μ’sと仮面ライダーの物語   作:シーチ

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はい、120話です。

明けましておめでとうございます!(遅せぇよ!!)ということで、長らくお待たせして大変申し訳ございませんでした!!

では120話、スタートです!


120話 拓真の過去

〜side 優〜

 

「優くん、本当に大丈夫?」

 

「あぁ。全部話すことにする。転生のことだけじゃなく、思い出した過去についても…大事な仲間だから。」

 

俺が生き返った日の夜、俺は姉ちゃんにそう言った。

 

「そっか…」

 

「姉ちゃんもそれでいいか?」

 

「もちろん!優くんの判断なら、私はそれを尊重する。頑張ってね。」

 

「あぁ!」

 

 

 

そして翌日…

 

「みんな、練習前に集まってくれてありがとう。」

 

放課後、スクールアイドル部の部室にμ‘s9人と蓮、秀夜に俺の過去について話すため、集まってもらっている。ちなみに、何故退学届けを出した俺が音ノ木坂学院に来れているのかについてだが、それは昨日に遡る。

 

 

 

〜回想〜

 

「仮野くん、無事戻って来れたのね。」

 

作戦が無事終了した俺たちの前に、理事長がやってきた。

 

「理事長…はい。理事長も、協力して下さりありがとうございました。あと、今まで共学化試験生として入学させてもらったのにも関わらず、何の挨拶もなしに退学届けを出してしまい本当にすみませんでした。今更戻らせて下さいと身勝手なことは言いません…今まで、本当にありがとうございました!」

 

本当はもちろん戻りたい。でも、そんな勝手なことは許されない。自分の気持ちを押し殺して言った。

 

「優くん…お母さん!お願い!優くんの退学届け、なしに出来ない?」

 

頭を下げている俺を見て、ことりがそう談判した。

 

「ことり。何言ってるの…?」

 

「っ…」

 

いくら親子関係だからと言って、特別扱いは出来ないからなのか、理事長は少し厳しめの口調で言った。と、思っていたが…

 

「私は退学届けなんて受理していないわよ?」

 

『へっ…?』

 

理事長の言葉に、この場の全員が声を漏らした。

 

「そういえば、前に学校のポストに誰かからの退学届けが入っていたけど、退学届け出すなら直接出して挨拶ぐらいするのが筋でしょうし、あんな不躾なもの破り捨ててしまったわ。」

 

「お母さん…!」

 

そう言う理事長の顔には少し笑みを浮かべており、それを見たことりも笑顔を浮かべる。

 

「理事長…!本当にありがとうございます!」

 

俺は頭を下げ、心から礼を言った。

 

「なんの事か分からないけど、一応どういたしまして。じゃあ、仮野くん。また明日ね。」

 

「はい!」

 

ほんと、あの理事長は日本一仕事ができる理事長なんじゃないだろうか…俺はそう思いながら、感謝してもしきれないほどの感謝を送っていた。

 

〜回想終了〜

 

 

 

というわけで、俺は学校に復帰することが出来たのだ。

 

話は逸れたが、俺はμ‘sのみんなに話し始める。

 

「多分、俺が死んだ時になんとなくは聞いたと思うけど、俺は転生者…一度死んだ人間だ。」

 

既に聞いていたことなのでそこまで驚いてはいなかったが、やはり本人の口から聞いたからか、少し驚いている。

 

「転生してからの俺は、別の世界で死んだ橋本拓真と、この世界で死んだ仮野優という人間の2人が融合して生き返った状態なんだ。」

 

「あの…」

 

すると、凛が何かを聞きたそうに手を挙げた。

 

「どうした?」

 

「前に優くんと蓮くんと秀夜くんは幼なじみって言ってたけど、それはこの世界の優くんなの?それとも、拓真くんなの?」

 

「拓真の方だ。」

 

「じゃあ、蓮くんと秀夜くんも、一度死んでるの…?」

 

俺の言葉を聞き、おずおずと花陽が尋ねてくる。これに関してはそれぞれ本人たちが説明した方がいいと思い、俺は蓮と秀夜に目で合図した。

 

「あぁ。俺も優と同じく、一度死んでいる。でも、優と違って誰かと融合したわけじゃなく、前の世界の俺のまんまこの世界に来た。」

 

そう蓮が説明した。

 

「俺は死んでいない。前の世界に偶然来ていた財団Xが、俺を拾ってこの世界に飛ばした。」

 

続いて秀夜が説明した。

 

