お盆休みで帰省していたので二日ほど空いてしまいましたが…第7話更新です!どぞ!
訓練兵たちは主に、巨人と対抗するための技術、巨人を殺すための技術を身につけるが、中にはそれ以外の訓練も存在する。
対人格闘訓練。
駐屯兵団や憲兵団を志望する兵士にとってはそこそこ重要な技術であり、通常はナイフを持ったゴロツキを素手で相手取ることを目的として訓練する。
が、ここに、そんなシチュエーションなど知ったことかと言わんばかりの格闘を繰り広げる者が二人。
「……ッッ!!」
「のあッ……!」
自分の頬を掠める強烈な蹴りに思わず声が出てしまう。
明らかに意識を狩り取るつもりで放たれた一撃。
相変わらずの容赦のなさに、むしろ感心してしまう。
だんだんそのままの体勢で戦うことが辛くなり、一度バックステップで距離をとる。
「テメェ、アニ……今のマジの一撃だったろ」
「アンタとエレンが相手の時は、全力出すようにしてるから」
構え直した少年、リオに向って、アニ=レオンハートは告げる。
彼女が使う格闘術は、訓練で習うような『相手を無力化する事を目的とする』ものではない。手加減されてるうちは再起不能が当たり前。本気を出されれば、打ちどころによっては、意識どころか命まで持っていかれるタイプの格闘術だ。
故に、全力を出されるリオとしては、本気で対応しないと文字通りの命取り。
「ほら、さっさとかかってきなよ。……それとも怖いのかい?」
「上等ッッ……!!」
右手を立てて挑発するアニに、殆どマジギレ寸前なリオ。
冷静さを欠いて、格闘戦でリオがアニに勝てる確率は極めて低い。というか無い。
アニの予想通り、リオの右ストレートは真っ直ぐにアニの顔面を狙ってくる。
「(……甘いんだよ)」
それを避けると、アニは即座に足払いをかける。体勢を崩してリオがこちらに倒れてきたところに、腹部へキツイ一撃をお見舞いして終わらせるつもりだった。
が、足払いが当たらない。
「(……え?)」
結果論から言うと、リオの右ストレートはフェイクだった。回避から足払いまでのアニの行動を、リオに読まれていたのだ。
ジャンプによって足払いを避けたリオは、右足を突き出しアニの右足を潰そうとするが、足払いの勢いをそのまま利用しアニは回避。
その場で一回転し、今度は蹴りによって頭部を直接狙うが、リオは左から来る攻撃を冷静にガード。
瞬間、アニは離脱を図る。
このように、足による攻撃をガードされると、リオは大抵そのまま足を掴んでくる。
勿論、追撃してもいいのだが、今日のリオはもともとの能力に加えてかなり冷静だ。追撃したところで更に不利になる可能性は高い。
ならば、一旦形勢をリセットしてしまうのも手の一つ。一度白紙に戻してしまえば、巻き返すのは不可能じゃない。
そこまで考えた上での、アニの後退。しかし、
「(!?)」
その行動すらも読まれていたのか、リオは足を掴み取ることなく、迷わずにアニを追撃してきた。
これには流石にアニも焦る。バックステップで後退しているのに、それを追撃されるのはまずい。
幸い、両腕でガードしているので、リオが突き出している右拳には対処できる。ガードさえしてしまえば、後はカウンターで決められる。
しかし、
「(そんなに上手くいく……?)」
今日のリオはなんだか色々違う。今までも散々隙を突かれた。ということは、
「(あの右ストレートもさっき同様フェイク!)」
そう結論付けた後の行動は、より迅速に。
右がフェイクなら本命は左、あるいは足か。どちらにしろ、右への意識は必要ない。
左で来るならガードしてカウンター、足で来るなら回避して顔面に一撃お見舞いして終了。
どの道、ここで終わらせられる。
「とか、考えてんじゃね?」
「………!?」
ドゴッ!と、強烈な右ストレートが放たれる。
フェイクではなく、右こそが本命。
人間、緊張すると身体に力が入る。
ギョッとするだけで十分。それだけの隙があれば、流れを十分に呼び込める。
形勢は、完全にリオに傾いた。
ゴスッ!!という音が、アニの体内に響き渡る。
あまり意識していなかった方向からの一撃に、ガードが追い付いていなかったらしく、右ストレートがモロにアニの心臓を揺さぶる。
直後、腹部への強烈な痛みとともに、アニの視界が瞬間、暗転した。
☆
なぜ私めは地に転がっているのでしょうか?
