後で反動が来ないかとても心配。
楽しんでくれたら幸いです!
「刺激が――足りないわ」
昼食を食べ終わり、皿洗いをしている時の事だった。
「……またか」
俺は皿を洗う手を止めずに、足をバタバタと子供の様に揺らす紫を横目で一瞥した。
「トランプはやらないぞ」
紫が言い出す前に釘を刺す。
高がトランプに負けた程度で、何をいつまでも引き摺っているのだと思うかもしれない。というか、思うだろう。
だが、考えてみてくれ。
初めてトランプをやる相手に、トランプは慣れている自分が相手をし、241回も敗北した。という事実が、どれだけ重いことかということを。
……な、悔しいだろ?リベンジする気も失せるくらいに。
「トランプはもう飽きたわ」
ああそうかい。
「刺激、ねぇ……」
洗い終わった皿をしまい、手をゆっくりと拭いてから、紫の方へ向きなおす。
因みに、藍は今ここにはいない。今の時間だったら、この家の掃除をしている頃だろう。
「どっか行って来れば?」
息を漏らしながら、紫の前に座り提案する。
「どこへ?」
「知るか」
考える気もない。何故他人が刺激を求める為に出かける場所を、俺が決めなくてはならんのだ。
「無責任ねぇ」
「無責任だろうが無根拠だろうが構わん」
というか、俺は別に悪くないよな?
「生の能力で何か出来ないの?」
無茶言ってんじゃねぇ。俺の能力は暇潰し用じゃないんだ。
「普通に生きるのに、普通以外いらないんだよ」
「でも、刺激が何も無いところで、ただ平凡に生きるなんて、虚しいだけでしょう?」
中々に、真理を突いたことを言ってきやがる。成程、これが年の功ってやつか。
「いいんだよ、普通なら普通で。普通という刺激が有るだろ?」
平凡は、退屈ではない。
日常は、無ではない。
だからこそ、普通が一番なんだ。
「つまらないわねぇ……」
「畳の目でも数えてろ」
冗談の様にそう言うと、紫は本当に数え始める。
俺は驚き半分呆れ半分といった表情になり、ボーッ、と空を見上げる。
「飽きたわ」
「いくつまで数えた?」
「16」
「どういうことだ」
飽き性でも面倒臭がりでも、もうちょっと数えるぞ。まぁ、数えないのが一番普通なんだが。
「他は?」
「他?……素数でも数えてろ」
ぶっきらぼうにそう言って、俺はお茶を淹れに行く。
少しして、渋いお茶を片手に戻ってくると同時に、紫が俺を睨む。
「飽きたわ」
「……いくつまで数えた?」
「13」
「6桁目じゃねぇか」
もっと頑張れよ大妖怪。
「他には?」
「もう無い、勝手にしてくれ」
俺は、不満そうな紫の視線を無視して座り、お茶を啜る。
何故、平和な日常の中、空を見ながら飲むお茶というのは、ここまで美味しく感じるのだろうか?
恐らく、雰囲気的なものだろう。祭りで食べるわたがしや、海の家の焼きそばと同じである。
お茶の湯気をまたボーッ、と眺めていると、黙っていた紫が唐突に口を開ける。
「刺激が足りないわ」
「……」
無視。
こういう面倒な奴は無視に限る。
「生、おっさん臭いわよ?」
「お前には言われ――何でもありません」
少女的な見た目に反した大妖怪の怖すぎる笑みに、俺は言葉を改める。
「そんなに、刺激が欲しいのか?」
「欲しいんじゃないの。求めてるのよ」
あっそ。
「あー、霊夢のところにでも行ったらどうだ?」
投げやりに、紫の友人であろう人物の名を上げる。
「れいむ……?」
だが、紫はまるでそんな名は初めて聞いた、とでもいうように首を傾げる。
あ、やば!霊夢はまだいないんだったか!
