青道高校と黒士舘高校の試合当日、試合が行われる球場でアップをしていた
パワプロの所に財前がやって来た。
「よう、葉輪!」
「あ、財前さん。」
ストレッチをしていたパワプロは立ち上がって帽子を取り、財前に頭を下げる。
「今日は誰が先発するんだ?」
「俺の予定ですよ、財前さん。」
パワプロの返答に財前はニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。
「そうか、そいつは楽しみだ。」
そう言うと財前はパワプロに軽く手を振ってチームメイトの所に戻っていった。
◆
秋の高校野球選抜東京地区大会の2回戦、1回の表のマウンドにパワプロが上がると、
球場には割れんばかりの歓声が起こった。
夏の大会で多くの高校野球ファンはパワプロの事を知り、一目見ようと球場に足を運んだ。
その為、地区予選の2回戦とは思えない程の人数が球場に押し寄せていた。
黒士舘高校の応援の声が響き渡る中でパワプロが1番バッターにボールを投げる。
初球のアウトローへのフォーシームを見送った黒士舘の1番バッターは
手振りで球種をベンチに伝える。
その様子を青道のキャッチャーのクリスはマスク越しに見ていた。
(球筋を見ていたな…。様子見か?)
クリスは2球目のサインをパワプロに出す。
パワプロはサインに頷くと投球モーションに入る。
2球目、1球目と同じコースにフォーシームが投げ込まれる。
黒士舘の1番バッターはこれも見送る。
主審の判定はストライク。
これでノーボール、ツーストライクと追い込んだ。
クリスはチラリと横目でバッターを見る。
(1球外すか?いや、押してみるか。)
クリスは内角高めにフォーシームを要求する。
パワプロは笑顔でサインに頷くと、投球モーションに入る。
3球目。
クリスの要求通りに内角高めにフォーシームが投げ込まれた。
黒士舘の1番バッターのバットが空を切る。
「ストライク!バッターアウト!」
三振をした黒士舘の1番バッターがベンチに戻る前に2番バッターに耳打ちをする。
(やはり葉輪へのマークが厳しいな。他の高校も偵察に来ている可能性を考えると、
この試合で使う球種を限定するべきか?)
そう考えながらクリスは打席に入る黒士舘の2番バッターを観察していく。
(失点を気にしなければ球種を限定しても問題無い。だが、その為には先制点が必要だな。)
クリスはパワプロにサインを出すと、ミットをインローに構えた。
サインに頷いたパワプロはクリスが要求するコースにフォーシームを投げ込む。
バシッ!
「ストライク!」
主審のストライクコールに、黒士舘の2番バッターは振り返ってミットの位置を確認する。
黒士舘の2番バッターは驚いて目を見開いていたが、ヘルメットを被り直すと
バットを短く持ったのだった。
◆
「いいぞぉ!風路!」
「頑張れぇ!風路くん!」
青道と黒士舘の試合が行われている球場のスタンドで、葉輪、藤原両家の
両親が声援を送っていた。
「これからも末長くよろしくお願いしますね、藤原さん。」
「えぇ、これからもよろしくお願いします、葉輪さん。」
両家の父親が熱心に応援している時、両家の母親は恋人になったパワプロと
貴子の事を話していた。
「それにしても、フーくんはアメリカに行くつもりだったなんて…孫の顔が見れないわ。」
「そうですねぇ…オフシーズンになれば会えるんでしょうけど…。」
両家の母親は顔を見合わせるとため息を吐いた。
ちなみに、パワプロと貴子が恋人になった事はその当日に両家に伝わっている。
その時には両家が一緒にお祝いの酒盛りをした。
その酒盛りの時にパワプロは、両親に高校卒業後にアメリカに行くことを伝えたのだ。
パワプロが貴子と一緒にアメリカに行くことを伝えると、両家の母親はパワプロと
貴子に孫の顔を求めた。
恋人になったばかりの健全な学生に対して無茶な要求である。
「風路くんはアメリカのどこに行くんでしょうか?」
「それは私もまだ聞いてないですね。早く孫の顔を見たいので今度聞いておきますね。」
この母親達、海外にまで孫の顔を見に行く気満々である。
その後、両家の両親は一緒にパワプロの応援をしていったのだった。
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