楽しんでいただければ、幸いです。
「―――――ホームレス?」
「……まぁ、そんなところだ」
遠慮しない奴……今更か。
「苦労してたんだなぁ」
まぁね。実はまだ、
期間なんて関係ないさ。大切なのは、苦労した、事実だろう?
「そうかそうか、頑張ったんだな!」
んー……苦労したってだけで、努力した訳ではないんだがな。まぁ、話が有利に進みそうだし、黙っておこう。
「それで寝床、というか家を……」
「えー……」
無理難題を言っているのは分かるが。何とかならないか?
「うぅん……」
物凄く、渋い顔してるよこの方。
「用事はもう終わったのか?」
話逸らされた。
「一応、ね」
まぁ、射命丸には逢えたし、成果としては充分過ぎるほどだ。
っと。そういえば――
「はい、これ」
俺は、大きな紙袋をにとりに手渡す。
「何これ?」
中を見ろよ。中を。
「見たらいきなり『ウワァー!!!』とか」
その『ウワァー!!!』が何なのかは分からないが……
まぁ、にとりが考えているものは、変なことだということは分かる。
にとりは俺の視線から否定を読み取ったのか、そろり、と袋を覗き込む。
「こ、これは――!?」
そう、察しの良い人なら――いや、そんなに良くない人でも気付いているだろう。
中身は。
「胡瓜だよ」
「いただきます!」
間髪容れろよ、もう少し。
「食い意地の張った奴だ……」
「ひゃっへぇ……ひゅきはからすぁ」
物を口に入れて喋るんじゃありません。
「……ごっくん。だって、好きなんだよ!」
「……胡瓜、物凄く好きなんだな」
「それはもう!!!!!」
予想通りの解答どうも。
「料理して食べたりとかはしないのか?」
「するけど……やっぱり丸齧りが一番だね!」
まぁ、分からなくはないな。味噌とか付けたりして食べると、凄く美味しいし。
後は――そうだな。漬物が好きかな。
浅漬けでも、糠漬けでもいいが……やはり、日本人と言ったら、漬物だろう。
昨今は、若者の漬物離れがドンドン進んでいるらしい。
全く、嘆かわしいことだ。
知らないのか、ご飯と、漬物の絶妙の相性の良さを。
ご飯と漬物は、嫌う人もいるが、俺は好きだ。
そこに味噌汁なんか有ると正に『日本に生まれて良かった!』と染み染み思う。
漬物というのは、誇れる文化なのだ。
誇りは、称え、大事にするものだ。
蔑ろにするものでは、決してない。
無理に食べろとは言わないが……今の若者、まぁ俺も若いんだが。
そういった人達は、それ以前の気がするんだよな。
『漬物』という存在自体を敬遠してるというか……
嫌悪感は抱いていないんだろうが。やはり、『古いもの』という感覚が有るんだろうな。
そう、何と言うか――自分達の文化として認識出来ていないというか―――――もしかして、家で糠漬け作ったりしてないのかなぁ?作者の家は、まだまだ現役で作ってるのに。
あぁ、こんなことを考えていたら漬物食べたくなってきた。
「なぁ、その胡瓜漬物にしたり――」
「もう全部いただきました!」
「嘘っ!?」
バカな……早すぎる……
「え、というか
「えっへん!」
誉めとらん誉めとらん。
まぁ……早く終わったならいいか。
「美味しかったか?」
「とっても美味でした!」
殴りたい、この笑顔。
「――あぁ!?」
「ひゅい!?」
その驚き方しか出来ない呪いにでも掛かっているのだろうか。
いや、どうでもいいんだが。
「何てことだ、河童さん!」
「……何がだ?」
「大切な胡瓜食べてくれちゃって!」
「え?いや、お土産でくれたから――」
お土産?何を言っているのだろうか?
「―――――誰が、そんなこと言った?」
「いやお前が」
「言ってないよ?」
何を勘違いしているのだろう?
何を思っているのだろう?
何を履き違えているんだろう?
「俺は言ってないよ。ただ、紙袋を渡しただけ」
「あれはお土産じゃあ――」
「違う。あれは、俺のものだ」
窃盗だ。強奪だ。食い逃げだー!ってね。
「お土産だとも、食べていいとも、一言も口にはしていないのに。河童さん……お前が勝手に食べただけだ」
「いや、あの渡され方だったら勘違いするだろ!」
おや、挙句の果てに言い訳ですか。河童というのは随分と卑怯で卑劣なんだね。おぉ、怖い怖い。
「俺もねぇ……胡瓜好きなんだよ」
「そ、そうなのか」
「同じ胡瓜好きである河童さんなら分かるでしょう?今の、俺の、気持ち」
好きなものを目の前で盗られたんだぜ、俺?
