『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です


第10話

パンッ!

 

ミットの乾いた音が耳に心地良く響く。

 

今までと違う手応えに俺のテンションはマックスである。

 

「オォーッ!どうですか!?」

 

マスクで見えないのでクリスさんの表情がわからない。

 

そんなクリスさんは無言でボールを投げ返しミットを構える。

 

あるぇ~?

 

手応えバッチリだったのに無言?

 

俺はボールを受け取ってから首を傾げるのだがその時、また機械音が聞こえてきた。

 

ピロン♪

 

お?

 

俺は反射的に操作画面を開く。

 

 

※『ノビ4』を取得しました。

 

※上記の能力取得により最高球速の成長限界が『105km』に変更されました。

 

※フォームの改善により最高球速が65kmに成長しました。

 

 

ファッ!?

 

俺は能力の詳細を確認する。

 

 

『ノビ4』

 

・フォーシームのノビが良くなる特殊能力である。

・打者の体感速度が上がる効果がある。

・上位能力に『ノビ5』最上位能力に『怪物』が存在する。

 

 

へぇ~、いい能力じゃん!

 

でも、なんで取得出来たんだ?

 

それに、なんで最高球速の成長限界が下がったんだ?

 

俺は首を捻って考えるがサッパリわからない。

 

まぁいいか!早く続きを投げよう!

 

その後、俺はクリスさんの構えるミットにドンドン投げ込んでいく。

 

だが、狙った場所であるミットにちゃんと投げられたのは、

このフォームにしてからの最初の一球だけだった。

 

 

 

 

「みんなお疲れ!」

「「「お疲れ様でした!」」」

 

投げ込みを終えた後は初日ということもあって新入りである俺の練習は終わりになった。

 

まぁ、投げ込みが終わって上がっていたテンションが下がると一気に疲労が来たので

それ以上の練習はきつかったからちょうどよかったけどな。

 

「それじゃ、気を付けて帰れよ!」

「「「はい!」」」

 

先にチームに入っている上級生達の練習はまだ続くらしい。

 

流石に強豪シニアの下部チームだけあって練習量は多いようだ。

 

「監督!」

「お?パワプロか、どうした?」

 

俺は帰る前にマネージャーの事を監督に聞いた。

 

「そうだな~…近いうちにマネージャーの仕事の事を詳しく書いてパワプロに渡すから

 お前からマネージャー志望の子に渡してくれるか?」

「それは募集中って事でいいんですか?」

 

「あぁ、そうだな。でもマネージャーの仕事がイメージと違って野球を嫌いになられると

 嫌だからな…まぁ、念の為に確認といったところだな。」

「わかりました。」

 

貴子ちゃんなら大抵の仕事は笑顔ですると思うけどな。

 

本当に野球が好きだし。

 

「そういうわけだ、頼んだぞパワプロ!」

「サー!イエッサー!」

 

俺は監督に敬礼をしてからショルダーバッグを右肩に掛けて走り出す。

 

次の練習の日が楽しみで仕方がない。

 

俺は今日の事を貴子ちゃんや父さんにどう話そうかと考えながら走り続けた。

 

 

 

 

「やれやれ、元気な奴だ。」

 

今年の新入りで特に元気なパワプロの後ろ姿を眺めながらそう思う。

 

「監督。」

 

俺を呼ぶ小さな声に振り向くとそこにはクリスがいた。

 

「お?クリスか。今日はパワプロの事を頼んで悪かったな。」

「いえ…。」

 

滝川・クリス・優。

 

プロ野球選手を父親に持つ二世。

 

父親の影響なのかまだ4年生なのに6年生にも負けない技術を持った天才だ。

 

「それで、どうかしたのか?」

「葉輪の事ですが…。」

「パワプロがどうかしたのか?」

 

クリスは天才と言えるのだが、生来の小声のせいで話をする時はしっかりと耳を傾けないと

声が聞き取れないのが唯一の欠点だな。

 

「来月の紅白戦に使って貰えませんか?」

「紅白戦?夏のリトルリーグ選手権大会のメンバー選考を兼ねているんだぞ?」

「はい、わかっています。」

 

俺はクリスの言葉に驚く。

 

クリスは優れた技術と知識を持つからか、上級生であっても意見をズバズバ言うことがあるが

今までにこうして誰かを推薦した事など一度も無かったのだ。

 

「パワプロはそれほどなのか?」

「いえ、ハッキリ言って下手くそです。」

 

クリスのハッキリとした言い方に俺は転けそうになる。

 

「球速は遅く制球もまだまだです…ですがフォーシームの質は6年の先輩よりも上かと…。」

「ほう?」

 

俺はクリスの言葉でパワプロの投球に興味が沸いてきた。

 

「クリスがそう言うんならブルペンを見てみたかったな。」

 

俺は顎を擦りながら考えを巡らせる。

 

「よし、パワプロだけを贔屓する訳にはいかないからな。夏のレギュラーが決まったら

 レギュラー以外でチームを作って紅白戦をやらせてみるか。」

 

今年は野手志望の新入りが多かったからメンバーの数は十分だからな。

 

「それと、紅白戦までパワプロをクリスに預けてもいいか?」

「俺は構いませんが…いいんですか?」

「俺が言わなくてもクリスは自分の練習をサボったりしないだろう?」

 

俺の言葉にクリスは首を縦に振って肯定する。

 

「それじゃ頼んだぞ。プロ野球の影響なのか本当に野手志望の子が多くてな…。」

 

トリプルスリーを達成した埼玉のプロ野球チームの遊撃手や、神戸の天才外野手の影響なのか

最近の子供達は野手志望が多くなっているのだ。

 

「俺の時代では投手志望が多かったんだけどなぁ…。」

 

時代の流れを感じて一人言を溢すとクリスが首を傾げる。

 

「いや、なんでもない。それじゃ練習に戻ろうか。」

「はい。」

 

休憩をしている子達に練習再開の声を掛けながら歩いていく。

 

そして、今日もグラウンドに響き渡る元気な声と共に子供達と一緒に汗を流すのだった。




投球フォームとクリスから伝授された4シームの握りにより『ノビ4』を取得しました

次の投稿は17:00の予定です

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