「で、ここからはここにいる誰も知らない話になるんだが…今回、俺が突然みんなの前からいなくなった理由についての話だ。この話は、聞いて気分の良い話じゃない。聞いたら俺の印象がガラリと変わるかもしれないし、俺のことを嫌いになると思う…それでもいいなら、話すよ。」

 

「優くん、ことり言ったよね?優くんが昔どんな人でも関係ない。今の優くんと一緒にいたいって。」

 

「そうです。私たちは、今の優と一緒にいる日々が好きなんです。」

 

「だから話して。どんなことでも、全部穂乃果たちにぶつけていいんだよ、優くん。」

 

ことり、海未、穂乃果がそう言うと、他のメンバーも同意するように頷いている。

 

「ありがとな、みんな。じゃあ話すよ、俺の過去について…」

 

俺はそこで少し深呼吸をして、再び話し始める。

 

「その過去、というのは橋本拓真の過去についてだ。2日前、俺が死ぬ日の朝、ガリュサに会ったんだ。その時、やつの能力で拓真としての過去の記憶を取り戻した。俺が前世で死んだ原因は、トラックに轢かれそうな子供を庇ったから…記憶のなかった俺は、転生時そう聞かされた。でも、それは少し違った…俺が死んだのは、本当の理由は…」

 

俺はそこで、話すのを少し躊躇い唾をひとつ飲み込んだ。

なに迷ってんだよ…話すって決めたんだから、話さないと…

 

「俺は、轢かれそうな子供がいたとか以前に、自分から命を投げ出そうと考えていたんだ…」

 

『っ!?』

 

俺の言葉を聞いたμ‘sは、驚きのあまり言葉も出ていなかった。

 

「俺はその事を思い出して、人の命を守るため戦っていた俺が…命の大切さを理解して戦っていたと思い込んでいた俺が…自分から命を投げ出すようなことをしてたなんて…自分が分からなくなった…そんな俺が、みんなと一緒にいていいはずがない、そう思ってみんなの前からいなくなった…それでまた死んで…やっぱり、俺は命の大切さをちゃんと理解してなかった…」

 

俺の言葉を聞いたみんなは驚き、辺りには重苦しい空気が流れた。その沈黙を破って、秀夜が口を開いた。

 

「……前世で俺と蓮、それに悠斗と一緒にいた頃の拓真は、その…自殺、なんかを考えてる素振りはなかった。だから、俺たちと離れ離れになった中学生の頃に、何かあったってことか…?」

 

「まぁ、そうだな…」

 

「聞かせて、くれるか…」

 

今度は蓮が、恐る恐るそう尋ねた。

 

「あぁ。全部話すよ。」

 

 

 

 

 

〜回想〜

 

「あいつら、今頃何してんだろうなぁ…」

 

なんとなく空を見上げ、俺はふと呟いた。

 

俺の名前は橋本拓真。特に何の取り柄もない、普通の中学二年生。今俺は、小学校を卒業する時に離れ離れになった幼馴染3人のことを思い出していた。

 

「蓮、秀夜、悠斗…3人とも元気にしてるのかな…」

 

中学への通学路を歩きながら言ったボソッとした声には、自分で言うのもなんだが、俺の寂しさがこもっていたと思う。去年の年末、俺の母さんが死んだ。たった3人の友達と別れた俺にとって、母の死は本当に悲しかった。

 

俺にとって親しく話す信頼出来る人である母親や蓮、秀夜、悠斗がいなくなったことで俺はひとりぼっち同然になった。

 

父親は?と思う人もいるかもしれないが、父は俺には無関心で平日は夜遅くまで仕事、休日もずっと自室にいる父とは会話という会話もない。学校でも特に友達という人がいない俺にとって、今話すような人は1人しかいない…

 

「あっ、橋本くん。おはよう!」

 

「えっ?あっ、成瀬さん。おはよう。」

 

俺に挨拶しながら後ろから走ってきたのは、同級生の成瀬(なるせ)みのりさん。さっき話した、今の俺が唯一親しく話す人物。そして、俺の初恋の相手だ。中学に入学した時、出席番号が前後ということで俺の前の席だった成瀬さん。可愛いくて優しい成瀬さんに、俺は一目惚れをした。

 

2年に上がっても同じクラスになり、1人でいる俺によく話しかけてくれる。

 

「どうかしたの?朝から浮かない顔してるけど…」

 

「へっ?いや、なんでもないよ…ちょっと、母さんや幼馴染のことを思い出してて…」

 

「あっ……無神経なこと聞いちゃったよね、ごめん…お母さん亡くなってから、まだ4ヶ月ぐらいしか経ってないし寂しいのは当然だよね…」

 

