東方日常日記   作:sameragi

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もう期間を開けない様に頑張ると言いました。それにも拘らず、約二ヶ月も投稿を出来なかった事、深くお詫びします。一応、過去最高文字数になります。
楽しんで頂ければ、幸いです。


椛舞うとき鐘は止む。

聞くところに依ると、空というものは青いらしい。

そして、夕方には赤く染まり、夜になれば、一面の黒になるらしい。

多分、空というのはおしゃれ好きなのだろう。一日、同じ格好で居る事が耐えられないのだ。

だが毎日同じものをローテーションしていると考えれば、実はずぼらなのかも知れない。

実際のところ、空がどんな性格かなんて知る術は無いので、妄想するしか無いのだが。

まぁ、空に性格なんて有る訳が無い。だって、空なんだから。とでも言ってしまえば、この妄想はそこで終了である。

だから俺は、そんな意味無き意味不明議論を繰り広げたいのでは無く、ただ、昼は空が青く、夕方は赤く、夜は黒い―――――

 

その常識だけを伝えたかったのだ。

 

俺の上は、今現在、闇に包まれていた。

厳密に言えば、完全なる闇では無く、所々に光も有る。それは星だ。

この事実から推測するに、今は夜なのだ。

 

夜の、妖怪の山を――俺は回っていた。

 

比喩とか、言葉遊びとか、そういうのでは無い。

『文字通り』、俺は回っていたのだ。

 

別に、地球は常に自転しているから、俺達も廻っているんだ。なんて理論としても機能しないような戯言を吐くつもりは無い。ただ俺は、端的に現在の状況を述べただけである。

 

 

 

「――道に迷った」

 

俺は山を周っていた。

 

何故何故何故何故何故何故こんな事に?

 

 

それは当然ながら俺の油断。

あの時射命丸(シャメイマル)に――

 

『分かる所まで来たから、もう大丈夫だ』

 

なんて言葉を発したのが原因なのだ。

甘かった。自らの方向音痴(運命)を甘く見ていた。

分かる道なら迷わないなんて誰が決めたんだ。誰も決めてない。俺が決まっていると思い込んだだけだ。

 

俺の所為だから、誰にも文句は言えない。

 

空に輝く星は、自分を嘲笑っているように感じた。

 

「射命丸ー。河童さんー。(チェン)さんー」

 

この辺りの、どの辺りかには居るだろう知り合いの名を呼ぶ。

だが、返事が返ってこないから迷っているのだ。もし返事が返ってくる状況ならば、こんなところで彷徨ってはいない。

山の地理は把握し辛いらしい。だから仕方の無い事だと、自分を慰めつつ、歩いていく。

 

もう、どれだけ歩いたか。もう駄目だ。誰にも会えず、道も分からない―――――

 

 

 

こんなフラグの様な台詞を考えても、ここは現実。状況は変化無し。

 

もしこの世界が俺の人生が、御都合主義やHAPPYENDに塗れた現実(幻想)なら、ここで何かしらのイベントが発生するのだろう。

だがリアルは俺に優しくはないらしい。

 

俺には主人公補正も御都合主義も、そして勿論難聴や躓き屋等というラブコメ属性も、皆無である。

それは普通である。普通であるから仕方の無いことなのだが……柄にも無く、フラグを建てたくなる。

失敗フラグも死亡フラグも要らないが、成功フラグ恋愛フラグ――エトセトラエトセトラ。

 

 

「――それが自由に出来たら苦労しないんだが」

 

諦めた。そんな馬鹿げた事を考えている様な余裕が有るならば歩く方が良い。

小さく息を吐いて、俺は歩を速めた。

 

にとりも待たせているだろう。心配掛ける事は、なるべくしたくはない。

もう既に夜なので、手遅れだとは思うが。

 

「辿り着いたら居ない、とか無いよな……?」

 

そんなのは、とんだドッキリにも程が有る。

だが有りそうで困る。

そうならない為に俺はただ、歩くしかない。

 

