東方日常日記   作:sameragi

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あぁ、1日に二話投稿出来なかったか!
楽しんでいただけたら幸いです。


偶には世間話でも。

「いい、天気だな……」

 

縁側でお茶を啜りながら呟く。

とても、晴れ晴れとした空だったのだ。

そんな空を見ていると、無意識に、綺麗だと思ってしまう。

 

「隣、いいか?」

 

突然、背後から声がした。

落ち着きの有る、綺麗な声。

 

「おぉ、大歓迎だ」

 

「有難う」

 

藍は、少し頭を下げ、俺の直ぐ横に腰掛ける。

 

「……そういや、紫は?」

 

「朝早くに出かけた」

 

朝早くから、ねぇ……

変な事してなければいいが。

まぁ、紫の行動に対し、一々心配などしていたら、精神が磨り減るだけだ。それは、この一週間程の間に、痛いほど思い知らされている。

 

元の世界で初めて紫を見た時は、もっと大人びているキャラだと思ったが……実際、大人びた、悟ったような時も有れば、見た目にも、実年齢にも反した、子供っぽい時も有る。

 

要するに、面倒な奴だ。

もっと普通に平凡に、俺の様になってくれないかねぇ。

……無理だな。紫と俺の知る常識が相容れる様には、とても思えん。

 

「平和って、いいよな……」

 

「そう、だな」

 

藍のことを、元の世界で初めて見た時は、従者、厳密には式神か。そんな設定や、狐という動物のイメージから、小動物系の愛らしいキャラだと思ったものだが、実際は、凛々しく、頼もしい奴だった。

だが、一つだけ俺の予想通り。ピッタリだったところは、可愛らしい、というところだろうか。

そんなことを考えながら、横目で藍を見る。妙にお茶を飲む姿が合っていた。

だが、「ふぅ…」と、息を漏らす姿はやはり、女の子らしいものに見えた。

 

そこでふと、思う。

俺って、東方のこと何にも知らなかったんだな……

ランジェから聞いた時は、知っている作品だと、安堵したものだが……

 

「どうした?」

 

俺が少し真剣な顔付きになったのを感じたのだろうか。藍が、少し心配げに、不思議そうに訊ねてくる。

 

「いや……やっぱり、平和っていいなーと思ってさ」

 

嘘ではない。素直な気持ちだ。

平和的な日常――いつもどこかには有るけど、中々、感じられるものではない。

それが、普通ってやつだ。

 

「……そうか」

 

それ以上、藍が聞いてくることはなかった。

それは、俺にとってはとても有り難いことだった。

 

「なぁ、何かしないか?」

 

俺はタイミングを見計らって、そんなことを言う。

 

「トランプでもするか?」

 

藍は意地の悪い顔で、微笑む。からかっているのだろう。

 

「人のトラウマを……」

 

不満な顔で返すと「ははっ」と笑われた。トラウマになっている、というのは本当だが……なんとなく、釣られて笑みを零す。

 

藍が笑うと、変な形の帽子が揺れた。

つくづく思っていたのだが、なんであんな変な形なのだろう。

東方キャラの帽子はどの画像なんかで見ても変な帽子を被っているやつが多かった気がする。

少し気になるが……「なんでその帽子変な形なの?」なんて非常識なことを訊ねるわけにもいかないので、胸の中に潜めて置く事にしよう。

 

疑問を振り払うため、帽子から視線を外して下を見ると、こんどは揺れる尻尾が目に入った。

 

「……ごくっ」

 

生唾を、飲み込む。

 

「どうした?生」

 

そんな俺に、藍が怪訝そうな瞳でこちらを見つめた。

 

「いや……怒らないか?」

 

「言わないと怒る」

 

なんとも、意地悪な返し方だ。

俺は少し考える素振りした後、観念したように項垂れ、口を開ける。

 

「その……お前の、藍の、尻尾さぁ……」

 

「尻尾がどうかしたのか?」

 

藍は不思議そうに自分の尻尾に目を向ける。が、特に異常はない。

 

「その、尻尾を、さぁ……」

 

「尻尾を?」

 

 

「尻尾を―――もふもふさせてくれないか!」

 

 

「……は?」

 

藍が呆けたような声を出す。

 

「いやだから!もふもふさせてくれないか!その柔らかそうな、ふわふわな尻尾を!」

 

前々からずっと思っていたことだ。

この度、思い切ってしまった。

 

「いや、だがそれは……」

 

「頼む!一生のお願いだ!」

 

俺は土下座をして頼み込む。

 

「一生のお願い安すぎるだろ!絶対こんなところで使うものではない!」

 

「お願いします、藍様!」

 

「プライドというものはないのか!?」

 

「無い!!!」

 

「即答!?酷すぎる!」

 

そのくらいに触りたいんだ、撫でたいんだ、もふりたいんだよ!

