ご褒美として貴子ちゃんにキスをされた。
…え?
「フーくん、また明日ね。」
そう言って貴子ちゃんは真っ赤な顔で家に入っていった。
えっと、その…えぇ!?
ど、ど、ど…どういうことだってばよ!?
た、貴子ちゃんとデートをして、約束を果たしたからご褒美をくれるって言って…。
そ、そして、キスをされて…。
ウォ―――!!
自宅前で頭を抱えて悶えてしまう。
えっと、貴子ちゃんとは幼馴染みであって…こ、恋人じゃないよな?
え?キスしちゃったよ?いいの?
えっと、今までも手を繋いだり、腕を組んだりしてきたけど…それは幼稚園の頃から
やって来たことだし…俺と貴子ちゃんにとっては自然な事だったし…。
ピロン♪
俺は混乱したままだったが、突如脳内に響いた機械音に反射的にステータス画面を開いた。
※おめでとうございます。大人の階段を一歩登りました。
※お祝いとしてボーナスポイントをお贈り致します。
なんでやねん!
女神様が覗き見でもしとんのか!?
心の中でエセ関西弁でツッコミを入れてしまう。
だけどそのおかげで冷静になれた俺は、ため息を吐きながら頭をガシガシと掻く。
「明日、どんな顔をして貴子ちゃんと会えばいいんだ?」
考えが纏まらないままだったが、とりあえず家に入る事にした。
そしてご飯の時間になると、ニコニコとした笑顔の母さんが赤飯を用意していたのだった。
◆
翌日、いつも通りに貴子ちゃんと朝練に向かう為に顔を合わせると、
お互いに中々目を合わせる事が出来ずに顔が赤いままだった。
俺は甲子園の決勝のマウンド以上に緊張している。
それでも、俺は勇気を振り絞って貴子ちゃんに昨日の事を聞いてみた。
「貴子ちゃん、昨日の事なんだけど…。」
「えっとね、フーくん。昨日の事はね、その…。」
貴子ちゃんが言うには、母さん達に煽られた事が理由でもあるんだけど、
幼稚園の頃から俺の事が好きだったからキスをしたらしい。
「フーくん、いきなりキスをしてゴメンね。」
「確かにいきなりで凄い混乱したけど、それ以上に凄い嬉しかったよ、貴子ちゃん。」
「本当?」
「うん、本当だよ。」
俺がそう言うと、貴子ちゃんは花開いた様な笑顔になった。
可愛い。
今までも可愛いと思ってたけど、今日の貴子ちゃんは今まで以上に可愛いと思う。
「それでね、フーくん。」
「えっと、貴子ちゃん。」
俺と貴子ちゃんの言葉が重なる。
「フーくん、先にいいよ。」
「うん、ありがとう。」
貴子ちゃんとは幼稚園からの付き合いだから、何を言おうとしていたのか何となくわかる。
だけど、それを言うのは俺からだ。
なんせ13年も貴子ちゃんを待たせたんだからな!
「貴子ちゃん、13年前の夏の大会のテレビ中継を覚えてる?」
「片岡監督が甲子園の決勝の舞台で投げていたやつだよね?もちろん覚えてるよ。
私達が野球を好きになったキッカケだからね。」
そう言うと、貴子ちゃんはニッコリと微笑む。
「あの時にフーくんは野球選手になるって言ったよね。」
「うん、今もその気持ちは変わってないよ。」
「ふふ、マウンドのフーくんは誰よりも楽しそうに笑ってるもんね。」
貴子ちゃんの言う通りに、俺は本気で野球をやっているし、本気で野球を楽しんでいる。
だからこそ俺は最高の舞台で野球をしたい。
「貴子ちゃん。俺、青道を卒業したらメジャーに行くよ。」
「うん、フーくんならそう言うと思ってた。」
流石は貴子ちゃん!
俺の自慢の幼馴染みだぜ!
「貴子ちゃん、俺と恋人になってください。そして、一緒にアメリカに行こう。」
俺がそう言うと、貴子ちゃんは目に涙を浮かべた。
それでも貴子ちゃんは嬉しそうに微笑んでいる。
そして…。
「うん、喜んで。」
そう言って貴子ちゃんは俺に抱きつくと、俺の胸に顔を埋めた。
俺が貴子ちゃんを軽く抱き締め返すと、貴子ちゃんは顔を上げてそっと目を閉じる。
そして昨日とは違い、今度は俺から貴子ちゃんに唇を重ねたのだった。
ピロン♪
ほっとけや!
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