楽しんでいただければ、幸いです。
――無邪気。
邪な気が無い。と書いて無邪気である。
人間、または人間の様な『知恵』を持つ者は、皆少なからず邪な心を持つ。
それが普通だ。
逆に、長く生きていて、邪な心が無い――俗に言う、『聖人君子』の様な人間は普通ではない。
妖怪なんてチャチな物でもない。化物だ。
例え話。もし、化物が目の前に居たら、どうする?
困る?泣く?逃げる?戸惑う?叫ぶ?
化物は恐ろしいものだ。
そんな化物が化物染みた感情の者が―――――
「なぁ、これ分解していいか?」
「駄目に決まってるでしょう」
いま、俺の前にいた。
敵意を持たない分、本物より厄介である。
あぁ、そんなに落胆しないでくれ。俺は悪くない筈なのに、無意味過ぎる罪悪感に襲われるだろう。
「俺、この後用事が有るんですよ」
飽くまでにこやかに、話しかける。
「へぇー……」
無関心。
こんなあからさまな無関心は、寧ろレアもの。Sレアである。
「ここは、良い景色ですねぇ」
「へぇー……」
「最近良い事有りました?」
「へぇー……」
「……胡瓜食べます」
「有るの!」
何故、そこは異様に喰い付くんだよ。
「……『普通』、初対面の相手には御近付の印を、ね」
俺はにとりの掌中に胡瓜を出現させる。
にとりは、俺の能力に驚くこともなく、即座に胡瓜を口に放り込んだ。
「……って、一口!?」
「これだけ?」
しかもおかわり要求してきやがった。
「俺もう行っていいですか」
「行ってらっしゃーい」
「いや、俺が言いたいのはそうではなく……」
「ん?……あぁ!」
やっと気がついたか。そうそう、俺が言いたいのは。
「お土産は胡瓜でいいよ!!」
「おい」
そうじゃねぇよ。誰が態々お土産買って来るんだ。というか、さっき食べただろ。
「そうじゃなくて、パソコン返してくれって言ってるの!」
読者には伝わってないけど、もう軽く一時間以上はあれから経ってるんだよ。
俺は敬語も忘れて、にとりに要求する。
「後五分ー!」
「寝起きの学生じゃないんだから」
しかもそれフラグだよ。少なくとも俺は、その台詞を言って五分で済んだ奴見たこと無いよ。
「解った。じゃあ、少しだけでいい。パソコン貸してくれ」
「えぇー。しょうがないなぁ。少しだけね?」
「図々しい、って言葉しってる?今のあんたの状態だよ」
俺はにとりから渡されたパソコンをネットに繋ぎ、調べたいワードをタイピングしていく。
OK。勿論ブラインドタッチだ。俺の密かな特技の一つ。え、誰でも出来る?失礼しました。
俺は調べた結果の中から、必要な部分だけを覚え、にとりに返す。
「じゃ、俺が戻ってくるまでは使っといていいから」
「おぉー!太もも!」
それを言うなら太っ腹だ。
「腹が太いね!」
良い笑顔で言うな。貶してんのか。
にとりってこんなキャラだっけ?まぁ、良く知らないんだが。
疲れてきた……こいつと話していたからか。久しぶりの突っ込み担当だからか。
俺は一つ溜息を吐いてから、ゆっくり歩いていった――
「お土産、忘れないでねー!」
「買って来ねぇよ!」
振り返らずにそう叫び、後ろから聞こえてきた不満の声を無視して、今度は足早に進んでいった。
*
右足を出して、次に左足を出す。
歩く。それだけなのだが、体が重い。
「山登りなんて、久しぶりだしなぁ……」
そう、山を登る機会なんて有るものか。ただでさえ、運動は得意じゃあないのに。
どれくらい、登っただろう?多分まだ全然なのに、先程から、気にしてしまう。
つまり。もう歩きたくないのだ。
「ちょっとここら辺で休憩TIME!」
近くの岩に腰掛、空を見上げる。
「いやぁ……山から見る太陽は綺麗だな。サンだけに」
暫し見つめていたいが、目が痛いので止めて置く。
それにしても……登って来たは良いものの……一体全体どこにいるんだよ、おい。
あぁ、駄目だ。このままでは干からびる。干からびて最悪の場合死に至るよこれ。
これからどうするかを考え、苦悩していた時である。
ふと、どこかから、音が聞こえた気がした。
「……誰かいるんですか?」
音が聞こえた方に話かけてみる。
――返事がない。ただの気のせい
「待ちなさい」
――気のせいのようだ。では、済ませられなかった。
「貴方、侵入は――ってあれ?」
「……ん?何だ。射命丸か」
俺の目の前にいた少女に、俺は見覚えが有った。
――射命丸文。
鴉天狗という妖怪であり、東方Projectのキャラクターの一人である。
「あやややや。何だ、生さんでしたか」
彼女と俺は、面識が有る。
出逢ったのは、香霖堂で、だ。
あれは、確か――
*
「――ん?これ……新聞ですか?」
店の中を漁っていると、一枚の新聞を見つけた。
この世界にも、こんなものが有るのか――いや、新聞くらい有るか。江戸時代にも、瓦版とか有ったんだし。
「あぁ、それは僕が取っている新聞でね」
「へぇ……ふみあや。新聞?」
変な名前の新聞だな。
「
「どっちにしろ、変な名前ですね」
「変な名前とは何ですかー!」
「え?」
背後から声が――
と、振り向いた瞬間。俺の腹にとても綺麗なキックが極まる。
「ゲ、ハァッ!」
思わず変な声を出して、吹き飛ぶ俺。
「噂をすれば、か」
「号外ですよ!号外!」
「有難う」
「ちょっと待てや、ゴラァ!」
人に強烈な蹴り咬ましといて、何、暢気に話し続けてるんだよこいつら!
