進撃の双翼   作:黒炉

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ウルドラさん感想ありがとうございました!


第104期訓練兵⑤ 記憶

 五年前。

 調査兵団きっての精鋭である、バスク=ヴィラッグとサリー=ヴィラッグが死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「子ども二人を残して死ぬなんて、何を考えてたのかしらね」

 

「調査兵団なんかに所属しているから」

 

「巨人に刃向うなんてバカなこと、しなければいいのに」

 

「残された子供がかわいそう」

 

 当時、ヴィラッグ夫妻の部下を務めていたカイゼル=ボザドが何とか持ち帰った男性の右腕と女性の左足を埋葬したところで、リオはそんな言葉を聞いた。

 勿論、それに関して激昂しただとか嫌悪感を抱いただとか、そう言ったことがあったわけではない。そこまでしてやるほど、リオは両親が好きではなかった。

 ただ、こう思っただけだった。

 

 

 ざまあみろ、と。

 

 

 我ながら最低だとは思う。それでも、どれだけ時間が経っても後悔だけはしなかった。

 ただただ、自分と妹をほったらかして外の世界に夢中になった両親を嘲笑った。

 そして心の刻みつけた。これが、壁の外に憧れた人間の共通の末路なのだと。

 だから、ある悪友の言葉ではないが、調査兵団に所属する、あるいはしたいと思っている人間は全員、リオからすればただの死に急ぎ野郎。

 今ある目の前の降伏に気づかず、自分の命を蔑にする人間は、みなリオにとっては無価値な存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と言ったことを悪友であるジャンに漏らしたら、ブン殴られた。

 

「おいテメェ……もう一度自分の親のことをそんなふうに言ってみろ、ぶん殴るぞ!」

 

「もうぶん殴ってるだろうが……」

 

 そんなことをいいながら、リオは何事もなかったかのように立ち上がり、ペッと血を吐き捨てた。

 何故殴られたかも分からず、分かるつもりもないと言外に示して。

 

「テメェ……、自分が何言ってんのか、分かって……ッッ!」

 

 ジャンが再びリオを殴りつけようとする。

 が、不意打ちだったさっきとは違い、来ると分かっている攻撃ならリオにとって脅威でも何でもない。

 この時すでに、リオはリナを守るために血の滲むような凄まじい訓練を行っていたのだから。

 

「……ッッッ!?」

 

 気が付けばジャンの顔面を壁にぶつけられ、鼻血が垂れていた。

 リオが突き出されたジャンの腕を絡めとり、引いて、後頭部を掴んで壁にぶつけたのだ。

 だが、その挙動の速さはジャンの動体視力でカバーできる範囲を突出しており、ジャンには何が起きたのかすら認識できなかった。

 

「綺麗事を並べる前に現実を見ろよ、ジャン。お前は俺に勝てないだろうが」

 

「……ッッ!!」

 

 ブチブチ!と、ジャンの青筋が音を立てた。

 正しいことを言っているだけなのに、俺はコイツにそのことを認めさせることが出来ない、と。

 ジャンの言っていることは正しい。けれど、それを力でねじ伏せて聞かないリオは、更に続ける。

 

「世界ってのはこういう風に出来てんだ。正しいか正しくないかじゃない。強い奴がルールなんだ。俺の親父もお袋も、弱かったからルールになれなかったんだよ」

 

 そう言って、リオはジャンの顔を覗き込んだ。

 それは、子供がする表情ではなかった。

 それは、子供がしていい目ではなかった。

 

「ジャン、分かるか? 人間は巨人には勝てないんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこまで語って、リオは一息ついた。

 やはりこれは、人に語って聞かせる物語ではない。

 ただ話したところで、理解できるのはリオ=ヴィラッグという人間が心底性根の腐った人間であるということと、調査兵団に入ったところで先にあるのは死のみということだ。

 

「リ、リオの御両親って、あのヴィラッグ夫妻なの!?」

 

 が、カレンにとってはそれ以上に驚くべき何かがあったらしい。

 安静にしていなければならないはずなのに、カレンは何故か跳び起きてはしゃいでいる。

 

「あ、ああ……そうだけど、それが?」

 

「ヴィラッグ夫妻と言えば、過去の調査兵団を見ても並ぶ者がいないとされる超有名人! 特にツーマンセルでの戦術はまさに芸術で、見る者を圧倒するとか!」

 

「言われても分かんねえよ……俺は親父たちには興味がねえ」

 

「ええ!? 何でそんな……あっ…」

 

 言いかけて、カレンは急いで自分の口を塞いだ。

 ついさっき聞かされたばかりだ。リオは自分の両親の死に何も感じなかったし、蔑んでさえいると。

 

「気にしなくてもいいさ。興味がないんだから、別に何を言われても気にしないしな」

 

 リオはそう言ったきり、会話を止めてしまった。

 リオの言う通りなら、カレンの方に何か不手際があった訳ではない。

 ただ、興味がないと言い切る割には、リオが話をすることに苦痛を感じているように、カレンには見えた。

 

「(でも、それでも……)」

 

 これだけは言いたかった。

 調査兵団は、決してバカなんかじゃないと。

 壁の外の世界に広がる未知の領域を臨むことは、何も悪いことじゃないと。

 単なるエゴでしかないかもしれないし、ただの押し付けなのかもしれない。

 けれどカレンは、リオに、外の世界のことを知ってほしかった。

 子供の我儘のように、最初から興味も持たず、無意味と決めつけてほしくなかった。

 

「……貴様ら、お喋りをしている余裕があるなら訓練に戻ってもらおうか」

 

 そして、目の前の教官をなだめる術を教えてほしかった。




《現在公開できる情報》

リオ=ヴィラッグ、カレン=プラチナの立体機動装置の適性検査は合格である。
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