進撃の双翼   作:黒炉

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第104期訓練兵④ 適性検査

 午後の訓練――――立体起動装置の使用における適性検査は、午前中に比べればある一面では非常に楽であり、ある一面では非常にシビアだ。

 その理由は、午前中の筋トレや体力作りがこれから長い時間をかけて地道に行って行くものであるのに対して、適性検査は今この場で結果を出せなければ即失格となってしまうからだ。

 巨人との戦闘で絶対に必要な『立体起動装置』は、多少なりとも才能依存なところがある。

 具体的に言うと、身体の平衡感覚や姿勢などがあげられる。

 木材とゴムで造られた適性検査装置にぶら下がり、どの程度姿勢を保っていられるかで適性を判断し、才能がないと分かればいくら身体能力が高くとも即開拓地行きである。

 よって、リオは少なからず緊張していた。

 いくら鍛えた肉体があっても、ここで結果を出せなければ全てが無意味だからだ。

 巨人との戦闘において、飛べない猛者と飛べる雑魚では後者の方が重宝されるのである。

 そしてもう一つ、リオの心を暗くする要因がある。

 

「うわ、うわわ、うわわわ~~~!?」

 

「これってもう既に才能の一つなんじゃないか……?」

 

 単にぶら下がるだけでいいはずの適性検査装置で、異常なまでに回転し続ける少女である。

 カレン=プラチナ。第104期訓練兵最弱と名高い(?)少女だ。

 というか、カレンは腰のあたりを軸にして頭と足が動く形で回転しているので、既に食べてもいない昼食をリバースしそうなほど辛そうだ。

 仕方ないので、無理やり両足を掴んで回転を止めさせる。

 

「お、おい、大丈夫か……?」

 

「う……うえっぷ……」

 

「イエスかノーか分かんねえ……」

 

 とりあえずあの場でリバースされても困るので、ちょうど木陰になっている所にカレンを連れて来て休ませた。軽く背中をさすってやると、少しだけ楽そうに表情を緩めた。

 ところで連れてくる際ににお姫様だっこをした時、カレンの顔が赤かったのは何故だろう?

 

「ヴィラッグ。プラチナの様子はどうだ?」

 

 大体どの訓練兵の様子も見終わったところで、教官であるキースがやってきた。

 キースは普段は厳しいが、こういうときにはちゃんと気遣いが出来るいい人である。

 

「多分大丈夫だと思いますよ。ま、あれは俺でもくたばりますし、二、三時間は休ませた方がいいんじゃないですか?」

 

「……そうか。では済まないが、そのまま看病を頼む。お前の適性検査は、最後に回しておこう」

 

「どもっす」

 

 そう言って立ち去ろうとしたキースは、何かを聞きたそうにしていた。

 それはきっと、リオにとっては聞いてほしくないことで、聞きたくないことなのだろうと思う。だから、聞かずに立ち去ってくれたとこにリオは素直に感謝した。

 

 バスク=ヴィラッグとサリー=ヴィラッグ。

 

 調査兵団に所属していたリオの両親。

 壁の外の世界を目指し、志半ばで死んだ二人。

 あくまで結果論ではあるが、自分と妹をないがしろにして勝手に死んだ親を、リオは憎んでさえいる。

 家族を捨ててまで目指す物が、今はその役割を殆ど果たしていないウォール・マリアの向こうにあるとは、到底思えないのだ。

 

「ん……」

 

 穏やかな風が吹いて二人の髪を撫でると、カレンが少し苦しそうに起き上った。

 あの驚異の回転運動からこの短時間でよく起き上がれるようになるな、とリオは少し関心する。

 

「大丈夫か? 教官の許可も貰ってるし、まだ休んでていいんだぞ?」

 

「あー……なら、お言葉に甘えちゃいますね……」

 

 どうやら訓練の方を心配していたらしく、カレンはリオの言葉を聞いて安心したようにまた横になる。

 今日の気候はここ最近で見ても良い方で、風も穏やかだし日差しもキツくない。屋外で休むには申し分ないだろう。

 

「ねえ、ヴィラッグさんは……」

 

「……リオ」

 

「え?」

 

 横になり、目を閉じながらも口を開いたカレンの言葉を遮り、リオは言う。

 

「同期だろ。別に呼び捨てでいいし、敬語でなくてもいい。……名字は、嫌いなんだよ」

 

「………じゃあ、リオって、呼ぶね。リオは、『自由の翼』って知ってる?」

 

「ああ。調査兵団のマークになってるあれだろ」

 

 四つある兵団にはそれぞれ、所属する兵団を示すマークが存在する。

 憲兵団は『一角獣(ユニコーン)』、

 駐屯兵団は『二本の薔薇』、

 訓練兵団は『交差する二本の剣』、

 そして調査兵団は、『自由の翼』。

 

「私、調査兵団になりたいんです。何者にも囚われない『翼』って、憧れますよね」

 

「……俺は、そうは思わねえよ」

 

 えっ、とカレンは横目でリオを見た。

 意気揚々と己の決意を教官に宣言した時の目とは全く異なる、暗い闇を孕んだ目。

 

「壁の外なんて、巨人しかいないじゃないか。言い方は悪いが、多くの人間を奪還作戦と称して殺したんだ。もう土地を取り返さなくてもいい程度には、困窮は収まってる。なのに、これ以上人を死なせる行為に、意味なんてあんのかよ」

 

 調査兵団の壁外調査には、毎回高い死亡率が伴っている。

 立体機動装置がより改良されたおかげで、多少マシにはなっているもののそれでも一番死亡率の高い兵団には違いない。

 必要以上の『何か』を求めて命を散らすという行為が、リオには理解できないのだ。

 

「……何かあったんですか? 調査兵団を、壁の外をそんな風に思う『何か』が」

 

「つまんねえ話だ。聞く価値もねえよ」

 

 人に語って聞かせるようなお気楽な話でないことは分かっている。

 ただ同時に、それはリオにとって、絶対に人に話してはならないような禁断の過去というわけでもない。

 ただ、思い出したくもないことを思い出すだけのことだ。




《現在公開できる情報》

104期訓練兵の担当教官であるキースは、カレンに触れることでリオの心の闇を溶かすことができると判断している。
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