三年たった。
人類の反撃は、これからだ。
☆
「心臓を捧げよ!!」
『ハッ!!』
掛け声とともに、右手を心臓のある左胸に持っていく。
今回は、問題児であるリオもきちんと敬礼をしている。その姿に、どれだけの教官がほっとしたかを、リオは知らない。
そしてまた、リオが公ではない、自分の大切な一人の家族のために心臓を捧げていることを、教官たちは知らない。
「本日をもって訓練兵を卒業する諸君らには、三つの選択肢がある! 壁の強化に努め、各街を守る『駐屯兵団』、犠牲を覚悟して、壁外の巨人領域に挑む『調査兵団』、そして、王の元で民を統制、秩序を守る『憲兵団』! 勿論、憲兵団を希望できるのは、先ほど発表した成績上位者10名のみである!!」
主席 ミカサ=アッカーマン
次席 リオ=ヴィラッグ
三位 ライナー=ブラウン
四位 ベルトルト=フーバー
五位 アニ=レオンハート
六位 エレン=イェーガー
七位 ジャン=キルシュタイン
八位 マルコ=ポット
九位 コニー=スプリンガー
十位 サシャ=ブラウス
憲兵団に入って安全な内地へ行くこと、調査兵団に入って巨人を一匹残らず駆逐すること、大切な人のために帰ること。
各々の目的のために、彼らは己を磨いてきた。
第104期訓練兵218名、卒業。
☆
「おっしゃ、これで俺も、憲兵団だ!」
「もう食べ物に困りませんね!」
向こうで104期を代表するバカ二人がはしゃいでいるのを尻目に、リオとジャンは二人で飲み物を飲んでいた。
一応、この解散式では食べ物も出されているのだが、二人とも木製ジョッキに好きなものを注いでいるだけだ。
「あー……あのバカども、そんな理由で憲兵団にすんのか」
「それが普通だろ。現に俺も、憲兵団にするしな。お前もそうしろよ、リオ」
「んー……やっぱパス。別に内地に行きたいわけじゃないし」
飲み物を一気に飲み干し、ジャンの誘いを断るリオ。
最初からわかっていたことだ。一時はリナとともに内地に移ることも考えたが、リナはリナで、今の生活を気に入っているところがある。それを自分のエゴで壊すのは、何か間違っているように思うのだ。
ジャンはそんなリオを見ながら、一言、
「……このシスコンが」
ガッ!!と思い切り襟首を掴まれ、ギョッとして身体が固まる。
目の前には、人間のしていい表情とは思えない形相のリオ。
「おい、なんか言ったか?」
「は、離せ! 服が破けるだろうが!」
「服なんてどうでもいいんだよ。なんか言ったかっつってんだゴラ。ああん?」
ゴロツキ以上に怖いゴロツキの出現に、ジャンは何でもありません……と委縮してしまう。
昔からそうだが、普段は割とジャンのほうがリオを引っ張る感じなのに、シスコンの四文字が出た途端にジャンは蛇に睨まれた蛙のように大人しくなる。
どうやらこの関係は、訓練兵を卒業しても変わらないようだ。
「ところでジャン、一つ確認しておきたいんだが」
「なんだよ」
「お前ミカサのこと好きだろ」
ブーッ!!と、ジャンは口に含んでいた液体を盛大にまき散らした。
汚えな……と、リオは潔癖症の兵長のようにジャンから距離をとる。
「ばっ……おま、おま、おま!?」
「色々言いたい気持ちはわかるが、エレンにサシャにコニー、それからミカサ以外は皆知ってるから安心しろ」
「……!?!?」
恋する思春期じゃん、と言って、リオは心底気分のよさそうな悪い笑顔をした。
笑顔が告げている。仕返しだバカヤロー、と。
「(ざまみろバーカ)」
「(コノヤローッッ……!!)」
悪友二人がお互いの痛いところを突き合って睨みあっていると、入口に近い方から、聞きなれた少年の声が聞こえてくる。
『何十万の犠牲を経て得た戦術を放棄するのか!? 冗談だろ!? 俺は、この狭い壁の中から出る。それが、俺の夢だ!』
「……また死に急ぎ野郎か」
「エレンな。そこまでは言わないが、自分の主義主張を人に押し付けるのは感心しねえ。言うだけならともかくな」
「心当たりがあるみたいな言い方だな」
「あるぞ。お前の言う『死に急ぎ野郎』が、もう一人いる」
はぁ、とため息をついて、リオは天井を仰ぐ。
ジャンには誰のことを言っているのか解らなかったが、あの様子だとおそらく相当の、エレンと同レベルの死に急ぎらしい。
そろそろ来んだろうな……とリオが呟くと、
「リーオー!! ねえねえちょっときゃああああああああああああああああああああ!?」
104期最弱の少女の悲鳴が聞こえてきた。
「カレンか……ていうか、あれは大丈夫なのか?」
「大丈夫だ。アイツはすぐ転ぶが、大抵近くにクリスタかユミルがいる」
クリスタ=レンズ。
104期訓練兵の間で女神と呼ばれている少女で、そこそこバランスのとれたタイプの兵士。
成績もかなりいい方で、上位10人入りもあり得ると言われていたが、残念ながら落ちてしまった少女だ。最初から憲兵団に入る気のないリオやエレンは、クリスタが憲兵団に入れないことを理由に男子からの視線が痛い。
特に理由のない暴力が彼らを襲う日は、そう遠くない。
「リオリオ、どの兵団を希望するか決めた!?」
「もう決まってる」
「だよね! 実質一択だもんね!」
「駐屯兵団」
「…………」
「何故黙る」
よほど調査兵団と言ってほしかったのか、カレンはこの世の終わりのような目でリオを睨んでいた。
ジャンはカレンの事を滅茶苦茶弱い程度にしか知らないが、こんなテンションが毎日傍で騒いでいたらとてもじゃないが心が折れる。
「おいカレン。お前、成績は?」
「へっへー、聞いて驚け! 下から二番だ!」
「お前より下がいんのかよ……」
「うん、ダズ!」
おそらく、低成績者救済措置としての訓練でさえ死にかけたのが響いたのだろう。たしか、あの時はクリスタとユミルがダズを引きずっていたのだったか。
ちなみにカレンはめんどくさがってその訓練に参加していない。
「「ダズの奴……」」
最弱と名高い(?)カレン以下とは、アイツには恐れ入る、と、男は二人は頭を抱える。
いつの間にか飲み物を持ってきていたカレンは、リオの隣に座って、
「二人って、仲良いんだね」
「まあな。リオとはそこそこ長い付き合いだしな」
出身が同じトロスト区であるし、二人は悪友であるが幼馴染でもある。
特にリオの両親が戦死してからは、ジャンの両親に世話になることが多かったのだ。
「ま、ジャンには迷惑かけたと思ってるよ」
「んな言い方すんなよ。人が好意でやってやったんだ、受け取れ」
ずっと一緒だからこそ、信頼も厚い。
お互いの考え方や行動を邪魔しない程度に、それでいて己を貫く、二人の関係性。
解散式の夜は、更けていく。
《現在公開できる情報》
クリスタは本来上位10人に入ることができたのだが、リオが上位入りしたことと座学でサシャより低い点数を取ったことが起因して、成績は11位となった。