無心になる様に、俺は道を進んでいった―――――

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

先程も言ったが、山の地理は把握し辛い。自分が何処まで歩いたのか、見当も付かない。

ただ、前に行ったり、曲がったりを繰り返して、体を疲れさせているだけの現状である。

能力の御蔭で疲れは無いのだが。

 

しかし、気力が回復している訳ではない。

最早俺の中では知り合いの名前を叫ぶ気力も余力も、残ってはいなかった。

 

「おーい。誰かー」

 

もう、知り合いで無くとも良いから、誰か人語が通じる相手で有れば良い。

最悪、野宿でも良い。そこを通った誰かが気付いてくれる可能性も有る。

現在、この状況に限り俺が求めているものは、普通では無くとも良い。変化だ。助かる可能性だ。それさえ見出せれば、後はどうとでもなる。どうとでもする。可能性に縋ったり、擦寄るのは、得意なんだ。

 

もう。何を考えているのか、自分でも理解出来ない様な事を考え始めたその時だった。

 

御都合主義が、起こった。

 

「――あれは……?」

 

人影。

人かは判らないが、そう見える影。

それが視界に入った瞬間。俺はそちらに向かった。全力で歩いた。

もう走る気は起こせなかったが、それでも、縋る事はするしか無かったので、なんとか、歩を進める事が出来た。

 

「あのっ。そこの……あ、れ?」

 

俺は確かに影を追った筈だが、俺が向かった先には、何も無かった。

少なくとも、人影に見える様なものは、何も。

見間違えか。幻覚か。そう思った時だった――

 

背筋が、凍った。

まるで、俺の後ろの世界が、全て、氷付けになった様な感覚に襲われた。

咄嗟に足を前に遣るが、動けない。

疲れで動けないのでは無い。首筋に、冷たさを感じてしまって、動けなかった。

鉄の冷たさ。俺の首筋に当たっていた物が、刃物で有る事を理解出来るまで時間は掛からなかった。

が。それを理解出来ても、何故、突然に、刃を当てられているのかなんて分かる筈も無い。脳をフル回転させ、必死に自分の状況を考えながら、身体を硬直させていた。

 

どれだけ時間が経っただろう。時間が止まっている気がした。それくらいに、状況に変化が無かった。

刃が俺の首を切り落とす事は無く。ただ、俺が何か行動を起こせる筈も無く。雲が流れる様子を、なんとなく、観察していた。

やっとの思いで、少しの反抗と言う様に、口を開く。

声は出ない。何を言って良いのかが分からない。

軽い調子で詭弁を吐いて遣りたかったが、そんな余裕を見せても、相手の逆鱗に触れたりして、刃を横にやられたら、そこで終了だ。

迂闊な事は出来ない。迂闊な事は言えない。

何も出来ない。少し顔をずらせば、相手の顔が見えるかも知れないが……いきなり、刃を突付けて来る奴だ。勝手な動きをすれば、どうなるか分からない。

分からない。勇気が出ない。だからと言って、何も行動しない訳には行かないが、如何せん遣る事も無い。

非常識な奴に対して、必死に常識を考えても仕方が無いかも知れない。でも、俺は何をすれば良いんだ?

……そうだな。清水の舞台から飛び降りる覚悟で話でも振ってみるか。清水の舞台から飛び降りる覚悟と言う表現を初めて遣うのが、刃を首筋に当てられた時になるとは思わなかった。

まぁどうせ、一度は失った命だ。それに、この儘彷徨っていたら、いつかは死んでいたんだ。

そうして、自己暗示を繰り返す。

ここに来てから、何度死掛けた。転生者である俺に取って、死は軽いものでしか無い。

よし。それなら、成る様に成れ。

 

「あの。俺に何の用でしょう?」

 

命が目的だ。なんて言われたらどうしようか。どうしようも出来ないね。チェックメイトという事にして諦めよう。『次回作にご期待下さい!』とでも入れて置けば大丈夫だろう。

俺の言葉に反応して、少し込めた力。刃物を持つ力が強くなった。初っ端から選択肢を誤ったのだろうか。

 

