スキマさんと -出逢い-
やぁ、皆!俺だぜ、日常生だぜっ!
……うん、なんかごめん。あれだ、ノリでやった……反省はしているが、後悔もしている。
いやだが、こっちは今、パニック状態なんだ。だってさ。
「全ッ然、出られねぇ……」
瘴気にやられる前に、早く森から出ようと、歩き回り、時には走り、頑張っていたのだが……
出られなかった。それどころか、助けを求めたくても、人の気配もしない……歩けど、歩けど、森ばかりである。
ここ暫く、ずっと思っている様な気がするが、何故こんなにも転生者に対して優しくないシステムなのだろうか。神様達を呼んで、小一時間講義したい。が、今は悠長に出来るはずがないことを考えている場合ではない。
「ハァッ……疲れた」
どれだけ歩いただろう。10キロくらいか?実際測ったわけじゃないから分からないが……自慢じゃないが、俺は運動が得意ではない。本当に自慢じゃないな。だからこんなにも疲れているが、本当はまだ1キロも歩いていないのかもしれない。流石にそれは無い!と断言出来ない自分が悲しい……
「『普通』この程度歩いただけじゃ疲れないものなんだろうが……」
そう呟いた、瞬間だった。
スッと、魔法でも使ったかのように体の疲れが取れた。どうなってるんだ?ラッキーだが。
歩きながら、考えていると俺は1つの結論に辿り着いた。
「もしかして……能力の効果か?」
いや、もしかしなくてもそうなのだろう。さっき普通疲れない、とか言ったから普通の状態、つまり疲れていない状態になったって感じだろう。
そう考えると、本当にチートじゃないか……普通なら喜ぶべきなのかもしれないが、俺はどうにも喜べなかった。何故だろうか、俺にも分からん。考えるのは面倒なので止めておこう。
まぁ、もらったものを有効活用しないのもあれだから、出来るだけ役立てていきたいものだが。
それから俺は、歩く、疲れる、能力。歩く、疲れる、能力。歩く、疲れる、能力……と繰り返し、進んでいったが…
やはりというかなんというか、森から出ることは出来なかった。
体力面をどうにかしても、瘴気が体を蝕んでいくのには変わりが無い。
「ハァッ……少し座るか……」
と、近くの岩に腰を下ろす。
本当はこんなことしている場合ではないし。疲れは取れるのだから、ドンドン歩いていけば良いのだが……体力が回復しようが、精神は回復しない。このままだと俺の豆腐メンタルがヤヴァイ、ヤバイではなく、ヤヴァイ。
これから、どうするかなぁ……そんなことを考えていると、後ろからなにかの気配を感じた気がした。
ん?なんだ?……って、もしやこれは死亡フラグ!?
夜で一人で後ろから気配……普通この状況下はどう考えても死亡フラグだよな?
よくよく考えれば、ここは東方の世界。妖怪なんて普通にいるだろう。逆によく今まで遭遇しなかったものだとも思える。
待て、落ち着け、冷静になれ。こんな時、普通はどうするべきだ?
普通Lvしかない俺の脳をフル回転させる。そりゃもう、脳壊れちゃうってレベルで。ごめん嘘だ、そこまで考えてない。
考えた結果。俺が辿り着いた答えは……
「誰だ!」
普通に振り向くことでした。
いやだって俺、普通の高二ですよ?いや、元高二の方が正しいのか?いや、どっちでもいいが。
普通に振り向いた先には、金髪の女性が空間の裂け目のようなものから覗いていた。ってあれは……
「あら?ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?」
こ、こいつは確か東方キャラの八雲紫じゃねーか!!!なんでいるんだよ、おかしいだろ!!!……いや取り乱した。謝罪する。
だが、実際に東方キャラを見ると、思うことがあるもんだ。
八雲紫を見て、胸でかいなぁ…とか思った俺は普通だと思う。誰がなんと言おうと、一般人を通すぞ。
というか、原作キャラには関わらない、とか言ってたのに、もう関わっちまった……
あぁ、俺の平和が崩れない間に、こいつとは離れ、さっさと脱出した方がいいかもしれん。
「どうかしたの?」
「え?あぁ、いえ、何でもありません」
「そう?それならいいのだけれど……」
「それより、貴女はは何者ですか?」
一応初対面設定だからな、普通はこういう反応だろう。いや、実際的にこっちが一方的知ってるだけであり、初対面ではあるのだが……
「人に名を聞くときは、普通自分から名乗るものじゃない?」
一瞬、いやお前は妖怪だろ。と、突っ込みそうになったが、頑張って堪えた。だが、俺は普通という言葉には弱いんだ。ここは平凡に名乗ってやろう。
「それは失礼しました。俺は日常生、と言います。以後、お見知り置きを」
俺だって、一応初対面の相手には畏まる。というか、それが普通だろう。え、ランジェ?あぁ、あの時はパニックだったし、見た目がどうにも幼かったからな……つい、ってやつだ。
「私はこの幻想郷の管理者である、妖怪の八雲紫よ。よろしくね」
自己紹介ありがとう。知ってます。とは言えなかった。話がややこしくなるだけである。
「これはご丁寧にどうも」
「あまり驚かないのね?私は妖怪よ?」
「いえ、見た目と……気配がどうにも人間離れしていたので、そんなところだと」
いやだから既に知っていることを聞いて驚くわけないだろ。なんて台詞はやはり言えない。というか言わない。
だが、気配の事は本当だ。妖力ってやつだろうか?何か、怪しげで強い力が紫から漏れ出しているように感じた。
