楽しんでいただければ、幸いです
人は常に迷ってるよ……人生という道に、な
ここは、『魔法の森』
鬱蒼とした森からは、人の気配どころか、モノの気配すら感じさせない。
見えないが、感覚でハッキリと分かる、禍々しく、怪しい雰囲気……これが、瘴気というものだろう。
まるで、全てを喰らわんとする様な瘴気に、俺は身震いする。
今はまだいいが……暫くすれば、瘴気が体に充満し、正気を失うだろう。因みに今のは洒落である。
そんな深い、深い森の中心に俺はいた。
「どこだよ、ここ……」
意図してここにいるわけではない。
意図せずにここで、迷っていた。
何故だ――
どうして、こんなことに――
戻ったら紫に散々文句を言ってやろうと思った。
だからこそ、こんなところで力尽きるわけにはいかない。
俺は、生き延びなければならない。
一度捨てた命を、再度手に入れるなどということは、本来、生への侮辱でしかない。
俺は今、全ての命を、生を、侮辱しながら生きているのである。
まだ、手に入れてから一ヶ月すら経過していない人生。
手放すわけにはいかない。そう決意し、俺は深い森をただ歩いた。
「あれ?ここさっきも通ったような……」
森というのは、余り景色が変化しないのが普通だ。
ここが普通の森ではなく、魔法の森であったとしても、その最低限の森としての常識はあるようだ。
自分がどこにいるのか分からない――
同じところで、足踏みをしているだけのような錯覚に陥る。
そんな筈はない。確かに進んでいる筈だ。それは分かっている。理解しているのだが……
焦っているのかもしれない。
こういった時に、最も恐れなくてはならないのは、冷静さや、判断力の欠如である。
分からなければ、考えればいいのだ。それが普通の発想というものだ。
だが、そんな普通を、除外してしまう。恐怖から、焦りから、淋しさから……
それは、駄目だ。飽くまで普通にいろ。常識を信じろ。平凡に向かえ。
大丈夫だ、紫達も、俺がいつまでも戻ってこなければ、何か有ったのではと思うだろう。
あいつらなら、俺をきっと見つけてくれる。
だからそれまで俺がすべき事は――
「絶対的に死なないことだ」
生きるとは、随分と大変なことかもしれない。
だが死なないのは、案外簡単で単純なものだ。
生きるためには、生きなければならない。
だが、死にたくなければ、死ななければいいのだ。
どんなに逃げ惑おうが、無様になろうが、不必要なことをしようが、嘘を吐こうが――
死ななければ、安いものだ。
「飽くまで普通に」
深呼吸をする。
空気を吸うという行為が、こんなに気持ちの良いものだと感じれたのは、恐らく、この危機的状況を味わえたお蔭だ。
どんなに非凡で、現実離れした状況でも、心はいつでも平凡に。
それさえ忘れなければ、それから逃げなければ、大丈夫だ。
「まずは……森からの脱出が先決だな」
紫達と、いつ遭遇出来るかは分からない。
もう少し待てば遭遇出来るならいい。が、確信が持てない以上、こんな瘴気に塗れた空間にいるのは大変危険である。
闇雲に歩くのが危険ではないのか、といえば嘘になるが……ここでじっとしているよりは、幾分マシである。
俺はとりあえず、歩くという選択を選ぶことにした。
もう、空も暗くなってきたな……
*
「ハァッ……」
溜息を吐くと、人の幸せというのは何故だか逃げていくらしい。
幸福というモノは、溜息が大嫌いなのだろう。というか、今なんとなく思ったが、このルール妖怪にも適用されるものなのだろうか?
「行けども行けども森ばかり……」
当然である、まだ森の中なんだから。
そんな暢気なことを考えながらも俺は随分と焦っているのだ。
だって、息苦しい。気持ちが悪い。
もう長い間この状態だ。冷や汗は頬をつたり、苔の生えた地面に落ちる。
本気で、ヤバイかも。そう思った。
ここは普通の一般的男子高校生が、居ていい場所ではない。
「月が綺麗だな……」
暢気過ぎるだろ!という突っ込みは分かる。すまない、ただの現実逃避だ。もう諦めたくなってきた。
もう、死のうかな。死んで閻魔様にでも逢ってこようかな……
ああいかん、完全なマイナス思考になっている。
駄目だ駄目だ、紫達なら、きっと助けに来てくれる。それまで、精神が持ちますように……
*
「――紫様、やはりおかしいです」
私は八雲紫。周りにはスキマ妖怪と呼ばれたりしている。
私は今、式神である藍と共に、『魔法の森』という場所にいる。
普段なら、こんなところに用事はないし、藍といる理由も無い。
だけど今日は、同居人の日常生の要望で、ここにいる。
生の要望というか……私の我儘なのだけれど。
私の暇潰しを求める要望に対し、生が『きのこ狩り』という案を出したのだ。
初めは余り乗気ではなかったけれど……
やってみると、中々楽しかった。
私は、満足していた。だから生にお礼を言おうと思っていたのだけれど……
「そうね、余りにも……遅すぎる」
肝心の生が帰ってこない。
偶然などと言うには……時間が掛かりすぎている。