「きっ、気にしないで!今はその…親しい人とか仲良い人とか全然いないけど、成瀬さんが話しかけてくれるし全然寂しくないよ!」

 

全く寂しくないといえばもちろん嘘だが、成瀬さんのおかげで寂しさが軽減されているのは事実だ。

 

「そっか…私なんかでよければ、これからもいっぱいお話ししようね!」

 

「うん!ありがとう!」

 

俺は成瀬さんの、こういう何気ない優しさに惚れた。こういう風に、何気ない会話ができる日々が続けばいいのにな…

 

 

 

それから一年が経ち中学三年生になった頃、そんな日常の崩壊が、ちょっとしたきっかけから、やってきてしまった…

 

普段人と話していることなんて滅多にない俺が、成瀬さんとだけ毎日話している。それを疑問に思った同級生が、俺が成瀬さんのことが好き、あるいはその逆、あるいは2人は付き合ってるんじゃないか、と根も葉もない噂を流したのだ。まぁ、俺の片想いについては当たってるんだが…

 

とにかく、突如そのような噂が流れ始めたことにより、俺と成瀬さんの間には気まずい雰囲気が流れてしまい、三年生になってクラスも離れてしまった俺と成瀬さんは、話すことが出来なくなってしまった。

 

ただ、それだけならまだ良かった…

 

「なんでお前みたいな根暗が、成瀬さんと!」

 

「お前なんかが、調子こいてんじゃねぇよ!」

 

可愛くて優しい成瀬さんは、男子の間でも人気があった。そんな成瀬さんと交際関係にあると嘘の噂が流れ始めたせいで、俺は陰でイジメに遭い始めた。付き合ってないと否定しても、やつらは聞く耳を持たない。俺は黙って、殴られて蹴られて、罵倒されるしかなかった…

 

「いてて…今日も派手にやられたな…」

 

学校からの帰り道、殴られた腹をさすりながら呟いた。本当なら仕返ししてやりたいが、そんなことはしない。きっと彼らなら、そんなことしないと思うから…

 

俺が言う彼ら、とはこの世に存在しない架空の人物だ。俺は仮面ライダーというテレビ番組が大好きだった。中学生にもなって、と思われるかもしれないが、人のために悪と戦う彼らに俺は憧れていた。

 

「はぁ…俺も仮面ライダーみたいに凄い力が使えたらな…」

 

そんなことをボヤきながら、俺は家に帰った。

 

 

 

そして再び時は流れ、夏休みがやってきた。これで少なくとも1ヶ月とちょっとの間は、虐められないな…俺はそう安堵していた。

 

俺は一学期の間、毎日のように暴力を受け続けていた。家では父親との会話も特になく、学校では陰に隠れてやられているから誰にも気づかれない。

 

ただ、一学期の終盤にいじめを受けたりしていないかを書く、いじめアンケートなるものが配られた。それにいじめられていると書いてみたが、結果は変わらなかった。なぜなら、俺をいじめている生徒は、金井新一(かねいしんいち)。その金井は、成績優秀で親が大企業の社長だからだ。そんな金井の親と荒事を起こしたくない教師共は、見て見ぬふりをすることにしたようだ。教師なんて、そんなものか…

 

「あれ?橋本じゃねぇーか。」

 

夏休み初日、暇だからコンビニでも行こうと思い歩いていた俺は、偶然金井に遭遇した。ほんと、夏休み初日からついてねぇな…

 

「ちょい付き合えや。」

 

そう言われ、仕方がないため金井に着いていく。

 

 

しばらくして金井が足を止めたのは、路地裏だった。なるほど…ここなら人目につかない、ってわけか…

 

「さて、なんでお前をここに呼んだか、分かるよな?」

 

「……どうせ、俺を痛めつけるためだろ…」

 

「へへっ、分かってんじゃねぇか。早速1発、オラァ!」

 

下卑た笑みを浮かべながら、金井は俺の腹を殴る。

 

「ぐぅっ!?」

 

「けけっ、間抜けな顔だなぁ…あっ、そうだ。夏休みだし、多少人目に付く場所を殴ってもいいか。ほら、立てよ。」

 

金井は俺の胸ぐらを掴み、無理やり立たせる。

 

「お前のそのうぜぇ顔面、殴ってやりたかったんだ、よォォォ!」

 

金井は俺の顔を殴ってきた。

 

「俺はなぁ、成瀬のことが好きなんだよ!2年の終わりに告白もしたんだよ!なのに、成瀬は他に好きなやつがいるって断ってきた。それはお前のことなんじゃないの、かっ!」

 