「――解っているだろう?」

 

女性の声。何だ?俺の二回目人生は女難に塗れているのか?そんなオプション設定は頼んでいない。

というか、今のは最悪な返しだ。

解るか、そんなもん。俺が何をしたと言うんだ。転生して色々有って迷っているだけだ。

そもそも、解っていたらこんなに苦労してない。こんなに時間を開けてから口を開くなんて面倒な事して無いよ。

 

「……さぁ?見当も附きませんね」

 

「……惚けているのか?」

 

酷い言い様だ。この状況で惚ける奴は多分居ないだろう。少なくとも、そんな奴はまともな人間では無い。

 

「まぁ良い。だが、私の事は忘れたと言わせない」

 

え。知り合い?

顔が見えていないから判らないが、言っている事を聞く分には知り合いらしい。

でも、こんな声。聞き覚えが無いんだが……

 

「顔を見せてくれたら、思い出すかも知れません」

 

「剣を退かせば、お前は逃げるだろう」

 

信用されて無いなぁ。一体、何をやらかしたんだ俺は。

 

「貴方の声は美しい」

 

「ん?」

 

「きっと、いや当然、必ず、貴方自身も美しいのでしょうね。あぁ!そんな人の事を忘れてしまったなんて。罪な人間です。俺は」

 

「お前……またか!」

 

また。またって何だ?

いや、前に有った事がもう一度繰り返される様。なんて言葉としての意味では無く。俺はこの女と知り合いらしい。前に会った時も、こんな話し方をしていたという事か?おいおい。本当に誰だよこいつ。

 

「すみません。俺は語彙が貧困なもので。似た様な話になってしまうのです。ですが、この気持ちは本当です。俺は貴方の顔が、貴方の美しい顔が見たい!」

 

もう良い。この儘で良い。俺のペースで持って行ければ後はどうとでもなる。

 

「嘘は吐きません。それに貴方も、この儘、俺が思い出せず話が進まないのは本意では無いでしょう?俺は今、走って逃げれる程の体力も有りません。大丈夫逃げません。保障します」

 

「……分かった。こちらを向け。剣は退けない」

 

チッ。まぁ良い。今はとりあえず、この女の顔を見て思い出そう。話を進めるしか無さそうだ。

 

剣が少しだけ首筋を離れる。だが、警戒は解けるどころか、寧ろ強まったようだ。

俺はゆっくりと、後ろを向く。するとそこには、背にピッタリとくっ付いた、白髪の女の姿が有った。

女は俺の目を、キッ、と睨み付ける。どうやら相当に恨まれているらしい。

そこで気付く。あぁ。彼女は人間では無いらしい。

何故なら、人間には犬耳なんて附いていないからな。

そして気付いた事はもう一つ。俺は彼女を知っている。

 

「犬走、椛、さん?」

 

犬走(イヌバシリ)(モミジ)

 

説明を一応少し。

初登場時は東方風神録四面中ボスキャラで、確か種族は……白狼天狗。

山の見回りをしていて、天狗の中では下っ端らしい。

能力は『千里先まで見通す程度の能力』。内容は文字通りである。

こんなところか。俺だって、ある程度は勉強してきているのだ。その為、紹介の時にwikiを引用した様になってしまうのは仕方が無い。そこに文句を言われても困るからな。建前的に『適当ですみません』と言う事しか出来ないからな。

 

ここで重要なのは一つ。俺は、彼女の事は知らないという事である。

忘れている訳では無いと思う。本当に知らない。情報は知っているが、幻想郷で、生で会ったのはこれが初めての筈だ。

だが。ちょっと待ってくれ。彼女はどうやら俺を知っているらしい。嘘を吐いている訳では無いだろう。詰まるところ、俺は記憶喪失なのだ。

 

――いや、無い無い無い。

流石にそれはフィクションが過ぎる。伏線も碌に張って無いのに。

別の可能性が有るとすれば。

 

「ストーキング……?」

 