 

「お願いだ!この通り!」

 

俺が何度も頭を下げていると、今度は藍が、諦めたように項垂れた。

 

「……顔を上げろ」

 

「もふらせてくれるまで上げない!」

 

「その……やらせてやるから、上げろと言ってるんだ」

 

「本当ですか!藍様!」

 

「その話し方止めろ、気持ち悪い」

 

罵られてしまった。生憎俺にマゾヒストの気はないので、言われたままに、止める事にしよう。

 

「あ、あんまり痛くするなよ?」

 

「勿論!丁寧に扱う!扱っちゃう!そ、それじゃいただきます!」

 

パンッ、と手を合わせ感謝の気持ちを表す。

藍は頬を朱に染めながら、尻尾をこちらに向ける。

俺はまず、優しく尻尾を撫でる。

 

「ひ、ひうっ」

 

「あ、悪い。強いか?」

 

「い、いや。ちょっと緊張してしまったいただけだ……別に、もっと強くても大丈夫だ」

 

「そ、そうか……じゃ、失礼して……」

 

今度は根元の方から、ゆっくりと撫でていく。

 

「ひゅっ、ひっ……ひゃぁん!」

 

藍がそんな声を上げると、なんとなく、気持ちが昂った。

少し調子に乗って、力を込める。

 

「きゃっ、ちょ、ちょっと生……」

 

「ご、ごめん」

 

藍の声を聞き、また力を弱め、撫でていく。

根元から、先端まで、しっかりと撫で回す。

 

「じゃ、じゃあ……揉むぞ?もふるぞ?」

 

「あ、あぁ……来い!」

 

もふっ、とても、柔らかかった。

その柔らかさは、まるで、親の母乳を飲んでいる時の赤ん坊の様な感覚にさせた。

その温かさは、まるで、母親のお腹の中にいるような、母性を、愛を感じさせた。

 

その感覚は、病み付きになるもので……俺はついつい、力を強めてしまう。

 

「しょ、生……きゃっ、つ、強いって……はぁん!」

 

俺は両手を使い、優しくもふもふしていく。

藍の声を、心地よいBGMの様に思い、余計にヒートアップしていくのを感じる。

 

「うっ、ひゅぅん!きゃっ、あっ、あっ」

 

藍はもう、言葉を返すことも、きつそうなくらいになっていた。

だが、この機会に楽しまなければ、次がいつになるかは分からない。

一生のお願いに、土下座まで使ったんだ。とことんやってやる。

 

「あぁっ、生、生!強い、強い」

 

「両手をっ、使ってるからな!」

 

何故かこちらも、息が荒くなり、体が熱くなる。

 

「あっ、あっ生!生!」

 

「ど、どんどんいくぞ!藍!」

 

「ひゃあん!そんなに強くしたら、む、無理!」

 

息を荒げる。

手の力を強くし、全てを感じる為にスパートをかける。

 

「い、いくぞ、藍!」

 

「あ、あっ!む、無理!ひゃぅん!あ、あぁぁぁぁぁん!!!」

 

藍の叫びが、八雲家に響いた。

 

 

 

 *

 

 

 

「すいませんでしたー!!!!!」

 

本日二度目の、土下座。

俺の前では、藍が仁王立ちしている。

 

「た、確かに……私もいいとは言ったが」

 

「はい」

 

「だが、限度と、遠慮ってものが有る」

 

「仰るとおりでございます」

 

「強い、とも言ったが、止めなかったよな?」

 

「反論の余地もございません」

 

説教。

とことん説教。

確かに、あれはやりすぎた……反省しよう。

自分でも、普通からは逸脱した行為だと思う。

 

「分かったか?」

 

「はい」

 

聞いてなかったけど。

 

「反省は?」

 

「そりゃもう物凄くしてます」

 