しかも笑顔で『美味でした!』とか言われるし。
「俺は全く悪くないよ?ただ、胡瓜の入った袋を渡しただけ。それだけなのに、中身全部食べられちゃったんだぜ?」
もし、そっちが俺の立場だったらどうだろう。
好きなものを手に入れて、ウキウキ気分で帰ってきて。
その後、少し持っててもらったら、全部食べられました―――――
信じられないし、耐えられないよな。
「うぅ……ごめん」
追い込まれたか。素直っていいよな。簡単で。
「いや、今回の件は、俺の説明不足にも非が有った」
俺はにこり、と笑い。
「今度は、一緒に胡瓜食べようぜ!」
と、手を出した。
「あ、あぁ!」
にとりも笑って、俺の手を握る。
所謂、仲直りの握手ってやつか?
「ま、それはそれ」
「ひゅい?」
「ごめんで済んだら、警察はいらんわ!」
「えぇ!?」
関係の修復と、関係の改善が別物のように――
仲直りは、謝罪の気持ちを求めないってことじゃないんだ。
「ど、どうすれば……」
「お嬢さん!」
「お嬢さん!?」
「ここに一つ耳寄りな情報が」
にとりは、戸惑いながらも、受けの姿勢でこちらの話に耳を傾けている。
そんなにとりに、屈託の無い笑顔を浮べた後。
「こちらの、好きなものを盗られた不憫な少年!」
まぁ俺なんだが。
「とても困って――助けを求めているのです」
「助け……?」
よし、釣れた。
「Exactly(そのとおりでございます)」
「へ?何て言った?」
気にするなよ。突っかかるなよ。
「この少年!今!家が無い!」
「うっ。それはもしかして……」
頭の良い河童さんなら、もう気付いてるくせに!
「OK!寝床でもいいから欲しいなぁーなんて!」
「そ、それは……」
「あぁ!お腹減ったな!誰かさんの所為で!」
実際胡瓜食べても、空腹が紛れるのかは微妙だが。
「―――――うぅ」
小さく、呻き声のようなものを上げるにとり。
「分かった、分かったよ!負けた!寝床を探せばいいんでしょ?」
「おや、宜しいので?いやぁ、お優しい方で助かりましたよ」
「よく言うね……」
口だけはよく回るのでね。
力も、経験も、妖怪には程遠い人間だが――
「知恵は中々だろう?」
「良くない知恵はね」
悪知恵ね。まぁ、そちらの方がよく働くって人間の方が、普通に考えて圧倒的に多いのだろう。多分、俺もその部類だしな。
「まぁ、頼みますよ。河童さん」
「一度言ったしなぁ。河童に二言はない!」
おぉ、元気がいいことだ。
「それじゃ、景気付けにどうぞ」
俺は後ろに置いてあった、もう一つの紙袋を渡す。
「何だこれ?」
「胡瓜だが」
そう、中身は胡瓜。それも、十本二十本なんてものじゃなく――
「こ、この数……私が食べたものより圧倒的に多い!どうしたの、これ?」
「言ってなかったか?俺、能力で胡瓜出すことなんて容易いんで」
「え、えぇ!?それじゃ、別に私が食べても良かったんじゃないか!」
何を言ってるんだ。
「許可を取ってなかっただろう?」
「そ、それにしたって」
「河童さん」
にとりは、俺の言葉で文句を言おうとしていた口を閉ざす。
「河童に二言はない――だろう?さっさと寝床用意してくれ」
にとりは「なっ」と、不満を漏らそうとしたであろう口を閉ざし、代わりに溜息を吐いてトボトボと歩いていった。
暫く歩いていったところで、遠くから振り返り、俺を見つめる。
付いて来い……ってことか?
俺は、ゆっくりと、にとりの後を付いて行くのだった―――――
OK、大丈夫!妖怪の山での寝床ゲットまで後少しだ!
今回はまぁ、番外編とか、オマケなんて感覚で読んでください。
因みに、この話で一番を力を入れたところは漬物の件です。
最近、終りの大丈夫の遣い方が雑になっている感じがするのは気のせいです。
感想ご指摘、ドンドン年中募集中です!