進撃の双翼   作:黒炉

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トロスト区攻防戦
トロスト区攻防戦① 班


 超大型巨人の出現。

 五年前にもあったそれは、即ち壁が破壊されたことを意味していた。聞きなれない轟音の正体は、壁が破棄された音だったのだ。

 巨人の出現に、カレン、クリスタは激しく動揺したが、対照的にリオとユミルは冷静だった。

 

「とにかく一般人を避難させるのが最優先だ。この時間ならエレンたちは超大型と鉢合わせだろうし、俺達だけで出来ることをするぞ」

 

「そりゃいいが、壁が破壊されたら一度駐屯兵団本部に集まるんじゃなかったか?」

 

「規則は規則だが、俺達や駐屯兵団が戻ってくる前に逃げ遅れた奴が巨人に食われるのは避けたい。出来ることはしておこう」

 

 状況に押しつぶされずに思考する中で、リオは毒づきたいことがあった。

 ちょうど今朝、巨人殺しにおいては最も経験のある調査兵団が、第56回壁外遠征に出たばかりだったのだ。巨人の動きから、おそらくそう遠くないうちに緊急事態に気がつくだろうが、それでも戻ってくるのにはそれなりに時間がかかる。その間を、壁内に残された戦力だけで耐えきれるのか。

 考えても仕方がないと思っていても、どうしても考えてしまう。

 このタイミングの悪さ、まるで調査兵団がいなくなったのを狙ったかのようなピンポイントなタイミング。

 一般的に、巨人に知性や論理性はないとされているので、そんなことはあり得ないはずなのだが、まるで今回の襲撃があらかじめ計画されていたかのように、事が進んでいる。

 もしも巨人側に、そう言った作戦のような物を立てることが出来る何かがいるのなら、それは人類にとって脅威以外の何物でもない。

 

「ねえ、リオ……」

 

「ん、……なんだよ」

 

「どうかしたの? 凄く、怖い顔してるけど……」

 

「……なんでもねえよ」

 

 心配そうにこちらを覗き込んでくるリナを適当に誤魔化す。

 これはまだ推測の域を出ていない。人に話すべきではないし、仮にもっと信憑性のある証拠が出てきた場合には、出来れば各兵団のトップ――――特に調査兵団団長のエルヴィン=スミス――――にのみ伝えたい。適当にその辺の人間に話して、間違った情報が交錯するのも避けるべき事態なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駐屯兵団本部。

 トロスト区内にあるここは、壁が破壊された時の戦略城塞にもなるように設計され、刃とガスの補充施設も整っている。

 第104期訓練兵218名全員が、ここに集められていた。

 ついさっき、厳つい見た目の隊長から、お前たちは訓練を終えた兵士だから戦って来いと、ありがたいお言葉を貰ったばかりだ。

 そしてリオは今、その隊長に一言文句を言ってやりたい気持ちでいっぱいになっている。

 

「(……どうしてカレンとダズが同じ班なんだよ!?)」

 

 ありがたいお言葉の後に呼ばれた36名(エレンやジャンと仲良しのマルコなどもいた)が呼ばれ、そこで自分たちが各班を仕切る班長に指名されたのだ。

 リオの班は、リオ、ジャン、カレン、ダズ、それから104期公認カップルのハンナとフランツ。

 人数的に、各班6人ずつ、計36班が造られたのだと考えられる。

 

「(常識的に考えて、今年のビリとビリ2を同じ班にするか!? もうちょっと考えて物言えよのクソバカ!! 巨人にビビって判断力鈍ってんのかクソが!!)」

 

 などと言ってやりたいが、言ったところで首をはねられて終わりなので口に出すことはしない。

 幸い、リオとジャンは上位10人に選ばれるほどの実力者、ハンナとフランツも、いつもいちゃいちゃしていてバカップルと呼ばれているが、戦いの技術は決して悪くない。

 最下位二人がいるにもかかわらず、バランスが取れていないわけではないのだ。

 言っていても何も変わらないので、さっさと班員を呼び寄せる。

 幸い、カレンはすぐに見つかった。カレンに頼んで、ハンナとフランツを呼びに行ってもらっている間に、リオはジャンとダズを探しているというわけだ。

 

 

『落ち着いて死にに行けってのか!?』

 

 

 二人を探して歩き回っていると、ジャンの叫び声が聞こえてくる。

 向かってみると、こんなときにも関わらず、ジャンとエレンが喧嘩をしていた。

 

「おいジャン、やめろって」

 

「やめなさい、エレン」

 

 何処からともなく現れたミカサとリオが、同時に平常運転のバカを止める。

 二人とも不服そうだったが、どうせ逆らったところで自分を抑える人間には勝てないと判断したのか、抵抗はしなかった。

 

「おいミカサ、エレンの管理はお前の仕事だろ。何放し飼いしてんだ」

 

「リオこそ、ちゃんとジャンの手綱を握っておいてほしい」

 

「「俺はペットじゃねえぞ!!」」

 

 エレンとジャンのいざこざは本当に面倒なので、ミカサとリオは相手の相方を侮辱しつつ、言葉による攻防戦を繰り広げ始める。

 当然黙っていないバカ二人だが、バカがいくら騒いだところで104期トップの二人にはかなわない。

 いくら言い合っても無駄なので、さっさと他の班員のところへ戻ることにする。

 

「お前、少し大人になれよ、ジャン。エレンが何か言っても無視すればいいだけだろ」

 

「俺は何もしてねえ!! あの死に急ぎ野郎がつっかかってくんだよ!」

 

「だから、それを無視しろっつってんだ。行くぞ、お前とダズは俺の班員だ」

 

「チッ……」

 

 ジャンは納得いかないようだったが、ジャンがどう思ったところでやることは常に巨人の殲滅のみ。今は我慢してもらうしかない。

 リオとしては、ジャンにも呆れるが、エレンにも呆れるところだ。ジャンの言うことは、ひん曲がってはいるが、間違ってはいない。はっきり言ってしまえば、安全な場所に行きたいという気持ちは人として当たり前の感情なのだ。

 それを、壁の外に憧れるのがあたかも当たり前のような言い方をするエレンに、リオとしては呆れるしかないのだ。

 

 リオには、高くそびえるあの壁の向こうの世界が、そこまでして目指す価値のあるものだとは、どうしても思えないのだから。




《現在公開できる情報》

ミカサが『手綱を握って~』という表現をしたのは、決してジャンが馬面だからではない。
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