「……後悔は」

 

「していない」

 

「ハァッ……とても素直だな」

 

だって、もふもふ出来たし、反省はしても後悔する要素なんて1ミクロンもない。

 

話が一通り終了し、また俺達は隣通しに座る。

だが、先程までとは違い、二人の間に微妙に気まずい雰囲気が流れる。

沈黙が俺と藍を蝕む。

 

それを破ったのは、藍だった。

 

「話、でもしようか」

 

「そ、そうだな」

 

その言葉は凄く曖昧なもので、何を話していいものか迷ってしまう。

 

「なぁ……?」

 

「どうした、藍?」

 

「今度は私が、聞いていいか?」

 

「お、おう!どんどん聞いてくれ!お詫びってわけじゃないが、俺に出来ることなら何でもするし!」

 

その言葉を聞いて、藍はふふっ、と微笑む。

そして、また少し沈黙の時間が流れ――タイミングを見計らい、藍がこちらを見る。

 

「なんだ?」

 

「生って、外来人なんだよね」

 

「んーまぁ、少し違うけど……そんなところだ」

 

「外って、どんな感じ?」

 

「どんな感じ、か……」

 

これはまた、曖昧で、難しい質問が来たもんだ。藍なりに空気を破ろうとしてくれたんだろうが、考えれば考える程、難しい。

 

俺は少し考えるように、顎に手を置く。

 

「……普通、かな」

 

「……その言葉、好きだなぁ」

 

「あぁ、大好きだ」

 

「でも、普通って、どういう意味だ?」

 

「だから、なんていうか普通なんだよ。弱い人もいれば、強い人もいる。金持ちがいれば、貧乏な人もいる。平和な所が有れば、殺伐とした所も有る。そんな感じ」

 

藍は、良く分からない。といった表情をする。そりゃそうだ。俺だって分からん。普通なんて基準や、思い込みや、設定でしかない。俺は自分が普通だと思い込んで、信じ込んでいるが、別に普通なわけではないだろう。俺が勝手に、そう言っているんだ。普通なんてそんなものだ。

 

「……楽しいところか?」

 

藍は突然聞いてくる。やっと出てきた言葉がそれ、か。だが、大事なことでもある。

 

「賑やかな、ところかな?」

 

楽しいとは、言えなかった。

楽しいと断言出来ないところが、俺の弱いところなんだろう。

外……いや、元の世界は争いが絶えない。

平和も絶えない。笑顔が絶えないが、涙も――絶えない。

 

それを考えると、幻想郷の方がいいのかも、なんて考えて、直ぐに浅はかな考えだと否定する。

 

「外は……人間だけなんだろ?」

 

「動物もいるが……人間と会話が成立するのは人間だけだな」

 

「それは……平和なのか?」

 

「知らん」

 

「知らん、か」

 

知るわけない。

幻想郷で、妖怪が人間一人喰らっている間に――

あっちでは、人間が人間一人殺しているんだ。

 

馬鹿みたいだな、と思った。

 

「馬鹿みたいに――」

 

「馬鹿みたいに、普通ね」

 

背後からの声。

誰と言わずも分かるだろう。この全てを見下し、悟り、愛したような――胡散臭い声。

 

「紫……帰ったのか」

 

「少し前にね」

 

「どこからだ?」

 

「貴方が藍の尻尾を触らせてくれと土下座してるところから」

 

ほぼ、最初からじゃねぇか。

 

「駄目よぉ?人の式神に――私の藍に手を出しちゃ」

 

紫は悪戯っぽく微笑むと、藍の隣に座り、尻尾を撫でる。

 

「ひぅっ!ゆ、紫様?」

 

「あら?私には触らせてくれないの?」

 

わざとらしく、哀しげな雰囲気を出す紫。

藍は「い、いえ」と言って尻尾を差し出す。

紫はとても嬉しそうに、尻尾を揉んでいた。

 

微笑ましいな、と思った。

とてもとてもとても。

平和だと感じた。

 

少なくとも今は。

少なくとも俺は。

 

「馬鹿みたいに――普通だねぇ」

 

そう呟いて、とても晴れ晴れとした空を見上げた。

 

 

 

今日も幻想郷は異常だらけに異常なしの様だ。大丈夫では――ないんだろうが。




普通の主人公(笑)
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