「……」

 

「冗談です!冗談!だから剣に込めた力を弱めて下さい!」

 

完全に振り被っていた。一瞬で持って行くつもりだった。ハァッ……解ってはいたが、幻想郷(ここ)には、常識人や常識妖怪はいないのか?あぁ。この分じゃ居ないな。今後登場が期待される、幽霊や妖精。後は、鬼なんかに淡い希望を持って置く事にしよう。

 

それで。変質者(ストーカー)でも無いと。まぁ、変質者と言うなら、性質が変わって、狂っているという部分で一致しているだろうが。

 

「申し訳有りません。俺は、貴方の事を思い出せません。一体、どこで逢ったんでしたっけ?あぁ。でも。美しい方だと言う考えは間違っていなかった様です。いえ。想像よりも遥かに美しい。そういう意味では読み間違えていたかも知れません」

 

「黙れ」

 

「解りました。あぁ。僕は何故こんな美しい方の事を思い出せな――」

 

「黙れ」

 

「……分かりました」

 

圧倒的。圧倒的にこちらが不利。さらに、未だに相手の素性も目的も掴めない。と来たもんだ。素性は掴んでるけど。

 

「私の事を知らないのなら、何故、私の名を知っている?」

 

「……」

 

「……おい。何とか言え」

 

「あ。喋って良いんですか?さっきは殺気を放って『黙れ』とか言っていたのに」

 

あ。冗談です。冗談抜きで冗談ですから。だから斬るのは勘弁して下さい。俺なんて倒しても、何のアイテムもドロップしませんし、経験値0ですし。斬るだけ無駄ですって。本当。

危ねぇ。死ぬところだった。『命なんて軽いものでしか無い』とか不道徳的に格好付けたけど、そんな事遣るものじゃあ無い。

 

「お前が私の事を覚えていないのも無理は無い」

 

おい。忘れているとは言わせないとか何とか、先程の台詞は撤回ですか。この野郎。

それにしても、どういう出逢い何だ一体?忘れていても仕方が無いけど、斬りかかる程のドラマが俺と犬走椛の間でどう起こったんだよ。

 

天魔(テンマ)様」

 

「え?」

 

「天魔様と、話をしに来ただろう」

 

あぁ。行ったよ。

天魔が妖怪の山のトップだと聞いたから、というか調べたから、文を使って挨拶に行ったが。

 

「私はその話を聞いていたんだ」

 

まぁ。実際、行ったところで挨拶なんて出来る筈も無かった。そもそも、妖怪と人間とは交わるべきでは無いのだ。

確かに、行った時には天魔以外にも多くの天狗が居た。天狗以外の奴も居たのかも知れないが、見分けが付かない。

 

「へぇ……で。俺は一体、天魔様と、どの様な話を?」

 

流石にそれくらい覚えている。というか、今日の事だ。信じられないかも知れないが、妖怪の山編は、まだ一日経っていない設定なのだ。

だが、敢えて惚ける。忘れているで突き通す。理由なんて一つだけ。

 

「……」

 

犬走椛は怪訝そうに顔を歪めた。

そう。理由は一つ。犬走椛(こいつ)の反応を楽しみたい。

ここまで話を引っ張って来れたんだ。後は何とかなる。何とかならなくても、未来の俺が何とかするだろう。

だから、現在の俺は、未来で自分から恨まれる事となっても、直感で欲望で生きて行く事にしようと思った。

 

「実は俺。記憶喪失かも知れません。覚えていないのです。ですから、教えて頂きたいなぁ、と」

 

「……分かった」

 

私が見たのは。と、犬走椛はありがちに話を始めた。

知っている話を、他人の視点で聞くと言うのも、案外良い物だ。

 

「聞いているのか?」

 

「え?あぁ。ちょっと考え事してました。もう一度初めからお願いします」

 

「ハァッ……仕方が無い。私が見たのは―――」

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「――大好きです!」

 

「ハァ?」

 

告白した。

生は密かに、告白って、こんなに軽い物だっけ?と溜息を吐いた。勿論、顔は一切歪めずに。

 