言葉の最後を言うと同時に再び俺は殴られるが、胸ぐらを掴まれるため倒れて痛みを逃すことも出来ない。

 

「はっ?なわけないだろ、何度も言うが俺と成瀬さんはただの友人だ。いい加減覚えろよ…」

 

「なんだよその口の利き方?てめぇはほんとムカつくなぁ!」

 

それからも、俺は何度も何度も殴られ続けた。

 

 

そして、約一時間ほど暴行を受け続けていると、気が済んで飽きたのか、金井は帰っていった。

 

「いっててて…いつも以上に痛てぇな…顔とかも殴られたし…」

 

しばらく倒れて動けなかった俺は、ようやく立ち上がることが出来た。

 

「はぁ…どんな怪我でも、一瞬で治せるような力があればいいのにな…」

 

そんな幻想じみたことを呟きながら、俺が路地裏から出ると、思わぬ人物に遭遇した。

 

「あっ…橋本、くん…」

 

「成瀬さん…」

 

もう3ヶ月も話していなかった成瀬さんだ。

 

「ってどうしたの!?凄い怪我してるよ?」

 

「いっ、いや…これは…」

 

成瀬さんの言葉に俺が吃っていると、ふと成瀬さんの腕に痣があるのが見えた。

 

「って成瀬さんも腕に痣あるよ!?」

 

「あっ…うっ、ううん。大丈夫大丈夫、さっきちょっと転んだだけだよ。」

 

「でも早く手当しないと!あっ、家すぐそこだから…」

 

「えっ、でも…」

 

俺の言葉に戸惑っている成瀬さんを見て気づいた。そうだった…今日話したのが久しぶりなぐらい、今気まずい状態なんだった…

 

「あっ、ごめん。嫌だよね、俺の家なんか来るの…俺のせいで流れた変な噂で、成瀬さんも嫌な思いしてるだろうし…」

 

「そっ、そんなことないよ!」

 

「えっ…?」

 

「その…私、橋本くんと一緒にいるの全然嫌じゃないよ!橋本くんと一緒に話してるの凄い楽しいし、最近話せてなくて凄い寂しいんだ…」

 

そうだったのか…てっきり、もう嫌われてしまっているのかと思っていた俺は、内心とても喜んでいた。

 

「俺も!その、最近話せてなくて凄い寂しかった…」

 

「っ…」

 

久しぶりの会話でこんな小っ恥ずかしいことを話した俺たちは、思わず俯いて顔を赤くしてしまう。

 

「あっ、そうだった!早く手当しないと、とりあえず家来て!」

 

「うっ、うん、ありがとう…」

 

この恥ずかしく気まずい空間から早く抜け出したい思いのあまり、俺は成瀬さんの手を引いて家に向かった。

 

 

 

「ここが、橋本くんの家?」

 

俺の家の前で足を止めた俺に、成瀬さんが尋ねた。

 

「うん、そうだよ。」

 

「あっ、その…」

 

俺が彼女の問いに答えると、彼女は困ったような顔で何かを言おうとする。

 

「ん?どうかした?」

 

「いや、その…手…」

 

「手?」

 

そう言われ、俺は自分の手に目をやると、成瀬さんの手を握ったままだったのに気づいた。

 

「あっ!ごっ、ごめん!ほんとごめん!」

 

俺は慌てて手を離した。

 

「だっ、大丈夫…恥ずかしかっただけで、嫌じゃないよ…」

 

「えっ?そっ、そう…?あっ、その、入る…?」

 

「そっ、そうだね…」

 

俺は成瀬さんを家に招き入れた。恐らく、この時の俺の顔は真っ赤だっただろう。

 

 

 

「よし、終わり。これで後は、安静にしてればすぐ痕も消えると思うよ。」

 

俺は救急箱を取り出し、成瀬さんに一通りの治療をした。

 

「ありがとう…あっ、橋本くんも治療しないと!橋本くんの方が、酷そうだし…」

 

「俺はいいよ。こんなの寝たらすぐ治る。」

 

それに、またいつ殴られるかも分からないし…

 

「駄目だよ!私がするから、じっとしてて。」

 

そう言われ、無理やり治療を始める成瀬さん。しばらく話してなかったけど、やっぱり優しい成瀬さんのままだな…

 

「はい、終わったよ。大丈夫?キツくない?」

 

成瀬さんは包帯を巻き終わり、巻き具合を確認する。

 

「うん、大丈夫。ありがと。」

 

「ううん、こちらこそありがとう。」

 

礼を言った俺に、成瀬さんは礼を言い返した。

 

「「……」」

 

