポプランと鉢合わせした。捕虜交換のおかげで男女比が、もともと女性が少ないところ、さらに激減しているので、自然と声をかける女性が重なってくる。

「お前、見ない顔だな。あ、お前……」

 すぐにポプランは気づいた。そして酔っていたので、いきなり殴りかかってきた。

「コールドウェルの仇!」

 三葉による嫌がらせのような追撃で仲間を喪っていたポプランの拳は酔っているので、あっさりと三葉に回避され、殴り返される。

「うぐっ…野郎…」

 さらに三葉は反射的に身体が動いて蹴りつける。無意識下でナンパが思ったように進まない苛立ちもあり、蹴り倒したポプランへ追加攻撃しようとしてシェーンコップに止められる。

「先制攻撃したコイツが悪いが、そのへんで…」

 強く手首を捻って止めようとしたけれど、三葉が巧みに振り払って構えると、やはり弁舌より身体が動く陸戦要員なので右手が反射的に動いて、三葉を制圧しようと投げ技に入る。

「「っ!」」

 三葉が投げ技も的確に振り払って、逆に膝蹴りを入れようとすると、シェーンコップは肘で受け止めてから、三葉の軸足を払った。

「くっ」

 三葉は空中で回転して体勢を立て直すと同時に低い姿勢からローキックを放った。それも回避されると熱くなる。ついついお互い、立場も忘れて格闘していると、さすがに憲兵が駆けつけてきた。それでシェーンコップの方が矛をおさめて問う。

「お前さん、ヴァンフリート4-2にいたことはあるか」

「え………どうかな……いたかも、いないかも…」

「オレと互角にやり合えるヤツなぞ、そうはいない。体格も似ている」

「………そう言われても……」

 キルヒアイスの戦歴をすべて知っているわけではないし、そもそも入れ替わり前のことは、たいして知らないので三葉が返答に困っているうちに憲兵が集まり、すぐに身分がバレてヤンの前にシェーンコップと連れて行かれた。

「……はぁぁぁ……」

 ヤンが深いタメ息をつく。

「まさか、護衛対象と格闘するとはね」

「つい熱くなりまして」

「ごめんなさい。でも、最初に殴りかかってきたのは、別の人ですよ」

 三葉が謝りつつ言い訳すると、ヤンは頭を掻いてベレー帽を取った。

「こちらの不手際でした。ただ、キルヒアイス提督の滞在許可は取り消させていただきます」

「……はい」

 仕方なく艦に戻った三葉はラインハルトの演説を見上げた。

「…兵士諸君! 諸君らには恥じるべきなにものもない! 恥じるべきは愚劣な指揮によって降伏やむなき状況に諸君等を追いやった旧軍指導者に…」

「ラインハルトさん、やる気まんまんだなぁ」

 演説を聞き流して、三葉は艦隊司令としての居室で一人、夕食を摂った。

「……さみしい……」

 ヒルダの笑顔を思い出すと、余計に淋しい。イゼルローンから出港して本土へ向かうと、もう艦隊指揮も重要度がさがるので居室で一人、ベッドに寝転がる。

「あ~……」

 ノルデンもいないし、ヒルダもいない。

「……男でいるの……あと、3時間か…」

 期待していたアンネローゼにも会えなかったし、ナンパも失敗した。

「うう~……エッチしたい。……男の身体って、ムズムズする……しかも、格闘戦とかも好きっぽくて勝手に動き出すし……争いとか、戦争、男の衝動なのかも……。ああ~……エッチしたいなぁ……女の子を抱きたいなぁ……そりゃ公務員も痴漢で捕まるし、学校の先生も女子に手を出してクビになるよ。この性欲の強さ、なんとかならないの?! 女の子でいるときの性欲なんて、ほわっと抱いてもらえたら嬉しいなぁくらいなのに! ああ! イライラするくらいエッチしたい!!」

