『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第115話

試合の8回の表。

 

黒士舘は3ー3の同点に追い付き歓喜の声を上げていた。

 

その黒士舘のメンバーが何故喜んでいるのか認識出来ずに、

川上はマウンドの上で呆然としていた。

 

そんな川上の肩をクリスがポンッと叩く。

 

「川上、交代だ。」

「…え?」

 

川上が疑問の声を上げながらクリスを見ると、クリスは促す様に青道ベンチに顔を向けた。

 

つられる様に川上も顔を向けると、青道ベンチから伊佐敷がマウンドに

向かって走って来ていた。

 

「え?…あっ。」

 

伊佐敷の姿を目にした川上の思考が再起動する。

 

川上はゆっくりとスコアボードの方に振り向くと、次第に今の状況を認識していった。

 

「あ…。」

 

1つもアウトを取れずに同点に追い付かれた事を認識した川上は表情を真っ青にする。

 

「あ、あの…す、すいま…。」

「川上、謝るのはまだ早い。」

 

マウンドに集まっていた内野陣の1人、新キャプテンの結城が川上の言葉を遮った。

 

「試合はまだ同点だ。負けたわけじゃない。」

「あ…う…。」

 

川上は表情を真っ青にしながら目尻に涙を貯めていく。

 

そんな川上の肩をマウンドにやって来た伊佐敷がポンッと軽く叩く。

 

そして…。

 

「川上、後は先輩の俺に任せとけ。」

 

川上は言葉を発する事が出来ずに、震える手で伊佐敷にボールを渡した。

 

そして、覚束無い足取りで青道ベンチへと戻っていった。

 

「伊佐敷、肩は出来ているか?」

「悪い、もう数球は投げておきてぇ。」

 

伊佐敷の返事にクリスは少し考えてから話し出す。

 

「伊佐敷、次のバッターは敬遠する。それで肩は出来るか?」

「あぁ、問題ねぇ。」

 

伊佐敷の返事に頷いたクリスは集まっている内野陣に目を向ける。

 

「聞いてた通りだ、次のバッターは敬遠する。伊佐敷の肩が出来てから勝負に行くぞ。」

 

クリスの言葉に青道内野陣が力強く頷く。

 

そして円陣を組むと、結城の掛け声で気持ちを高めたのだった。

 

 

 

 

伊佐敷さんと交代したノリがベンチにフラフラとした足取りで戻ってきた。

 

「川上。」

 

片岡さんに声を掛けられたノリはビクッとして立ち止まった。

 

「は、はい!」

 

震える声で返事をしたノリは顔を上げて片岡さんの目を見る。

 

片岡さんはノリと目を合わせると、少し間を置いてから話し出した。

 

「最後の1球以外は攻める気持ちを持ったいいピッチングだった。

 その時の気持ちを忘れるな。」

 

ノリは片岡さんの言葉に涙を堪える様に歯を食い縛っている。

 

「ご苦労だった。次の機会の為にしっかりとケアをしておけ。」

「…っ!はい!」

 

片岡さんはノリの返事に頷くと、他のベンチのメンバーへと目を向けた。

 

ノリは肩肘をアイシングすると、タオルで顔を隠して涙を流したのだった。

 

 

 

 

「丹波!」

「はい!」

 

川上との話を終えた片岡は丹波を呼び出した。

 

「8回の裏の伊佐敷の打順で代打を出す可能性がある。肩を作っておけ。」

「はい!」

 

丹波は大きな声で返事をすると、バッグからグローブを取り出して肩を作りに向かった。

 

その丹波の後ろ姿は、かつてノミの心臓と言われていたとは信じられない程に

堂々としたものだった。

 

そんな丹波の様子に少し笑みを浮かべた片岡は、次に御幸を呼び出した。

 

「御幸。8回の裏、白州か倉持が塁に出たら伊佐敷の所で行くぞ。準備をしておけ。」

「はい!」

 

終盤のシビレる場面での出番のチャンスに御幸は笑顔になる。

 

そんな御幸の様子に片岡は丹波の時と同じ様に笑みを浮かべると、グランドへと目を向ける。

 

グランドでは9番バッターを敬遠している状況だったが、

片岡は教え子達を信じて静かに見守るのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

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