今日の俺たちの会話は基本勢い、その勢いがなくなると突如現れる恥ずかしさの沈黙、その沈黙が再びやってきた。やべぇ…ただでさえ対話力もコミュ力もない俺が、好きな人と何話せばいいんだよ…

 

「あっ、あの…」

 

冷や汗を垂らしながら焦っていた俺に、成瀬さんから声をかけてきた。

 

「へっ?」

 

「いや、その…そろそろ、帰ろうかな…」

 

「あっ、そうだね…」

 

そうだ…もう目的の治療は済んだんだし、帰るのは当然か…一人で浮かれてた俺が馬鹿みたい…

 

内心そう思いながら、俺は成瀬さんを玄関まで見送る。

 

「今日はありがとね…その、出来たらまた、こうしてお話ししたいな…」

 

「っ…!俺もっ!俺も、また成瀬さんと話したい!」

 

思わぬ言葉をかけられ、俺はつい大声で答えた。

 

「っ…良かった…」

 

「えっ?」

 

「私だけがそう思ってるのかなって、ちょっと心配してたから…じゃあ、また今度ね。」

 

そう言って、成瀬さんは帰って行った。

 

「天使…」

 

玄関で一人、俺はそう呟いた。ちなみに、俺はこの後ずっと浮かれてたことは、言うまでもない。

 

この時俺は、また成瀬さんと楽しく話したりできる日々が戻ってくるんじゃないか、と一人期待していた。もっと酷い現実が待っていることを知らずに…

 

 

 

はぁ…今日からまた学校か…

 

あの後、無事夏休み中金井やその取り巻きと会わなくて済んだが、今日からはまた虐められる日々か…でも、また成瀬さんと会える!登校日は、結局会えなかったから本当に久しぶりだ!

 

俺がそう不安と密かな楽しみを抱きながら学校の下駄箱に着くと、

 

「あっ…」

 

偶然成瀬さんが靴を履き替えていた所だった。

 

「成瀬さん、おはよう!」

 

夏休みの一件で俺も気まずいとか気にする必要はないんじゃないかと思っていた俺は、思いきって笑顔で元気に挨拶してみた。

 

「っ…うっ、うん…おはよう…じゃあね。」

 

しかし、成瀬さんの方は控えめに挨拶を返し、教室に向かっていってしまった。

 

「あれ…?」

 

やっぱり俺、嫌われてんのかな…

 

 

 

そう再び不安に思っている内に始業式が終わり、俺は帰り支度をしていた。

 

「新一!一緒に帰ろーよ!」

 

そんな時、大きな声で金井に話しかける声が聞こえた。あぁ、福本か…

 

福本麻耶(ふくもとまや)。彼女はこのクラス…この学年の女子のカーストトップ的存在。男子カーストトップである金井とよく連んでいるが、恐らく福本の方は金井に気があるのだろう。彼女も金井と同じく社長令嬢で気が強く、自分勝手な性格をしているが、顔だけはいいので男子からも人気はあるようだ。あっ、でも金井は成瀬さんが好きとか言ってたから、福本の片思いか…

 

「あー、ごめんね麻耶。今日ちょっと用があって…」

 

そうしていると、福本は金井に断られていた。やっぱ、金井からすれば福本はただの友達なのか…まっ、どーでもいいけど。

 

「えー、分かった…じゃあみんな、帰ろ。」

 

断られた福本は取り巻きたちと帰って行った。その様子を横目に荷物を全部学生鞄に詰め終わった俺に、金井が近づいてきた。

 

「おい橋本、ちょっと付き合えや。」

 

なんだよ、用って俺への虐めかよ…俺は渋々、金井に着いていって、空き教室で金井の気が済むまで殴られ続けた…

 

 

 

そして再び時は流れ…

 

「はぁ…」

 

あれから2ヶ月経ったが、この2ヶ月再び成瀬さんと話すことはなかった。やっぱり、なんかまた避けられてるような気がするし…

 

成瀬さんには避けられるは、虐めはどんどんエスカレートしていってるし、ほんと良い事なんて何も無いよな…

 

俺は一人悩みながら、公園のベンチに座ってさっきコンビニで買った○後の紅茶を飲み始めた。まっ、今は午前だけど…

 

「ゴクゴクゴク…んっ…」

 

「あれ?」

 

そんな俺を見て、声を上げる人物が一人。

 

「橋本じゃーん!」

 

「あぁ、福本か…」

 

偶然会った福本が、珍しく俺に声をかけてきた。

 

「偶然だね、隣良い?」

 

俺が座っているベンチを指差しながら福本が言ってきたので、俺は少し横に寄りどうぞと促す。

 

