楽しんでいただければ、幸いです。
『八雲家のその後』
「――まさか、生の身に何か」
森の中。大妖怪である『八雲紫』とその式『八雲藍』は、一人の人間を心配していた。
強大な存在である二人が心配するような人間――その話だけで、一体どんな恐ろしい人間なんだと、普通なら身震いしてしまう程だろう。
だが恐らく、その本人に聞けば「俺は恐ろしくなんかない、普通の人間だ」なんて、回答が返ってくるだろう。
「その可能性は……有るわ」
「……」
二人が何故その人間を心配しているか――
その人間、日常生は、行方知らずになっていたのだ。
普段ならば、普通ならば。紫の能力『境界を操る程度の能力』で見つけ出すことは、容易い。
だが――
「駄目だわ……反応がない」
日常生がどこにいるか、分からない。
それはやはり……二人とも考えるのは避けている様だが。
それはやはり、日常生の『死』を現している可能性が高かった。
「一度、家に帰りましょう」
提案をしたのは、藍だった。
「……そうね」
紫には拒む理由もなかった。
それは、受け入れてしまったからかもしれない。
もう、日常生が見つかることはないと……受け入れたから。
*
トントン、と。包丁で刻む音が響く。
それ以外の音がない空間が、暫く続く。
「――どうぞ」
藍は先程採ったきのこで作った料理を、主人の前に出す。
藍は虚勢を張っていた。
出逢ってからの期間は短いが、その中で、とても濃厚な日々を過ごして来た仲間、というよりは家族になってきていた存在。
それが、余りにも突然に、忽然と、姿を消したのだ。
悲しく、寂しいに決まっていた。
だが、主人の前で、弱い自分を出すわけには行かなかった。
紫だって、悲しくない筈はないのだ。
どんなに長生きをしていても、どんなに精神力が強くても――
他者の『死』というものは、途轍もなく重い。
「紫様、冷めますよ?」
わざと大きな声で言う。
紫は、その声を聞いて、一拍置いてから、食べ始める。
「美味しい、わね……」
藍はとても料理が上手だものね。と誉めて上げることは、今の紫には出来なかった。
「紫様が、頑張って採ったものですから。尚更です」
自分で収穫したものは美味しく感じるという通説が有る。
それはやはり、気分の問題であるだろう。
気分が重い今は、その通説は、意味を成さなかった。
「えぇ、そうね……」
空返事。上の空。
紫が本気を出しても見つからなかった日常生。
本当なら、そんなことは有り得ることではない。
何故なら紫の能力というのは、冥界だろうが、天界だろうが届く筈のものなのだ。
だが、見つからない。
それは、『死』という感覚より、文字通り『消えた』という方が近い気もした。
「きっと、大丈夫ですよ!」
藍の心無い、根拠ない励まし。
それがどんなに無意味なものかは、紫も、言った本人である藍も、分かっていた。
分かっていたからこそ――
「えぇ、きっと大丈夫よね」
励ましあった。
嘘の励まし。
その嘘は、とても、とても、温かいもので。
目から温かい雫が零れ落ちそうになったが、必死に堪えた。
大丈夫だと、信じていたから――
本当に短いし、話が何も進んでいない……
後書きで書くのもあれなんですが、この話は読んでも読まなくてもいい話です。本当今更ですね。すみません……
今後も突発的に思い立って番外編やるかもです。でも多分意味有る番外編はやりません。ご了承ください。『番外』なので。
感想ご指摘とか、どんどん年中募集中です!それではまた次回に!