リオはそう、果てしなく広がる空に問いかけたくなった。
「………痛えな」
こうなった理由は単純である。
うずくまったアニに手を差し伸べたら、ブッ飛ばされた。
「ひでえな、まったく……」
勝負は着いたものだと思っていたので、完全に無警戒だった。
「これが本番だったらアンタ、死んでたね」
そう吐き捨てるアニ。実際その通りなのだが、そう言われるとムカつく。
もしも本当に相手がゴロツキだったなら、リオは容赦なく相手のナイフを奪って心臓を一突きにしているのだからなおさらだ。
「うるせえな。不意打ちとか、卑怯すぎるだろ」
「散々フェイントかましてきたアンタに言われたくないね。この卑怯者」
「あれを卑怯と思うなら、お前こそすぐ死ぬぞ」
差し出されたアニの手を掴んで、立ち上がる。
俺は卑怯じゃないから投げ飛ばしたりなんかしないよーと心の中で呟き続けるのも忘れない。
リオはアニのことが大好き☆なので、感謝の意を込めて全力で握るのも忘れない。
「……痛いんだけど」
「何が?」
笑顔で返したら手を握り潰されそうになった。
「イデデデデデデ!! お前は悪魔かぎゃあああああああすいませんもうしませんもういいません!!」
若干泣きながら謝ったら許して貰えた。
純粋な握力で負けるはずがないのに。というか、思いっきり骨の位置をずらされた。痛くて当たり前である。
「はぁー……痛かった……」
「そりゃアタシの台詞だね。アンタ馬鹿力なんだから気をつけてよ」
「……もうしません」
何か言い返してやろうと思ったが、どうせ足が飛んでくるのは目に見えているので何も言わない。
強くなることは大切だが、やりすぎて身体が壊れては本末転倒。あとアニに逆らったら地獄行き。
「しかし、アニは本当に強いな。どうやったらそんな強くなれるんだよ?」
「……どうやってって、気が付いたらこうだったから……」
「そっか。ま、分かんねえなら聞かねえけどさ」
「ただ……」
「ん?」
アニは俯いたまま、まるで何かを失った直後のようにうなだれたまま。
微かな声で、呟いた。
「アタシは、アンタみたいに守りたい何かを持ってる奴が、うらやましい。守りたいって迷いなく言える奴が、うらやましい」
まるで自分には何もないかのように。
いつも何考えてるか分からない奴、というイメージはあるが、それでもリオは、こんなアニを見たことがない。
だから、リオはアニに告げる。
「だったら、お前も守りたい何かを作れよ」
「……?」
「何でもいいだろ、人でも物でも。もっといえば、それは目標とか、形のない物でもいい。うらやましい奴がいるんだったら、ソイツと同じになっちまえばいいだけだろうが」
うらやましいと思ったから真似する。
ああなりたいと思ったからそうなる。
言われてみれば、それは簡単なことなのかもしれない。
ただし、それを実行するのはとても難しい。それを戸惑いなく口にできるのは、リオがそれだけまっすぐで、強い人間だからだ。
『あ、リオー、私とやろー!』
『カレンか。別にいいけど』
『よーっし、今日こそ勝っちゃうよ私のあだだだだだギブギブ!』
『はい俺の勝ちー』
『う……うわあああああああああん!! また負けたよ痛いよー!!』
『子供……』
どうしてあんなアホが、アニの知らない『強さ』を持っているかは分からない。
けれど、自分だってただいたずらに身を削って力をつけているわけではない。
守りたい『何か』がなんなのかは分からないけれど、目標ならちゃんとある。
「(アタシはバカにはなれない。だから、あたしはアンタ以上に強くなる)」
アニは、誰にも気付かれずに、ただ拳を握り、決意する。
《現在公開できる情報》
リオの格闘技術は決して低くないが、訓練で評価されるポイントを押さえていないため成績はあまり良くない。