それにしても、なんで俺に話しかけてきたんだ…?俺は金井やその取り巻きの男子陣には虐められているが、女子とはほとんど関わりがないため、話しかけてくる理由の検討がつかない。

 

「俺に話しかけてくるなんて珍しいな、何の用だ?」

 

「んー、特に用っていう用もないんだけどね…」

 

「用ないのかよ…」

 

「あっ、そうだ!前から聞いてみたいことあったの忘れてた!ねぇねぇ、橋本ってみのりと付き合ってる噂あったよね?あれほんと?」

 

ふと思いついたように聞いてきた福本に、俺は少し戸惑ってから答える。

 

「いや、あれはデマだ。俺の片想い、成瀬さんは俺に恋愛感情なんて抱いてないよ。」

 

「ふーん…じゃあ、橋本はみのりのこと好きなんだ!」

 

「まぁ…」

 

「告んないの?」

 

「えぇ!?いや、俺なんかが告っても…」

 

「そう?みのりもあんたに気がありそうだけど?」

 

やけにグイグイ来る福本を少し疑問に思いながら、俺はそれを再び否定する。

 

「ないない!俺なんかを、成瀬さんが好きになるなんて…」

 

「でもさ、ちょっと可能性あるなら、告ってみるのもいいんじゃない?あたしらもうすぐ卒業だしさ、どの道別れるなら想いを伝えるのもありだと思うけど?それで付き合えたらラッキーみたいな!そんぐらい楽に考えた方が、楽しいんじゃない?」

 

言われてみれば、一理あるかもしれない…福岡の言葉を聞き、俺の考えがそういう風に変わった。

 

「なるほど…確かに卒業したら離れ離れになるしな…告白してみるのも、ありか…なんかありがとな。福本のおかげで、ちょっと悩みが軽くなった気がする。」

 

「それなら良かったよ!あっ、でも振られたからってあたしのせいにしないでよ?」

 

「あぁ、それはもちろん。」

 

「じゃ、あたしはそろそろ行くわ!」

 

そう言って福本は立ち上がり、どこかに走っていった。嵐みたいなやつだな…でも、あいつのお陰でなんか元気出たな…話したことはあんま無かったけど、金井と同じくカーストトップのあいつに正直良い印象はなかった。でも、意外に良い奴なのか?

 

卒業したらどうせ離れ離れ…ならいっそ、ダメ元でも告白してみようかな?福本のお陰で、俺は少しポジティブな考えに変わっていた。

 

あれ?っていうか、福本は結局何しに来たんだ…?まあいっか…

 

 

 

 

 

福本との一件からしばらく考えた俺は、成瀬さんに告白すると決心した。もちろん、それで付き合えるなんて思ってもない。でも、福本が言ったようにこのまま卒業して会えなくなるなんて嫌だ。どうせ会えなくなるなら、想いを伝えてからの方がいい。

 

「じゃあ冬休みの間、怪我せず過ごせよー。受験生らしく、勉強もしっかりするように。」

 

担任が2学期の終わりを告げる。俺は今日、告白するつもりだ。現在時刻は午前11時。11時半に体育館裏に来て欲しい、と福本に伝えてもらっている。お願いしたら、福本はノリノリで良いと了承してくれた。やっぱ、あいつ意外と良い奴なのか?

 

「さて、そろそろ行くか…」

 

まだ時間的には早いが、絶対に待たせる訳にはいかないからな…帰り支度を済ませた俺は、教室を出て体育館裏に向かった。それにしても、体育館裏って凄いベタな場所だよな…

 

 

 

俺が体育館裏に来て少し経つと、足音が聞こえてきた。やはり、早めに来ていて正解のようだった。

 

「あの、橋本くん…」

 

「成瀬さん、突然呼び出してごめん。あと、来てくれてありがとう。」

 

「ううん…それで、話って…?」

 

何故だろう。やはり、成瀬さんは恐る恐る俺と話しているような感じがする。やっぱり、告白しないでおこうかな…いや、怖気付いてどうする!決めただろ、俺!

 

俺は心の中で自分に喝を入れ、話し始めた。

 

「あの…成瀬さ…」

 

いや、告白の時ぐらい、俺がずっと憧れていた呼び方でもいいよな…?話すの、最後になるかもしれないし…

 

「みのり!」

 

俺の突然の名前呼びに成瀬さんは目を見開き、驚いたからか、俺なんかに名前呼びされて怒りが沸いたのか、頬が少し赤く染った。

 

「1年生の時からずっと1人だった俺のことを、たった1人、あなただけが気にかけてくれて、話しかけてくれた。その事が本当に嬉しくて、俺の心の支えでした。」

 

ドクン、ドクンと心臓の音が段々大きくなってきて、額にはつーっと汗が一筋流れる。

 

やべぇ、身体の震えが止まらねぇ…でも、ちゃんと言わないと…!