大分前、ランジェに聞いた言葉を思い出し、自分の失言を後悔する。
「ねぇ生。霊夢って「何でもない。怪電波を拾っただけだ。気にするな」……そう?」
あ、危なかった……これからは、軽率な発言は控えなければいけないな。まぁ、実際問題バレたらどうなる、とかは無いと思うが。
「まぁ、生が怪電波を拾うのはいつものことね」
「おい待て。お前の中で俺はどんなキャラ設定にされているんだ?」
俺がジト目で紫を睨む。紫はホホ、と優雅に笑い扇子で口元を隠す。クソッ……かわされた。
「……ハァッ」
俺は諦めたように溜息を吐くと、いつの間にか空になった湯呑を卓袱台に置き、立ち上がる。
「生?」
紫が怪訝そうな瞳で俺を見る。
「じゃ、何か――するか!」
*
*ここからは、天の声がお届けします*
「と、いう訳で」
辺り一面、鬱蒼と生い茂るここは――『魔法の森』である。
そこに生達はいた。
「どういう訳?」
紫の無粋な突っ込みを無視して、生は手を広げる。
「第一回!チキチキきのこ狩り大会ー!!」
ドンドンパフパフ、なんて陽気な効果音が欲しくなる勢いで叫ぶ。
「きのこ狩り?」
「ルールは簡単!俺と紫で別々に、今夜の晩飯のおかず『きのこ』を採るだけ!採ったきのこ一つ、一ポイント!実際食べてみて美味しかったら、更にプラスポイント!毒きのこを採ってきてしまった場合はマイナスポイントだー!!!」
「美味しかったらって……誰がどうやって判断するのよ」
まぁ、当然の疑問だ。だが、生は怪しくニヤリ、と微笑を浮べる。こいつ、絶対普通じゃない。
「そこは、きのこ評論家として名高い、私八雲藍が勤めさせていただきます!」
どこからともなく現れた藍が手を上げ説明する。
「いつから私の式神はきのこ評論家になったの!?」
「いやぁ、藍さん。今日は忙しい中、有難うございます!」
「いえいえ、そこにきのこが有れば――どこへでも、ね」
「なんか良く分からないけど格好良いわ、藍!」
「美味しいきのこ、バンバン採ってきますので!」
「実はそんなにきのこ好きじゃない」
「きのこ評論家として最悪のカミングアウトしてるわよ!?さっきの発言台無し!」
「成程、『きのことは、愛』ですか!深いお言葉、有難うございます!」
「えぇ!?そんなこと微塵も言ってなかったけど!?」
「紫さんも、やる気まんまんまんのすけ、ってことで!」
「今の発言のどこからやる気を感じ取ったの!?後、ギャグが異様に寒いわ!」
「あぁ……?ギャグが寒い、だと?」
「そこに怒るの!?絶対今のスルーするところ!」
「……ハァッ。全く、我儘も程々にしてくださいよ、紫さん……貴女も、大人でしょう?」
「私の今までの突っ込みに、そこまで言われる程の悪いところ有ったかしら!?」
「誰が、平成の親父ギャグ製造マシーンだ!!!」
「そんなこと言ってない!」
「有難うございます」
「え!?褒め言葉として捉えてたの?『平成の親父ギャグ製造マシーン』、貴方にとっての褒め言葉なの!?」
「焼肉食べたい」
「ちょっと!きのこ評論家のやる気が皆無なんだけど!というか、せめてきのこ食べたいって言いなさいよ!」
「いや、きのこと焼肉だったら……ねぇ?」
「『ねぇ?』じゃないでしょ!というか藍?キャラが完全崩壊してるけど!?」
「『きのことは、人生』ですか。深い言葉です」
「だから言ってないって!」
「頑張ってくださーい」
「もう評論家、完全に投げやり状態!」
「ではでは、位置について、よーい――」
「え、始めるの?こんなグダグダ状態で?」
「よーい――きのこ!!!」
「語呂悪っ!」
かくして、第一回チキチキきのこ狩り大会は、幕を開けたのだった。
「あぁ、もういいわ!とりあえずきのこを……」
紫は辺りを見回す。すると、視界に入ったのは見るからに毒々しい、色鮮やかなきのこ。
「あ、ラッキー!綺麗なきのこ発見!さっそく持っていきましょう!」
だが、常識が乏しい紫は、まるで気にせずきのこを採取。
『色鮮やかなきのこ』を手に入れた!
どこかで、ファンファーレが鳴った気がした。
「ん?あれは……」
次に紫が見つけたのは、茶色い傘のきのこ――松茸だった。
貴重な松茸を、こんなに簡単に見つけられたのは、紫の大妖怪としての、桁外れの運の良さだろう。
紫は、松茸を手に取り、暫し凝視してから……
「あんまり美味しそうじゃないわね」
ポイッ、と投げ捨ててしまった。おいおい。もったいないってレベルじゃねーぞ!