「あやや?お客さんですか?私、射命丸文と言います!」
「あ、ご丁寧にどうも。俺はここに泊めて貰ってる日常生と――って、待て待て待て!」
何、ご丁寧な自己紹介してるんだよ!つい返しちゃったじゃねぇか!
「何で俺のこと蹴ったの!?」
「私、生さんのこと蹴りましたっけ?」
「覚えてない!?鳥頭か!」
というか、もう名前呼びかよ。
「私、鴉天狗ですから!」
「本当に鳥だったー!!!」
皮肉も嫌味も機能しなくなっちゃったよ!
「冗談ですよ。私の新聞の名前を悪く言ったから――」
「あ……それは、ごめん」
思い入れが有る新聞だったんだな。俺が軽はずみなこと言ったから……
「まぁ、それは関係ないんですけど」
「関係ないの!?」
今のシリアスな雰囲気返せよ!
「ぶっちゃけ、なんとなくです!!!」
「元気いっぱい何を理不尽ほざいてるんだあんた!?」
「まぁまぁ。それよりも、ウチの新聞取りません?」
「何故この流れから商売をはじめるんだ!?」
「今ならペットボトルのジュース―――――の、『キャップ』も付けますよ♪」
「全力でいらないよ!寧ろ何故その特典で釣れると思ったのかなぁ!?」
「生さんなら、或いは――」
「いや、有りませんからぁ!?」
初対面の奴に変な期待を抱いてるんじゃないよ!
「へぇー。今度人里で祭りかぁ。まぁ、行かないけど」
「霖之助さん!?貴方は話に絡んで来ないと思ったら、何、暢気に新聞読んでるの!?」
「……え、何か言ったかい?」
「駄目だこいつ……早くなんとかしないと……」
「そうですよ!この清く正しい射命丸を見習って!」
「どこが清く正しいだ、どこが。あんたはもう俺の中で子供に見せたくない奴『No.1』だよ」
「そんな、生さんの中で『No.1』だなんて……ポッ」
「誤解を招く部分だけ切り取るな」
頬を赤らめるな。自分で擬音を口にするな。気色悪い。
「生さん」
こんどは何だ。
「責任取って、私と結婚してください!」
「何の責任だよ!」
「おめでとう」
霖之助さん!?何でこんな時だけ混じってくるの!?
「おめでとう」
「何で射命丸までやってんだ!」
「おめでとう」
「おめでとう」
「おめでとう」
「……有難う」
幻想に、ありがとう。
現実に、さようなら。
そして全ての一般人に―――――
おめでとう
*
「――というのが、ファーストコンタクトでしたね!」
「おい待て。捏造すんな」
先程の回想はフィクションだ。
厳密に言うと、最後の部分は全て。
「あ、あれー。そうでしたっけ?」
「わざとだろ」
「ふ、ひゅー、ひゅー♪」
「口笛、吹けてないけど」
全く、と。一度嘆息して、文を見直す。
「射命丸。少し、話が有るんだけど」
「何ですか?……!まさか」
まさか……?何を思って。
「やめて!私に乱暴する気でしょう?エ○同人みたいに!エ○同人みたいに!」
「……違う。少し、頼みが有るんだ」
俺のシリアスな雰囲気を感じ取ったのか、文は、真剣な顔になって俺を見つめる。
「頼み、って?」
「実は――――――――――」
「それは……私にも、沽券とか、ポリシーが」
「解ってる。分かってて、頼んでるんだ」
全て『調べた』からな。
「何故、理由を聞いてもいいかしら?」
それは、記者としての好奇心や探究心。そして、長年生きる妖怪としての、義務も込めた――
そんな詰問だった。
「単純なことだ」
「単純?」
「俺には信条が有るんだよ」
決して破ることの無い、信条が。
「どんなものか聞いても?」
「あぁ、勿論。隠す道理も見つからない」
決して変わることの無い、信条。
変えることの出来ない信条。
「俺は、普通に平凡に常識的に一般的に平和的な日常を送ることを、信条としてるんだ」
「……普通、ね」
普通以外に、何が要るんだ?
生きることに、普通でなくなる必要が、有るのか?
そんな俺の、俺自身への問いは、俺の心の中で―――――
渦巻いて、消えた。
*
「――へっくしょん!」
「おー。大きいくしゃみだなぁ。全く」
「ん?あ、帰ってきたの?」
俺の声を聞き、にとりが振り返る。
「一つ、頼みが有る」
俺はにとりがこちらを見るのを確認して、頭を下げる。
「ど、どうしたんだ?突然」
「そのパソコン。暫くは貸してやる」
「本当!?」
その姿は、まさに今にも飛び跳ねそう――
というか、飛び跳ねていた。
「あぁ、だから一つ」
「一つ?」
「寝床を――提供してくれないか?」
大丈夫だ。事は順調に――進んでいる。
新キャラパレードですね。射命丸文さんの登場です。
生が頼んだ事とは何なのでしょう?まぁいつかは明らかになるんでしょう。多分。
今回は完全ギャグパートのつもりです。ギャグって考えるの難しいですよね。
感想ご指摘、どんどん年中募集中です!それではまた、次回。