 

「あなたの事が、好きです!!」

 

言えた…!

 

俺がその言葉を伝えると、成瀬さんはまず目を見開いた。そして、頬を赤く染めて目を潤ませた。俺が少し目線を下げると、手を強く握り締め震えているのが見えた。

 

これは、どういう反応だ…?

 

俺は緊張しながら、身体を震わせながら、成瀬さんが言葉を発するのを待つ。心臓の音が今までにないほどの音量で聞こえ、とにかく時間の流れが遅く感じる。何十秒、もしくは数分経っただろうか、ようやく成瀬さんが口を開く。しかし、その声は…

 

 

 

 

 

「あーあ…最悪…」

 

俺が今まで話し、接してきた成瀬さんからは想像もつかないほど低く、震えているようにも聞こえた。

 

「えっ…?」

 

成瀬さんから出た言葉が『ごめんなさい』でも、ほとんど期待していなかったが『はい』でもなく、『最悪』という言葉だったことに俺は思わず声を漏らす。

 

俺が知っている優しい成瀬さんは、たとえどんなに嫌いな人からの告白だったとしても、『ありがとう。でっ、でもごめんね…』と困ったような笑顔で断るだろうと思い込んでいた。しかし、困惑する俺をよそに、成瀬さんは顔は俯かせながら更に低い声で言葉を発していく。

 

「ほんと最悪…あんたなんかに、告白されるなんて…」

 

なんで…?なんで、そんなふうに言うんだ…?俺が知ってる成瀬さんは、そんなことは言わないのに…

 

「大体、惨めなあんたに、嫌々接してあげていたのを…真に受けて好きになるとか、ほんとダサい…」

 

やめてくれ…君にそんなことを言われたら、俺はこれから何を支えに生きていけばいいんだ…?

 

「っていうか、名前で呼び捨てって…あんたなんかに名前呼びされるとか、ほんと気持ち、悪い…」

 

気持ち、悪い…?

 

俯いて、手を握り震わせながら言葉を発していく成瀬さんに、俺の精神はどんどん削り取られていく。そして、俺が1番聞きたくなかった言葉を、聞いてしまう…

 

「あんたなんかと、二度とっ…二度とっ、話したく、ない!!大っ、きらい…」

 

「っく…うぅ…ごめん、なさい…さよなら…」

 

俺は耐えきれず目から涙を零し、掠れ声でそう言い残し走り去った。今の俺の顔は、誰がみっともないというだろう。涙と鼻水を流しながら、呻き声を零しながらただ走っていく。幸い他の生徒は既に部活に行くか帰るかしているのであまりいないが、それでも何人かいた生徒たちは俺を異様なものを見るような目で見ていた。しかし、そんなの今の俺は気にする余裕もなかった。

 

「はいストップ!」

 

そんな俺の前に、金井がニタニタ笑いながら現れた。

 

「見てたぞ〜今の!くくくっ…ゆっくり感想伝えてぇから、ちょっと来いよ。」

 

俺の力ない手を無理やり引っ張って、金井は夏休み初日にも連れてきた路地裏まで来た。

 

「さてと…いやぁ、今のはスカッとしたわ!やっぱりお前なんか、成瀬と釣り合うわけねぇよな!成瀬も、やっぱりお前をウザがってたんじゃねぇか!ぷっはははははっ!こりゃ傑作だわ!」

 

俺は金井の笑いながら言う言葉を、黙って聞くことしか出来なかった。

 

「さてと、精神面でたくさんたくさん傷ついた橋本くん!精神面でこれだけ傷つくと、肉体的にも傷つかないといけないんじゃないかなぁ?というわけで…オラァ!はっはっはっ!」

 

金井は俺を笑いながら殴り飛ばした。

 

「ぐぉっ!?」

 

「ぐぉって、ほんとお前気持ち悪いな!オラオラっ!」

 

金井は倒れている俺を、そう言いながら踏んづけてくる。

 

「お前なんかが、今まで成瀬と話せただけでも奇跡みたいなもんだ!お前なんてなぁ、生きる価値ねぇんだよ!」

 

生きる価値がない…?

 

「お前なんか、生きててもしょうがねぇ、どうしようもないクソみたいな人間なんだよ!」

 

クソみたいな人間…?