「いえ、すみません!つい、思った事を言ってしまって。自分に嘘が吐けないタイプ何です。私」

 

生は、それが嘘だ。と、少し前にどこかで思った様な台詞を心の中で抑えていた。

一方の、突然に、告白された、天魔と言うと。

 

「え、えぇ?」

 

戸惑っていた。

妖怪の山なんて言う、物騒な名前の山のトップとは思えない、無様な慌て様だった。

だが、そこは流石トップを勤めている者という事か。それか、歳の所為か。顔に出すという事も無く、心も直ぐに落ち着かせて、生を見ていた。

 

「ですから。今の言葉は真の意思です!貴方の様な美しい方を見るのは初めてだ。西洋の人形の様に可愛らしく、一面の花畑の様に可憐で、季節の移り変わりの様に美麗で――」

 

これでもかと言うくらいに、相手を褒めまくる。辞書を引いて目に留まった言葉を適当に言っている様なくらい意味が解らない。解るのは、飽きる程に褒め称えているという事だけ。

だが、もう慣れたのか。天魔は殆ど戸惑わなかった。

 

「あぁ。自己紹介が遅れました!興奮してしまって。私、日常生(ニチヅネショウ)という旅の者です」

 

パンを銜えながら自己紹介をする主人公の様に、要するに爽やかに手早く自己紹介を終わらせる。何時の間にか、ジョブが旅人になっていた様だ。

 

「という訳で、お願いします!」

 

どこから出したのか。能力で出したのか。大きな花束を天魔に向けていた。

 

「どういう事で!?私は何をお願いされてるの!?」

 

限界が来て突っ込んでしまった様だ。突っ込み欲には、流石の天魔も勝てない様だ。

逆に生は思った。勝った、と。このままギャグパートとして進めば、危険な目には遭わないと。

 

「紅い薔薇の花言葉は『熱烈な恋』。一目惚れに、相応しいでしょう?全部で、108本有ります。知っていますか?薔薇は本数で花言葉が変わるんです。108本は……『結婚しよう』。そういう意味です」

 

「一目惚れなんて、惚れるのが速いだけ。冷めるのも、速いものよ……」

 

ギャグパートの雰囲気に流されたのか、それとも、昔に何か有ったのか。天魔は達観した様に、生を諭す。

 

「108本の薔薇には……」

 

「え?」

 

天魔の声を無視して、話を続ける。

 

「108本の薔薇には、まだ、花言葉が有るんです」

 

「……」

 

天魔は何も言わず、ただ、生から目を背ける事もしなかった。

 

「『尽きる事の無い愛』。この気持ちは、一生、変わる事が有りません。どうか、私。いや、俺の手を、握ってくれませんか?」

 

そっと、生は右手を差し出した。

引き寄せられる様に、天魔は左手を出す。

そして、丁寧に、宝石の付いた綺麗な指輪を、天魔の薬指にはめる。

 

天魔が戸惑っていると、生は、ニコっと微笑んで、

 

「有難う。これから、宜しく」

 

と呟いた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

「――天魔様を誑かすなど!」

 

「誑かす?誑かすって何の事です?」

 

それにしても、胡散臭いし行動が鼻に付く奴の話だ。その男は碌な人間じゃあ無いな。

 

「申し訳ありません。本当に記憶喪失の様で、本当に分からないんです」

 

「なっ。そんな嘘を!」

 

「本当です。証拠と言う訳では有りませんが、こんな夜に妖怪の山を彷徨う人間は居ないでしょう?」

 

昼でも居ないだろうけど。

 

「俺、道が分からずに、迷っているんです。本当に、ここがどこか分からないんです」

 

「何故、私の事を知っていた?」

 

「何となく、名前が出て来たんです。多分、記憶が錯乱しているのだと」

 

嘘は吐いていない。俺は迷っているし、顔を見た時、考えるより先に名前が出たのも本当だ。

 

「……」

 