 三葉は若者としてベッドの広さを持て余している。ゴロゴロと転がって手足をジタバタさせていた。

「う~! 男は狼ってホントだよ! あーっ! もう! 月経は月経で面倒だけど! こうムラムラムズムズするのも問題だよ!! おっぱい触りたいぃぃ! やりたいやりたい! エッチしたぁぁい!」

 空腹を忘れられないように肉欲が鎮火してくれない。

「っていうか、艦内なんて、ほとんど男なのに、みんな、どうしてるんだろう?!」

 三葉は居室を出ると、ベルゲングリューンの部屋をノックした。

「はっ。ヒクッ…失礼」

 ドアを開けたベルゲングリューンは酔っていた。非番な上、戦闘の予定もまずないので飲酒も許可されている。

「お酒もいいかもしれないけど……ちょっと、訊きたいんだけどさ」

「何でしょうか。ヒクッ…失礼」

「軍隊生活で、女の子を抱きたいなぁ、ってムラムラしたとき、みんな、どうしてる?」

「ムラムラですか……まあ、酒以外で、となると…」

 ベルゲングリューンは急にヒルダがラインハルトの副官になってしまった上司を気の毒に思い、秘蔵の成人雑誌を出してきた。規則では持ち込みが禁止されているけれど、そんな規則は憲兵さえ無視しているので建前だけになっている。

「これなど、いかがでしょうか」

「あ~……こういうの見るんだ。見るだけで、おさまる?」

「………。いえ、見て……こう…ご自分の手で」

 ベルゲングリューンは酔った勢いで親切に教えてくれた。わずか二十歳そこそこで上級大将にまで上り詰めた青年に多少欠けたところがあり、常人が15歳くらいで覚える技術をもっていないこともあるだろう、という年長者としての配慮だった。

「なるほど、自分で、するんだ……やってみよ」

 三葉は居室に戻ってベルゲングリューンが貸してくれた成人雑誌で試してみる。やってみると、すぐにできた。

「はぁ……すっきりした」

 すーっと身体が落ち着き、悶々とした気分が静まってくれる。

「これ重要かも。最初に教えてほしかった。ナプキンの使い方なみに重要だよ、これ」

 頷きつつ、また一時間ほどすると持て余してきたので、また対応し12時までに3回ほど繰り返した。

 

 

 

 キルヒアイスは散らかっていたティッシュを捨てると、ベルゲングリューンの所有物だと手紙に書いてあった成人雑誌も明朝に返却することにして机の引き出しに入れた。

「………規則違反ではあるけれど、次からは持ち込む方がいいのかもしれないな……」

 三葉が男性としての生理現象に悶々とするならば必要かもしれないと諦めることにした。少なくとも手当たり次第に女性士官へ声をかけられるより、ずっといいし、何よりアンネローゼのことを大切にしたい。

「……………疲れた」

 肉体的疲労感と精神的疲労感も覚えたので、艦隊の運行状況を確認すると、すぐに眠ることにした。朝になりラインハルトと超光速通信で会話する。

「捕虜交換は無事に終わっております」

「そうか。こちらも門閥貴族どもが、こそこそと動いてはいるが、大きな問題はない。………」

「他に、なにかございましたか?」

「いや……」

 ヒルダのことを相談しようかと思ったけれど、それはキルヒアイスにではなく三葉に問いたいのでラインハルトは話題を変える。

「ノルデンのことだが、お前が具申したよう、生前の戦功をもって大将とし、戦死をもって元帥とすることにした。お前とオーベルシュタインを二階級特進させたこととのバランスもあるしな」

「ありがとうございます」

「……ミツハは、こんなことでは喜ばないかもしれんがな」

「それでも、お気持ちは通じると思います」

「うむ。姉上とも一日に一度は話しておけよ」

「はい」

 そう返事して通信を終えてから、やや不安になり超光速通信の発信履歴を調べたけれど、三葉がアンネローゼへ連絡している履歴はなかった。

「よかった。……疑ってしまい、申し訳ない」

 お互いに手紙へ、すべてのことを書いているわけではないので三葉のアンネローゼへの接し方は不安ではある。けれど、昨日は何の接触もしていないようで安心してアンネローゼへ通信を開いた。