 

「そういえば聞いたぜ?お前、その歳にもなって仮面ライダーが好きなんだってな?馬鹿じゃねぇの!なに人を救うヒーローに憧れてんだよ!お前なんかが、誰も救えるわけねぇだろ!!」

 

誰も救えるわけない…?

 

「はぁ、お前本当に惨めなやつだなぁ!ぷっはははははっ!」

 

そう高笑いしながら、金井は俺を蹴り飛ばして路地裏から去っていった。

 

 

ポツ…ポツ…ポツ…

 

 

その時、空から雨が降り始めた。それは次第に激しくなり、倒れている俺の体はずぶ濡れになっていくが、今はそんなことどうでもよかった。

 

「金井の言う通りだ…ほんと、惨めだな俺…たった3人の友達と離れ離れになって、母さんを失い、たった1人の味方だと思っていた好きな女の子には、本当は気持ち悪がられてた…俺って、ほんとなんのために生きてるんだろ…」

 

俺はよろっと立ち上がりながら、1人そう呟いた。

 

「成瀬さんにも、俺みたいな気持ち悪いやつが話しかけたせいで、辛い思いしてたんだろうなぁ…成瀬さん…本当に…本当に、ごめんなさい…!」

 

俺は唇噛み締め、目から雨なのか涙なのか分からない水滴をいくつも流しながら言った。

 

「なぁ、神様…俺、なんかしたかな…?なんで、俺がこんな不幸な目に遭わなきゃいけないんだ…?」

 

『お前なんてなぁ、生きる価値ねぇんだよ!』

『お前なんか、生きててもしょうがねぇ、どうしようもないクソみたいな人間なんだよ!』

『お前なんかが、誰も救えるわけねぇだろ!!』

 

そうか…俺が生きる価値のない、クソみたいで、誰も救えるはずのない人間だからか…

 

「そうだよな…俺なんかが、仮面ライダーに憧れても、人を救えるような存在になれるわけないよな…生きる価値もないのに…うっ…うぅ…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

俺はただ1人、誰もいない路地裏で泣いた。目から溢れ出た涙で顔はボロボロになり、雨で体はずぶ濡れになっていた。

 

 

 

「はぁ…もう、どうでもいいや…」

 

泣くのにも疲れた俺は、路地裏から出て歩き出す。

 

はぁ…もう、俺なんか生きててもしょうがないよな…もういっその事…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死のうかな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の中にそんな考えが芽生えた時、

 

「隼人!!」

 

女性の叫び声が聞こえた。それと同時に、ブーッ!!!とクラクション音が鳴り響く。それを聞き俺が顔を上げると、赤信号の中飛び出してしまった5歳ぐらいの男の子が、走ってくるトラックに轢かれそうになっていた。そこから先は、考えより先に行動だった。

 

 

 

こんな俺でも、1人だけは救えたかな…?

 

 

 

俺は最期にそう思いながら、轢かれそうな男の子を反対側の歩行者道路の少し柔らかそうな草むらに向かって突き飛ばした。

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

自身とトラックから鈍い音が鳴った。

 

 

 

これでようやく、誰かを助けることが出来た…

 

 

 

そこで、俺の意識はなくなった。

 

 




次回の、μ'sと仮面ライダーの物語!

「優くんのバカ…!」

─穂乃果たちの想い

「それよりも今は、絵里だな…」

─絵里の秘密…!?


「っ……あぁ、ただいま!!」


次回、『121話 あったかい人たち』



はい、ということでついに橋本拓真の前世が明かされました。拓真が死んだ理由も前々から述べられた通りではありましたが、その前の出来事を知ると少し見方が変わった方も多いかもしれません…ちなみに、以前拓真の生まれは関西と書いていたので関西弁で書こうかなとも思っていたんですが、それで読みにくくなるのも嫌だったので、とりあえず周りの人たちもいつも通りの口調で書きました。

あと、この小説は一応全年齢対象で書いてるのでグロい虐め描写などは書かないで、少し優しめに書きました。(まぁ、子供が見てるとは思いませんが笑)



そしてここで、告知致します!

次回予告では121話を書きましたが、この120話には番外編があります。ということで、本日2月24日午後8時に、『120.5話』を投稿します!それを読むとこの話の見方も変わると思うので、是非そちらも読んでみてください!

ちなみに投稿が遅れた理由の一つはこれでもあります。過去編を1話にまとめたのでただでさえ長かった今回の話に、更にもう1話分同時期に投稿しなければいけないので大変でした…


では今回はこの辺で…お気に入り登録、評価や感想なども是非よろしくお願いします!番外編『120.5話』もぜひ読んでください!
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