「おい紫、それ松茸じゃないか?」
そこにやってきたのは、自称常識的な少年。日常生だった。
そうだ、読者も忘れているかも知れないが、これは生と紫の勝負なのだ。当然、生もきのこ狩りをしている。
「まつ……たけ?」
「超貴重なきのこ。人によるけど、物凄く旨い」
「本当!?じゃ、採取しとかなきゃ!」
紫は掌を返したようにバッ、と先程自らが投げ捨てたきのこを拾い、頬ずりをする。正直気持ち悪い。
「後、お前がさっき採った色鮮やかなきのこ、あれ毒きのこだぞ?」
生が紫の籠の中に有る禍々しいきのこを指差しながら言う。紫は慌ててそれを捨てる。勝負といっても、どうやら生に勝つ気は無いようだ。
「ふふっ、甘いわね生!敵に情けをかけるなんて!」
尤も、紫の方は勝負に勝つ気満々らしいが。
「あ、おい!ちょっと待て!」
颯爽と立ち去ろうとする紫を生が静止する。
「何?命乞い?」
命をかけたきのこ狩りってなんだ。
「命をかけたきのこ狩りってなんだ」
しまった、生と被ってしまった。
「お前、何かほっとくと毒きのこばっか採りそうだからな……これ、使え」
生は何も無い掌を差し出す。
「……って何も無いじゃない!」
「『普通』きのこ狩りにはこれが付き物だ」
生がそう呟くと、生の掌の上に、一冊の本が現れる。
本の表紙には大きな文字で、『写真付き きのこ大百科』と書かれていた。
「いいの?」
「おうよ!」
生は無理矢理に大百科を紫に渡す。紳士的というよりは、これが当然の行動だ。
「勝負っていうか、とりあえず、刺激的に、そして飽くまで普通に、楽しもうぜ?」
飽くまで普通に、という文の必要性は有るのだろうか。恐らく、ない。
紫は大百科を受け取り、ふふっ、と笑い声を零す。
「そうね……楽しみましょう?」
二人、微笑みあう。性格には一人と一妖か?
ここがもっと雰囲気なある場所だったら良かったかもしれないが、如何せん、ここは怪しげな匂いがプンプンするような森の中である。
「じゃ、俺はあっち探すよ」
「じゃあ、私はあっちを」
二人は別々に歩いていく。紫は、戦意こそ喪失しているようだが、その分、楽しもうという気持ちで埋め尽くされたのか、満足そうな顔をしていた。
*
夕焼けが眩しい。
一体どれだけの間、きのこ狩りをしていただろう。
「ん?あれは……」
森の中、延々と待たされていた、自称きのこ評論家、八雲藍が見る森の先には、人影。
「藍!お待たせ!」
籠一杯のきのこを持った、紫がいた。
「そろそろ、時間でしょう?」
「えぇ……それにしても、よくこんなに採りましたね」
暫くはきのこオンパレードのご飯だろうなぁ……などと考え、藍は苦笑しながら紫を見る。
紫はまるで子供のように胸張っていた。その姿に、思わず藍は微笑んでしまう。
そこで、タイマーが鳴り響いた。この第一回チキチキきのこ狩り大会、終了の合図である。
森中全てに響くのではないかという程の大きな音だった。
普通なら、妖怪が気づくかも知れないが……ここにいるのは大妖怪、八雲紫である。そうそう近づく馬鹿な者もいない。
「そろそろ生も戻ってくるかしら?」
「そうですね……待ちましょうか」
二人はボーッ、と、今日の献立の想像をしながら生を待つ。美味しそうなきのこ料理を思い、思わず、唾を飲み込んでしまう。
「食べすぎちゃいそうねぇ……」
「食べ過ぎて、お腹壊したりしないでくださいよ?」
「大丈夫よぉ――」
一方その頃、生はというと―――――
「……迷った」
とても大丈夫な状況では――なかった。
まさかの終わり方。八雲家編終了のお知らせ。
さてさてこれからどうなるのでしょう?私が聞きたいです、どうしましょう……
感想、ご指摘、評価!どんどん年中募集中です!
それではまた次回!