『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です


第98話

「よっしゃぁぁぁあああああ!」

 

市大三高の最後のバッターを打ち取った純さんが、マウンドの上で吠えている。

 

グランドにいる青道の皆は、マウンドに集まって手を高々と上げて人差し指を立てている。

 

俺達は夏の高校野球選手権西東京地区大会を優勝したんだ!

 

ウォ―――!

 

グランドの皆の喜びは主審の人に整列を促されるまで続いた。

 

東さんを含めた3年生は挨拶をしながらも全員号泣している。

 

あ、太田部長もつられて泣いてる。

 

整列をして挨拶が終わると、今度は球場に応援に来てくれた人達に挨拶に向かった。

 

なんせ5年振りの甲子園出場とあって、青道を応援してくれていた人達の盛り上がりは

実際に勝ち上がった俺達にも負けない程なのだ。

 

しっかりと頭を下げると、祝福の拍手と声が雨の様に降り注いできた。

 

リトルやシニアの時にも経験したけど、この瞬間は何度味わっても堪らない瞬間だ。

 

挨拶を終えて球場を出ると、球場の外には片岡さんの教え子だった

青道高校野球部OBの人達が待っていた。

 

OBの人達はそれぞれが片岡さんに祝福の声を送っている。

 

「こうして甲子園にいけるのは、俺が監督になってからの青道の基礎を

 作っていってくれたお前達のおかげだ。…ありがとう!」

 

片岡さんは帽子を取ってからOBの人達に頭を下げると、そう言って涙を流した。

 

OBの人達も片岡さんの涙につられて泣いている。

 

そして誰が言ったのかわからないが、皆で片岡さんを胴上げする事になった。

 

ビックリして固まっている片岡さんを皆で取り囲む。

 

ふふふ、逃がしませんよ。

 

胴上げが避けられない事がわかると、片岡さんは照れ臭そうに微笑む。

 

東さんが代表して胴上げの声掛けをする。

 

「行くでぇ!せーの!」

 

イエーイ♪

 

何度も宙を舞う片岡さんを中心に、改めて勝利の気持ちを固めた俺達は、

意気揚々と甲子園に乗り込むのだった。

 

 

 

 

東京の地方新聞には青道高校が5年振りに甲子園出場を決めたと大きく掲載された。

 

だが、高校野球界では優勝候補として西の大阪桐生高校と、

北の巨摩大藤巻高校に注目が集まっていた。

 

そんな中で始まった夏の高校野球選手権全国大会で、青道高校のメンバーは躍動した。

 

1回戦、既にドラフト候補として注目されている東がホームランを2本打ったのを中心に、

青道打線は二桁得点となる11点を叩き出し、打の青道の名を甲子園に広めた。

 

投げては先発の丹波がクリスのリードに導かれて3失点の完投をしてみせた。

 

出番の無かった伊佐敷は不満気に丹波を睨んだが、憎まれ口と共に丹波とハイタッチをした。

 

だが、1回戦の青道メンバーの活躍を霞ませる程の出来事が2回戦で起きた。

 

青道高校の2回戦、先発をしたパワプロが御幸とのコンビで完全試合を達成したのだ。

 

相手チームは高校生としては異質なノビをみせるパワプロのフォーシームに、

打球を前に飛ばす事が出来なかったのだ。

 

パワプロが打者一巡を全て三振で抑えると、球場にはざわつきが拡がっていった。

 

相手チームがパワプロのフォーシームに食らいつく為に、バットを短く持って

タイミングを合わせようとすると、それを嘲笑うかの様に大きな変化のカーブや、

チェンジアップで打者のタイミングを外していったのだ。

 

日本の高校野球はレベルが高い。

 

そのレベルの高さは世界でもトップクラスである。

 

今の高校野球では150kmの真っ直ぐを投げる投手は珍しく無いのだ。

 

それ故に1年生ながら145kmのフォーシームを投げるパワプロは、

目の肥えた高校野球ファンにとっては『1年生にしては速いボールを投げる投手』、

程度の認識でしかなかったのだ。

 

だが真っ直ぐ、変化球の球質が共に一級品であり、なおかつコントロールも

いい投手となると、滅多に見れるものではない。

 

その滅多にが現れると人々はこう呼ぶのだ。

 

怪物。

 

マウンドで躍動するパワプロの姿はかつて甲子園を賑わせ、プロの世界でも

色褪せる事の無い輝きを放った名投手達の姿を思い起こさせる。

 

甲子園球場に訪れた高校野球ファンの人々は、新たなヒーローの誕生を目撃し、

その躍動する姿に酔いしれるのだった。




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