「お元気にされていますか、アンネローゼ様」

「ええ、ジークはどうですか?」

「はい、無事に任務も終え帰還しているところです」

「そう、では帰ってきてくれるのを楽しみにチョコレートケーキを焼いておきますね」

「ありがとうございます。全艦に増速するよう指令を出しておきます」

「あらあら、ご勝手な司令官だこと」

 アンネローゼと微笑み合ってから通信を終えると、やはり全艦に可能かつ安全な範囲で増速させた。自分だけでなく帰還兵たちも故郷へ早く到着したいに違いないゆえ。そして、近いうちに必ず内乱が起こり、のんびりとアンネローゼと過ごしていられなくなることもわかっていた。

 

 

 

 三葉は12時を自室の布団でむかえ、油断していたので盛大に漏らしてしまった。

「うわっ?! うわわぁ……うぅぅ…」

 克彦と抱き合うようになってから、もう無理に我慢せずに済ませていたようなのに今夜は再び丸一日我慢していたようで、もう止めようと思っても止まらないし、ヨガマットも用意されていないし、四葉もいない。

「ああっぁぁ……出ちゃったよぉ……あいつ、また律儀に我慢して……もうテッシーとエッチしたから、別に処女じゃないからいいのに。手紙に書いておこう」

 暗黙の了解でトイレ禁止を解除していたと思ったのに、我慢されたおかげで寝るところが無くなってしまった。

「……また、四葉にお願いしてみよう」

 最近は起きてきてくれない妹に朝になってから頼むつもりで、とりあえず椅子にかけて干す。真夏なので掛け布団を敷いて寝ることにした。

「お風呂、お湯あるかな」

 入浴して身体を温めると、なんだか身体の芯が熱い。尿意だけでなく女性としての性欲も抱かれたいのに、ずっと我慢していたようで男性の性欲ほどでないものの身体が疼く。入浴を終えて部屋に戻ると、長々とした手紙があった。

「ようするに、勝手にアンネローゼさんを抱くな、と。まあ、当然か」

 手紙を読み終え、掛け布団に横になると、やっぱり身体が疼いた。

「…………女の子も自分ですると、どうなるのかな……」

 好奇心もあって自分で試すことにした。

「……んっ……ふーっ…」

 男性の身体ほど急には反応しないけれど、ゆっくりと熱くなってくる。三葉は胸がさみしくなって自分の手で胸を揉み出したとき、四葉が12時を過ぎても夜中までゴソゴソと動いている姉が気になり、戸を開けた。

「っ……」

「………お姉ちゃん……」

 妹に見られてしまった。

「そんなに自分のおっぱい好きか。……あれ? これも……既視感……違う、似たようなことを言った記憶が……。お姉ちゃんは立花た…、この名前、教えない方がいいのかな。う~ん……とりあえず、今のお姉ちゃんは、お姉ちゃん?」

「早く閉めてよ!」

 妹に見られてしまった恥ずかしさで、なかなか寝付けず朝9時過ぎまで起きなかったので二階へあがってきた克彦と早耶香に濡らした敷き布団まで見られてしまった。

「「………」」

「こ、これは四葉が! 四葉が、おねしょしたの!」

 そう言い訳したけれど、四葉の部屋にも敷き布団が椅子へかけられていて濡れていた。夏なので風通しのために戸が開いていて、よくわかる。

「「二人とも………」」

「うううっ……違うよ。レモンジュースを零したの」

「「………そっか」」

 考えてみれば三葉も四葉も早くに母親を亡くし、父親も出て行った、そういう寂しさもあるのかな、と二人は解釈してレモンジュースだと思うことにした。

 

 

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