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翌日の訓練では、午前中は基礎的な体力づくりや筋トレを行った。
早速ついていけない訓練兵が続出し、ある者は逃亡を図り、ある者は資質なしとみなされ開拓地に送られる。そんな光景が、午前中いっぱいまで続いた。
午後からは、立体起動装置の適性検査が始まる。
よって、その前に腹ごしらえとなるのだが……
「……………………………………」
リオの周りは、まるで葬式か何かのようにどんよりとしていた。
正確に言うと、リオを中心として、まるでドーナツのような形で空気が重かった。
それもそのはずである。リオは全訓練兵(一部除く)が恐れる教官に喧嘩を売り、不可避と恐れられている頭突きを避けた異質 な少年なのだから。
おまけに、同じくほぼ喧嘩をうるのと同義なことをしでかしたサシャの周りは人当たりのいい性格が幸いしてそこそこにぎやかだ。
「……………………………………」
リオの周りの訓練兵はみなリオを恐れるような目で、ちらちらと横目でリオの態度を窺っている。
午前中の訓練で改めて発覚したが、基礎的な身体能力ではリオは104期訓練兵中最強であり、ただの喧嘩ではおそらく勝てる人物は一人もいない。
そんな人間の周囲で食べる飯が美味いわけもなく、
「…………………………………………………………………………」
沈黙が加速する。
一体どれだけの訓練兵を脅かせば気が済むのかと突っ込まれても文句は言えないリオは(そんな強者はもちろん存在しないが)、ただ黙々と味の薄いスープを口に運んでいる。
本人には全く自覚はないのだが、細身でありながら必要な筋肉を必要な個所に必要な分だけ身につけているリオは、そこにいるだけで威圧感を生み出してしまう。同じ104期生であるライナー=ブラウンのように見た目にも明らかなゴツイ肉体を持っているわけではなく、あくまでも外見は細身である為に、その威圧感には不気味さも混じっている。勿論本人に自覚はない。
なので。
「(………………どうして俺は皆に避けられているんだ?)」
現状の理由が自分にあることも全く自覚していない。
リオが心の中で、訳が分からないと首をかしげていると、まるでリオの威圧感にあてられましたと言うかのようにいいタイミングで通路を挟んでリオの隣に座っていた少女がスプーンを落とした。
カラン、という音ともに、周囲の人間が一斉に戦慄する。
そしてスプーンはリオのもとへと転がっていき……
「「(ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!???)」」
声なき悲鳴が響き渡る。
「ん、スプーン。落としたぞ」
「あああああありがとござざまます」
何気なく拾ったスプーンをそのまま少女に手渡し(水道まで行って洗ってから渡しても良かったが流石に面倒だった)、再び自分の食事に手をつけるリオ。面倒なので、今にも泣き出しそうな少女には触れない。
今の事件(?)をきっかけに、同じテーブルについていた三人組が絶望の表情で自分の食事を胃に流し込みさっさと立ち去って行った。理由はさっぱりだったが、リオは関係ないという風に依然として薄味スープを口に運んでいる。
「あのー」
そんな無自覚無意識に恐怖をまき散らすリオに、一人の猛者が声をかけた。
「「(ば……あのバカああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?)」」
カレン=プラチナ。
今期最弱と皆から憐れまれている(バカにできるレベルを通り越している)少女である。唯一評価できる点は、どんなに厳しくても決してあきらめることのないその根性だ。
ちなみに憐れまれる理由の一つに、訓練兵一身体が小さいことがあげられる。
「私、ぜんぜん訓練についてけなくて、居残りで走らされてたら他に座れる場所がなくなっちゃったんですよ。なので出来れば座らせてもらいたいなーって……」
ついさっきあまりのプレッシャー(何度も言うが無自覚)に耐えきれずに三人が精神的にノックアウトされたばかりだと言うのに、そこに座ろうとするは、根性だけは本物である。
「別に構わねえけど」
「良かった! 流石にお昼食べれずに午後に臨むのは辛いと思うんですよね!」
リオの素っ気ない返答に、満面の笑みを浮かべるカレン。彼女の小柄(すぎる)な外見もあって、まるでおもちゃを買い与えられた子供のようだ。
勿論、周囲の人間はカレンがリオの機嫌を損ねて爆発させないかと冷や汗だらだらである。
対して美味いわけでもないスープにカレンが何故か舌鼓をうっていると、
「……悪いけど、先に片づけさせてもらうよ」
空になった容器を持ってリオが立ちあがった。比較的ゆっくりなペースで食べていたために、カレンが来た時もまだ少し残っていたスープがきれいさっぱりなくなっている。
「あれ? もう食べ終わっちゃったんですか?」
「ああ。だって……」
首をかしげるカレンに、リオが食堂の入り口のドアを指差す。つられてカレンがそちらを見ると……
「貴様ら! 食事の時間は終わりだ! 五分で訓練場に並べ!」
「こうなるだろうしね」
「Oh……」
項垂れるカレンがスープ二口しか口に出来なかったのは、言うまでもない。
《現在公開できる情報》
カレン=プラチナの基礎能力は既に開拓地域が決定した人間よりも劣るレベルであるが、彼女はそれを努力と根性で補っている。