青道と黒士舘の試合の2回の表。
ノーアウト、ランナー2塁のチャンスを手にした黒士舘は、
ランナーの財前を3塁に送ろうとバントを試みた。
だが…。
「キャッチャー!」
パワプロが上を指差し、ボールの行き先を指し示す。
キャッチャーのクリスは反応良くボールの落下点に滑り込んだ。
「アウト!」
送りバントに失敗したバッターが悔しそうに天を仰ぐのを見たランナーの財前は苦笑いをする。
「まぁ、葉輪のノビてくる真っ直ぐを転がすのは難しいよな。」
財前の呟きを聞いた遊撃手の倉敷がチラリと財前を見るが、直ぐに守備に集中した。
(クリスを引っかき回すのに先制点が欲しかったが、葉輪は崩れそうにねぇな。)
そんな事を考えながら財前は頬をポリポリと掻いた。
「まぁ、まだ試合は2回だ。じっくりと行くとするか。」
その後ワンアウト、ランナー2塁の状況になったが、パワプロは笑顔で連続三振をして
ピンチの場面を切り抜けたのだった。
◆
「お疲れ様です、クリスさん。」
2回の裏の先頭打者であるクリスが打席に向かうために防具を外していると、
御幸がバットとヘルメットを持ってきてクリスに話し掛けた。
「あぁ、すまんな、御幸。」
「いえいえ、どう致しまして。」
笑顔でそう言った御幸だが、不意に真面目な表情になる。
「財前さんはスライダーを振りませんでしたね。」
「…あぁ。」
御幸の言葉にクリスは眉を寄せながら答える。
「御幸、ベンチからはどう見えた?」
「俺には真っ直ぐを待っている様に見えましたね。あの長打を打たれたのは、確認する為に
真っ直ぐを要求したからですよね?」
「あぁ、そうだ。」
お互いに試合を組み立てるキャッチャーとして会話を続けたいのだが、
クリスは先頭打者であるので準備を終えると立ち上がる。
「御幸、俺に変な所があれば直ぐに教えてくれ。」
「…癖がバレていると思っているんですか?」
「財前とは付き合いが長いからな。その可能性はある。」
「わかりました、注意しておきますね。」
御幸は打席に向かうクリスの背中を見送ると、頭をガシガシと掻く。
「…パワプロにも伝えておかないとな。」
そう呟いた御幸は、貴子からドリンクを受け取って笑顔になっている
パワプロの所に向かうのだった。
◆
「え?クリスさんの癖がバレてるの?」
「いや、今のところはその可能性があるってだけだ。」
「へぇ~。」
貴子ちゃんからドリンクを受け取って飲んでいたら一也がやって来て、
クリスさんの癖がバレているかもしれないと言ってきた。
「財前さんはパワプロのスライダーにバットを振らなかっただろ?」
「うん、そうだな。」
「だろ?だから癖がバレているかもってクリスさんは考えたんだ。」
一也にそう言われて俺は首を傾げる。
「どうした、パワプロ?」
「いや、変化球を見逃すのって当たり前だと思ってさ。」
俺がそう言うと一也は頭を抱えてため息を吐いた。
…どうしたんだ、一也?
「パワプロ、ハッキリ言ってお前のスライダーは特別なんだ。」
「そうなの?」
「そうなんだよ。ったく、俺が捕れるようになるのにどれだけ苦労したと…。」
そこまで言うと一也はまた頭を抱えてため息を吐いた。
その様子を見ていた貴子ちゃんはクスクスと笑っている。
「取り合えず、パワプロのスライダーは特別って事で話を続けるぞ。」
「おう!」
「お前のスライダーの軌道とキレは、お前のフォーシームを待っていたら手を出しても
おかしくないんだ。俺とクリスさんは、財前さんはフォーシームを待っていると考えた。
だけど、財前さんはスライダーに全く手を出さなかったんだ。」
一也がそう言ったところで、俺はまた首を傾げる。
「一也、単純に財前さんがフォーシームを待っていなかったって事はないの?」
「カウントによって狙いを変えるのは当然だな。」
「だろ?」
「でも、それだとパワプロのフォーシームを強振出来た事の説明がつかないんだ。」
うん?そうなの?
「一也、財前さんがフォーシームを反応で打ったって不思議じゃないだろ?」
「パワプロ、財前さんはピッチャーだぞ?それにリハビリ明けという事を考えれば、
反応でバットを振れるまでバットを振り込む余裕があったとは思えないんだ。」
一也が真剣な表情でそう言ってくる。
クリスさんも一也もよく考えてるなぁ。
カキーン!
金属バットの快音に俺と一也は振り向く。
どうやらクリスさんがツーベースヒットを打ったみたいだ。
「そう言うことだから、パワプロも一応注意しておいてくれ。」
「注意って、何を注意しておけばいいんだ?」
「クリスさんの動きに気になる何かがあるとかだな。」
クリスさんの動き?
シニア時代とは少し違うところもあるけど、それとは違うのかな?
「う~ん、よくわかんないけどわかった。」
「よし、何でもいいから気付いたら言えよ。」
「あ、一也。それなら1つあるんだけどさ…。」
俺からその1つを聞いた一也は驚いて目を見開いた。
その後、一也はそれに注意して見ておくと言うと、俺と一緒に皆の応援に戻ったのだった。
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