学校が始まったので更新がやや不定期になると思います。
申し訳ありません。
ウォール・ローゼ、トロスト区内。
リオ、ジャン、カレン、ダズ、ハンナ、フランツの六人で構成される訓練兵21班は、中衛部隊の中央で前衛と後衛の両方を臨機応変に援護するように言われていた。
もともと巨人を恐れていないリオや、最初から調査兵団に入る気満々のカレンは別にしても、他のメンツはやはり巨人への恐怖が隠せないでいる。
「くっそ……よりによって、どうして今日なんだ……!? 俺ぁ明日から内地行きだったのに……」
「言ってもしょうがないだろ。内地で安全に暮らしたきゃ生き残れ。運が良けりゃ、前衛の先輩方が全部片付けてくれるさ」
毒づくジャンに、リオは冷静な指摘をする。
が、今一番毒づきたいのはリオ本人だったりもする。
「(ジャンはあんなペースだし、カレンはモチベーションはあるがおそらく実力不足。雑魚でビビりのダズは論外だし、バカップルもいつものペースじゃないな。これで奇行種にでもブチ当たったら壊滅は必至)」
できれば前衛だけで全ての巨人を片づけ、人民を避難させるだけの時間を稼いで欲しい。
もとより、壁に開いた穴をすぐに塞ぐ技術はないのだから、避難さえ終わってしまえばリオたち兵士がトロスト区に残る理由は皆無。今回の勝利条件は、それまで生き残ることなのだ。
だが、世界という奴は残酷なもので、
「21班、前進せよ!」
伝達係をおこなっている駐屯兵団の兵士が、後衛に戦況報告に向かいつつ、リオたちに告げる。
リオやカレンは特にどうとも思わないが、ジャンたちは明らかに嫌そうだ。
「聞いたろ。前進するぞ。二人一組の陣形を崩さず、お互いがお互いをサポートできる間隔を保て。巨人の接近に気が付いたらすぐに俺に知らせること!」
言い終わるや否や、リオは即座に立体機動装置を駆使し、建物の間を鳥のように移動していく。
それとほぼ同時にカレンが飛び出し、続いてジャン、フランツ、ハンナ、ダズと飛びだしていく。
各壁の外側にある街は、巨人を一か所に引きつけておく役割も果たしており、万が一巨人が侵入してきた時の為に、建物も立体機動での戦闘を意識した設計になっている。
よって、装置のアンカーを打ち込む場所には困らない。
リオは比較的背の高い時計塔にアンカーを打ち込み、一度高度を取って周囲を見渡す。
進行方向に、およそ10メートル級の黒髪の巨人を発見。
「ひ、左前方!! 12メートル巨人を発見!!」
「右から5メートル級、来るぞ!!」
フランツとジャンがほぼ同時に巨人を発見。
リオが見つけた巨人はまだこちらには気づいていないようだが、他二体は明らかにこちらに向かってきている。
六人を三人ずつに分ける必要がある。
「ジャン! ハンナとフランツとお前で、5メートル級をやれ! カレンとダズは俺と一緒に12メートル級だ!」
「「了解!」」
即座にメンバーを割り振ると、リオは態勢を変えてガスを一気に噴射、左方向に向かって移動していく。
戦力的にはかなりジャンのほうに偏っているが、最悪一体ならリオ一人でも殲滅できる。肝心なのは、リオの目の届かないところで最悪な事態が起こらないようにすることだ。
それに、ジャンの統率力とハンナとフランツの連携力なら、通常種の巨人にも十分対抗できるはず。
「カレン、うなじを狙え! ダズは俺と一緒に囮だ!」
指示を飛ばすと、巨人の目の前をわざとらしく通過する。
知能のない巨人を、とりあえず目の前に人間がいればそれを追いかける習性がある。それを理解した上での行動。
一旦建物の上に着地すると、リオは即座に別の建物にアンカーを発射し、移動する。直後、ついさっきまでリオのいた所が巨人の手によって破壊される。
「カレン、やれ!」
「分かった!」
おそらくはカレンもタイミングを図っていたのだろう。文句のつけようのない速度でアンカーを巨人の首に撃ち込み、一気に距離を詰めてうなじを狙っている。
巨体の代償として、動きが愚鈍な巨人は、攻撃直後の奇襲に反応できない。以前アルミンが言っていたことであり、座学をトップで卒業した彼の言葉だからこそ、作戦に組み込む気になったのだ。
だが、その作戦立案を担当したリオの予想の斜め上を行く事態が発生する。
「うっ!?」
「ぐえぁっ!?」
いきなり、カレンの身体がくの字に曲がった。
何か棒のようなものにひっかかった感じだが、その正体をリオはすぐに見破る。
立体機動装置のアンカーについているワイヤーだ。
自分のアンカーはすぐ隣の壁に刺さっているので、あのワイヤーの持ち主は……
「カレン、ダズ!!」
ワイヤーに激突し、動きが止まったカレンに、ワイヤーの持ち主のダズが激突する。
二人のアンカーはその瞬間に外れてしまい、二人の体を支えてくれる物はなくなる。あの高度から地面にたたきつけられれば、どんなに鍛えていても骨折は免れない。
まして、あの二人は今期最弱の兵士。最悪、落下事故で死んでしまうかもしれない。
そんな、何のために兵士になったのかすらも不明な死に方を、仲間にさせるわけにはいかない。
その重いで、リオはすぐに飛びだそうとしたが、カレンの咄嗟の機転が意外と役だった。