あぁ。信じてないな。これは。少しは可能性として有るかも知れないと思っている程度か。

 

「ですが。他人事として聞くと、それは可笑しな話ですね」

 

「どういう事だ?」

 

まぁ、ノリがギャグだけど。その男の台詞は戯言の塊だよ。

 

「だって。その男は薔薇を渡して、薔薇の花言葉を教えて、指輪をあげて。それだけですよね?」

 

「どう考えても求愛行動――」

 

「違います。花言葉は『結婚しよう』でも、『結婚して下さい』と言った訳じゃあ無い。左手薬指は結婚指輪を嵌める位置ですが、そこに普通の指輪を嵌めてはならないという決まりは無い。『美しい』というのは、単なる社交辞令の様なものと捕えれば、どうでしょう?」

 

挨拶しに行って、社交辞令をかましながら、御近づきの印として、プレゼントをしただけだ。

 

「そんな理論が通る訳無いだろう!」

 

「でも、通す馬鹿が居るんですよ。この世には」

 

馬鹿みたいな奴が。嘘は吐いていないし、世界の決まりも無視していないと、自己を正当化したがる奴が。

もう、犬走椛は俺が記憶喪失なんかでは無いと、断定しただろう。そして多分、天魔にこの事を伝えるだろう。

だが、今のところはそれでも良い。彼女は天魔に伝える事を優先するだろうから、この場は逃れる。そして、彼女が向かった方向が天狗の拠点だ。そこの場所は何となく覚えているから、それで自分の居る位置を割り出せば良い。何だ。バッチリじゃないか―――――

 

 

 

刹那――視界が暗転した。

目が眩んだのだ。痛みで。目を開けていられなくなったのだ。

俺の身体が、ゆっくり倒れるのを感じる。微かに見えるのは、紅。紅。紅。血だ。血に塗れている。

俺は、斬られた?声が出ない。喉をやられたのか。痛みを感じている様な、何も感じていない様な、よく分からない感覚。

何故。斬られた。ここで。読み間違えた。失敗した。

簡単な話だ。俺は――死んだ。呆気無く。情緒無く。遠慮無く。俺の存在を無にする為に。

 

犬走椛が息を荒げている。もっと冷静な奴だと思ったが、カッとなってやったというものか。きっと、純粋に尊敬していたのだろう。天魔を。だから、抑えられず、許せなかったのだ。

そうか。遠慮もしていたんだ。躊躇もしていたんだ。理解もしていたんだ。ただ、許せなかっただかなのだ。

なら、俺は、笑うしか無い。笑って許すしか無い。

意識が遠退く。あぁ。早いなぁ。人生の終り。調子に乗って遊び過ぎたか。

ここは、切り抜ける場面だよ、普通。転生者が、こんなギャグパートで死亡とか、普通じゃない。異常的だ。

……あぁ。そっか。フラグ、建ってたのか。フラグを考えても建たないとか言ってたけど。

俺、言ったじゃないか『死亡フラグは要らない』って。それ完全に、死亡フラグだろ。

 

でも、最期くらい、普通で良いのにな。こんな時なのに呆れる様に苦笑していた。

幻想郷(ここ)は、最期まで、異常だった。

 

 

 

 

 

そして――意識が途絶えた。大丈夫かどうかなんて、考える間も無く、死んでいた。




『次回作にご期待下さい!』
本当に、申し訳有りませんでした。言い訳になりますが、十二月中と一月中は忙しく、それに加え、ネタが全く出ず……と。言い訳でした。すみません。次回から頑張ります。一日二十六時間ネタを考える覚悟で行きます。
今回の投稿時、機能が色々変わっていて、驚きました。世界は進化しますね。

今回は、主人公が死にました。今まで調子に乗っていた罰ですね。
椛さんについては、個人の勝手な解釈で性格を付けさせて頂きました。ご了承下さい。
ですが、本当に主人公は反省しませんね。誰か、説教してくれる人でも居れば良いのですが……
感想、ご指摘、ドンドン年中募集中です。それではまた、次回。

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