「ふふ、でも私が実は猫をかぶっていて、いきなり貴方を食べちゃうかもしれないわよ?」
「その時は、そういう運命だったんだと、普通に受け入れますよ」
「ふふ、貴方、面白いわね」
「褒め言葉だと受け取って置きます」
「えぇ……そうして頂戴」
「というか、貴女は僕に危害を加える気なんてないでしょう?」
「あら?どうしてそう思うの?」
紫は、少し嬉しそうに口端を吊り上げる。ランジェの笑顔とは違い、紫の微笑はとても胡散臭かった。
「危害を加えるだけなら、こんな雑談する必要ありませんし……それに、さっきから漏れている『力』わざと、でしょう?俺を怯ませる為かは分かりませんが。貴女ほどの妖怪が、不用意に、力を漏らすなんて考え辛いですしね」
もしかしたら俺は、試されていたのかもしれない。俺が「危害を加える気はないだろう」と質問した時、普通ならば少しくらい雰囲気が怪訝的で警戒的なものに変わるだろうが、紫は寧ろ嬉しそうだった。言い当てるのを待っていたように。
「ふふっ……貴方、本当に面白いわねぇ。そして『変わってる』」
紫は扇子を口の前まで持っていき、本当に可笑しそうに微笑んだ。
「有難うございます。ですが俺は、別に変わってなどいませんよ。極々普通の、人間です」
「……まぁいいわ。それより私は世間話をしにきたわけじゃないのよ」
普通の世間話をしていたとは、とても言えないがな。
「さっきも言ったけど、私はここの管理者なのよ。貴方、ここに来たばかりでしょう?」
「おや、ストーキングですか?貴女の様な美しい方に興味を持っていただけるとは光栄です」
「ストーキング、じゃないわよ?私が管理しているんだから、変化が起きたりしたら分かるわ。まぁ貴方に興味が有るっていうのは、間違ってないけどね」
「成程、失礼しました」
まぁ、良く考えれば、俺が大妖怪にストーカーされる理由なんて、どこにもない。
「それで、ここがどこかは分かってる?」
「幻想郷でしょう?」
「あら?ここにきてから私に会うまで誰とも会っていなかったのに、どうして知っているのかしら?」
ミスった!選択肢をミスしました。やり直しを要求する!だが現実は非情である。無理なものは無理だ。
「おや、貴女と出逢ったのはここが初めての筈ですが……何故そんなことを知っているんですか?」
やっぱりストーカー?
「貴方を、つけていたからねぇ」
「それは一般的にはストーキングと言うんですよ」
少し溜息を吐いた。俺は間違ったこと言ってないよな?
「だから違うわよ。それより貴方を元の世界に……」
「待ってください!この小説終わっちゃいますから!」
「何の話?」
「いえ、失礼しました。俺の脳が怪電波を受信してしまったようです」
作者からのな。
「貴方戻りたくないの?」
今更戻っても俺死んでるし、転生直後に元の世界に帰るとか聞いたことがない。
「そうですね。観光でもしようかと」
というか、戻っても行くとこ無いし。
「そう、じゃあもう終わりでいいわ」
え?早くね?あっさりOK出しすぎじゃね?
「もう、宜しいんですか?」
「えぇ、貴方、悪い人には見えないしね」
褒められているのだろうが、随分と適当な人、いや妖怪だ。管理者がこんなので大丈夫なのか?
まぁ、俺としては長々と面倒くさい話をするよりは全然いいが。
「それよりも、貴方、住むところはあるの?」
「いいえ、これから探そうと思っていたところですが……」
その前に瘴気の事もあるし、早く森から出なければならないわけだが。
「そう。じゃあ、私の家に来ない?」
「え?……貴女の家に、ですか?」
「えぇ、貴方気に入ったわ。それに、外は危険な妖怪も多いわよ?」
確かに、妖怪に襲われるのは勘弁だしな。それにそろそろ、瘴気で正気がなくなりそうだ。
なにより大妖怪の家。平和的な日常を送るためにはいいかもしれん。
「貴女が良いと仰るのでしたら、俺としては飛びつきたいような話ですねぇ」
「交渉成立ね」
「交渉と言えるんですか?今のは」
「それより、その敬語、止めてくれないかしら?」
「えぇっと……宜しいんですか?」
「これから家にも招くっていうのに、いつまでもそんなんじゃ参っちゃうわ」
それは、こちらとしても有り難い。いつまでも敬語なんて普通に疲れるからな。
「じゃあよろしくな、八雲さん」
「紫」
「え?」
「紫でいいわ」
まぁ、その方が呼びやすいかな。俺的には。
「じゃあ、俺の事も呼び捨てでいいよ。よろしくな紫」
「えぇ、よろしくね生……というか貴方、雰囲気が少し変わったわね?そっちが素なのかしら」
「あぁ、こっちが素だよ」
「ふぅん……」
紫は、何か考えるように顎に手を置いた。
瞬間だった――
いきなり俺の立っていた地面に穴が開いた
「うぉおおおお!!?」
そう叫んで俺は眼が沢山浮いた、異様な空間に落ちていった。へぇ、スキマの中ってこんな感じなのか。
あぁ、俺、一日の間に二回も落ちてるってなんだよ。普通こんな体験しねぇよ。
いや、転生した時点で普通じゃないんだが……
「って暢気に考えてる場合じゃねぇえええ!!!」
だが、俺の叫び声は、スキマの中に虚しく消えていった――
一方その頃、俺が落ちた場所では。
「ふふっ、よろしくね。生」
一人のスキマ妖怪が不敵な笑みを浮かべていたという……もう大丈夫からはかけ離れたな。
八雲紫さんの登場!次回は八雲家編!お楽しみに!
感想とか待ってます!