「もしや、何か有ったのでは……」
その可能性は十二分に有る。
この魔法の森にも、少なからず妖怪がいる。
私も細心の注意をしていたけれど……
私の妖気を捉えぬ、身の程知らずな者がいる可能性も
「紫様」
藍が焦ったように私に声をかける。
そうだ、暢気に考案なんてしている場合ではない。
私は、手を翳し、瞬時にスキマを――
「――!?」
驚愕する。
「ど、どうしたのですか?紫様」
藍が心配したような声をかけてくる。
「開かないの……」
「え?」
「スキマが、開かない……!」
スキマが開かなかった。
「え!?それでは帰ることすら――」
「違うわ」
スキマが開けなくなった。というのは少し違った。
「生のところへだけ、スキマが開かないの……」
それどころか。
「生がどこにいるのか、それを探知することさえ――出来ない」
初めての、ことだった。私は完全に驚愕していた。
「生に能力が通じない――!?」
それは、紛れもない、最強の能力を持ってしても分からない――
現実だった。
*
「ハァッ……クッ」
体が、とてつもなく重い。
早く、早く、早く――
最早、助けを待つなどという、悠長な選択肢は完全に除外された。
一刻も早く、森から出なくてはならない……
重い現実。
受け止められるかではなく、受け止めなければならない状況だった――
「寒い……」
確かに、風は冷たいものだが……この寒さは、そんなものではない。
紛れもない、悪寒。
それは、体が衰弱していっているということを、分からせた。
疲れは能力で除外している為、感じることはない。
悪寒も取り除きたいのは山々だが、瘴気というのは自然現象的な『普通』であり、この悪寒も、それから来た普通のことなのだ。
俺の能力は、普通にし、普通から逃げさせない能力ではあるが……普通を操り、普通を拒む能力ではない。
依って、疲れ以外を取ることは出来ていなかった。
呼吸が、荒くなる。
深呼吸を歩きながら繰り返した。
大丈夫だ、冷静に、平静に。
どれだけ、歩いただろう。
もう限界点を突破したのか、不思議とさっきよりも楽な気がする。
だがそれは、どう考えても良いものではなく、寧ろ根性だけで歩いているような状態――つまり、やばいです。
ただ右足と左足を交互に出すだけの、簡単な作業を続けていると、不意にどこからともなく、音が聞こえた。
風の音や、葉の擦れる音といった、自然の音ではない。
明らかに人為的というか……これは……
「足音!?」
足音。つまり近くに人がいるという事。
ここでその人を逃がせば、俺の二度目の人生はゲームーオーバー確定。
俺は考えるより早く、その足音のする方に向かった。
「いた……!」
視界に入ったのは、独りの少女。
とても綺麗な紅のリボンで、金髪を結び、服装はまるで闇に紛れるかのような黒。
「……ん?」
見覚えがあった。
逢った覚えはない、が――見覚えはあった。
前の世界ならば、転生なんてことをしていなければ、偶然だと思ったであろう。単純な思考。
だが俺には、偶然だとは思えない根拠を持っていた。
幻想郷という、根拠を。
俺は反射的に、頭に浮かんだ言葉を発する。
「――ルーミア!!!」
少し掠れた声だった。体調の不具合が、声に混じれていた。
数拍の間……沈黙が、二人の間を駆け抜けた。
沈黙を破ったのは――
「……ん?」
少女、ルーミアだった。
「私のこと、呼んだかしら?」
ルーミア。
俺の知る、東方Projectのキャラクターの一人。いや妖怪だが。
「そーなのかー」と、良く言っていた気がした。良く笑うような、元気な妖怪少女、というイメージだった。
俺のイメージが正しいのか、正しくないのかは分からない、が。一つだけ、確信を持って言える、とても大事なことが有る。
「貴方は――」
ルーミアは――
「貴方は、食べてもいい人類?」
人を喰う。
危ない。普通たる俺すら、直感で分かる。そのくらいの殺気。大きな殺気か、小さな殺気か……言わなくても分かるよな?
普段の俺なら、恐怖で失神してしまってもおかしくはないかもしれない――
だが。
「今の俺は、死ぬことは出来ない……」
そう決めたのだ。諦めかけていたが。
「何か言ったかしら?」
ルーミアが、首を傾げる。
俺はルーミアの目をじっと見てから、スゥッと息を吸って……
「いえ、何も言っていませよ」
と言って、わざとらしく肩を竦めた。
「そう――で、食べてもいいの?」
ルーミアは目を細めた。
その姿は、仇気ない子供そのものだが、その表情は獲物に狙いを定めた、獣の様に感じた。
「いやぁ、困りましたねぇ」
死ななければいい。
俺が今すべきはただ、それだけである。
俺は体をスッ、と立たせ、口端を吊り上げた。
大丈夫だ、飽くまで普通に――そう思って。
主人公普通設定忘れ過ぎ。
ついに今回、八雲一家以外の東方キャラ『ルーミア』が登場しました!
さぁこれからどうなるのか?作者も全く予想がつきません!
感想ご指摘、どんどん年中募集中です!ではまたいつかの次回で!