カレンは外れたアンカーをすぐに回収して射出し、巨人に身体に撃ち込んだのだ。当然、巨人の体は肉なので、人間二人分を支えるだけの力はなかったが、落下速度をかなり遅める事が出来た。お陰で、激突こそしたものの、二人が骨折したり、重傷を負ったという様子はない。
ただし、今度は別の危険が二人を襲う。
「……ッ!? きゃ、ダズ、ちょっとどいてよ! はやく逃げないと、巨人が……!!」
「ひ、ひぃぃ……すみませんすみません……」
だめだコイツもうお前だけ死ね!!とカレンが悪態をつくが、彼女の細腕でダズを動かすことはできない。カレンの動きを阻害しているダズは、完全に腰が抜けて動けなくなっている。
12メートル巨人が、絶好の得物を見つけたと言わんばかりの満面の笑みで二人に迫る。
「俺を、無視してんじゃねええええええええええええええええええええええ!!」
カレンとダズに釘づけになっている巨人のうなじにアンカーを打ち込み、リオが咆哮する。
二人の身体が巨人に掴まれる直前、リオの刃が巨人のうなじを削ぎ飛ばす。
「二人とも、怪我してねえか!?」
「わ、私は何とも……」
「き、巨人、巨人は!?」
カレンは特におかしな様子もなく立ちあがったが、ダズは既に精神的に再起不能に近かった。
このまま放置するわけにもいかないし、かといって全員でここにかたまっていても巨人に狙われる。とにかく、移動しないことには何も始まらないのだが……
「リオ!!」
背後から名を呼ばれ、リオが振り返る。
こっちに向かってきているのは、ジャン。だが、二人が浮かべる表情は、班長であるリオに勝利報告をするためのものではない。
それに、明らかにおかしい点がある。
「おい、ジャン……ハンナとフランツはどうした……?」
「聞いてくれ、リオ。俺達に体の小さい巨人を任せたお前の判断は正しかった。俺はそう思うんだ。けど、アイツは……!!」
ジャンは、焦るように、まくしたてるように話し続ける。
いまいち要領を得ないが、どうやらジャンたちの方に何か異常事態が発生したことは分かった。
「とにかく落ちつけよ、ジャン。何があったかのか、簡潔に教えてくれ」
「あ、ああ。だから、フランツが……!!」
ようやく落ち着きかけ、ジャンから話を聞けると思った矢先、今度は地響きがジャンの言葉を遮る。
少なくとも今、この状況で聞こえる地響きの原因など、たったひとつしかない。
ダズは迫ってくる『それ』に悲鳴を上げ、リオとカレンは即座に立体機動に移る。ジャンも彼にならってアンカーを射出。
リオたちを踏みつぶさんばかりに全力疾走してきたのは、ジャンたちに仕留めるように指示した5メートル級巨人。
しかし、全力疾走や腕の振り方、リオたちを無視したことなどから考えて……
「……奇行種か!?」
通常種とは異なり、人間の想像の及ばない突飛な行動をとる巨人、奇行種。一般的に、行動を読みやすい通常種よりも相手をするのが難しいとされる巨人だ。
熟練の兵士でも、初見で奇行種か否かを見破るのは難しく、行動パターンをある程度見てからでないと、判断するのはほぼ不可能。
だから、リオがあの巨人が奇行種であることを見破れなくても、仕方のないことなのである。
しかし、巨人が口にくわえているものを目撃した瞬間、リオの思考からそんな言い訳が吹っ飛ぶ。
フランツの上半身。
巨人の口からはみ出るように、フランツは両手を投げ出して咥えられていた。意識がないのか、目を閉じたまま動かない。
あるいは、死んでいるのか。
「フランツを、返せえええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」
奇行種を、物凄い勢いで追跡していく影。
ハンナだ。
恋人であるフランツを咥えられたまま逃走され、明らかに頭に血が上っている。
「チッ……ジャン、俺とお前であの奇行種を仕留める! ダズとカレンは巨人の接近を警戒しつつ、ついてこい!!」
さっき自分が確認した巨人の方も気になるが、今は目の前の奇行種の方が優先だ。
それにあの奇行種は、フランツを咥えたままだ。
フランツがもう死んでいるのなら希望はないが、仮に生きているのなら、すぐに応急処置をしてウォール・ローゼ内に運べば、命だけは助かるかもしれない。
フランツをあの巨人と戦わせたのは自分なのだから、それくらいはしないと班長として、指揮官として、仲間として失格だ。
ハンナを先頭に、リオ、ジャンが続き、その左右にダズとカレンが展開、索敵の役割を果たしている。
陣形としては、崩れてこそいるが、まだ機能を保てる範囲。だから、今のリオの不安の種はそこではない。
今気にするべきは……
「(ガスの残量……)」
立体機動装置は、ガスを噴出することで移動を可能とする。つまり、ガス切れは絶対に避けなければならない。
だが、さっきの巨人戦、それに現在の奇行種の追跡で、おそらく班員のほぼ全員が半分以上ガスを消費していると思われる。
壁を登る為のガスを残しておかなければ、死は避けられない。
だが果たして、それだけのガスを残して、撤退命令が出るまでの間、生き延びることは可能なのか?
「……! おい、リオ。見ろ」
「おっと……」
目の前、開けた広場の中央で、奇行種が停止した。さすが奇行種、意味が分からない。
相変わらずフランツを咥えたままだし、何か別の行動をとる素振りもない。
……仕掛けるなら、今か。
「……ハンナ?」
追いついてきたカレンが、ハンナの顔を覗き込む。
嫌な汗がどっと噴き出し、彼女の両手は震え、機動装置を刃がカチャカチャと金属音を立てている。
ハンナは、巨人に立ち向かう恐怖と、愛する人を助けたいという願いの間で板挟みになり、懸命に恐怖と闘っているのだ。
だが、そんなハンナをあざ笑うかのように、巨人は奇行に走る。
当然だ。あの巨人は、奇行種なのだから。
「な……!?」
「フランツ!?」
巨人は、口に咥えていたフランツを、首を回転させて思い切り遠くへと吐きだした。
巨人の頭部の運動力を直に受け取ったまま、フランツの身体は空の彼方へと飛び去っていく。
「フランツ!!」
どんどん遠ざかっていくフランツを追いかけるハンナ。
当然、彼女を単独行動させるのは危険すぎるので、他のメンバーに援護をさせようとするが、そこでさらに予想外の事態が発生する。
「も……もう嫌だ!! 俺はやめる! もうやだあああああああああああ!!」
ダズが突如絶叫し、巨人やフランツとは正反対の方向へアンカーを射出、そのまま逃げだしてしまう。
流石のリオも、突然の敵前逃亡に唖然とするが、そんな暇はもちろんない。
さっきまでリオたちには目もくれなかった奇行種が、突如こちらへ走ってくる。
「クソ、どいつもこいつも勝手に行動しやがって……! ジャン、ダズを追いかけろ! カレンはハンナとフランツの援護! 何が何でも死なせんな!」
「ちょ……冗談じゃねえぞ! 俺は処刑なんてされたくねえ!」
「俺の指示で一時戦線を離脱したとか、適当にごまかしとけ! どうせもう伝令もまともに機能してねえだろ!!」
そう。もしもまともに伝令や前衛がきちんと機能していて、順調に作戦が進んでいるのなら、そもそもリオたちはこんな窮地に陥ることなどなかったのだ。
リオの予想では、前衛にいた駐屯兵団はほぼ全滅。訓練兵の中からも、おそらく相当数の死者が出ているだろう。
だから、本当はこれ以上無意味に戦力を拡散し、犠牲を出す可能性を上げたくない。が、
「いきなり逃げ出す臆病者かもしれないけど、ダズだって今まで必死にやってきてんだよ! ほっとけるわけねえだろ!!」
「……っ。分かった。カレンをハンナたちの援護に向かわせるってことは、お前は一人で奇行種とやるんだな?」
カレンがえっ、と声を上げるが、それを無視し、リオは静かにうなずく。
リオがもともと、複数で確実に一体の巨人を仕留める戦法を選んだのは、それが一番安全だからだ。
その安全を手放すということが、どういうことなのか、勿論、リオは理解している。
「……奇行種と言っても、たかが5メートル。弱点はかなり狙いやすい。信号弾は撃てないから、それぞれ合流した後のことは任せることになる。……悪いな」
「気にすんなよ、お前らしくねえ。こういうとき、ズバッと俺を引っ張ってくれるから、俺はお前を信頼してんだぜ」
「そうだよ、リオ。リオの言う言葉なら、私は信じて戦えるよ。だってリオのこと、大好きだもん」
それ死亡フラグじゃないか? とリオは思ったが、口には出さないでおく。
そう無邪気に言われてしまうと、リオとしてもなおさらここで巨人と心中なんてつまらない終わりは迎えられなくなる。
「よし、絶対に誰も死なせるな! 行くぞ!」
「「おう!」」
全員で生きて帰る。
ただそれだけを目指して、彼らは一斉に飛び上がる。
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104期の訓練兵は、奇行種への対処法を学んではいるが、それを実践で活かせる人物は少ない。