『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第125話

稲城の原田が片手を天に突き上げて雄叫びを上げていた時、青道の前園は

悔しさのあまりに両手を膝について歯を食い縛っていた。

 

そんな前園の元にタイムを取ってプレーを一度中断したパワプロがやってきた。

 

「ゾノ、ナイスプレー!」

 

親指を立てながらそう言うパワプロに前園は顔を上げる事が出来なかった。

 

「すまん、パワプロ。」

「なんで謝るのさ、積極的ないいプレーだったじゃん。」

 

パワプロがそう言うが、前園はまだ気落ちしたままだ。

 

その理由は送球ミスをしなければアウトに出来たという確信が前園にあるからだ。

 

前園の確信を後押しするようにスコアボードにはEのランプが光っている。

 

「ゾノ、そんな落ち込む必要ないって。メジャーリーガーみたいな

 プレーでカッコ良かったぞ。」

「はぁ?」

 

パワプロの言葉に前園は呆けた様な声を出してしまう。

 

「カッコ良かったかはともかく、増子よりはいいプレーだったんじゃないかな?」

「ヒャハ、いいチャージだったぜ、ゾノ!」

 

青道の二遊間コンビがそう言うと前園は目を丸くした。

 

「まだ試合は終わったわけじゃない。前園、反省するのは試合が終わってからだ。」

「哲さん…。」

 

結城の言葉で前園の身体に熱が戻ってくる。

 

前園が顔を上げて見渡すと内野の皆は諦めた表情ではなく、逆転を見据えて

ギラギラと輝いていた。

 

「この回はあと1人だ。しっかりと守って反撃するぞ!」

「「「オォ―――!」」」

 

結城の檄に青道メンバーが応えると、強い意思を持った目で守備に戻ったのだった。

 

 

 

 

稲城の5番バッターをパワプロが三振で抑えると、青道メンバーは成宮を攻略しようと

円陣を組んで気合いを入れた。

 

だが、青道打線のバットからは快音が響かなかった。

 

なぜなら、延長を見据えて打たせて取るピッチングでスタミナを温存してきた成宮が、

捩じ伏せるピッチングに切り換えて全力で青道打線を抑えにかかったからだ。

 

青道打線は左右を幅広く使い、緩急を活かす成宮のボールを中々捉える事が出来ない。

 

唯一クリスがフェンス直撃となるツーベースヒットを打ったが、

後続が続かずに得点にはならなかった。

 

ここまでクリスが2安打、結城が1安打しているが、青道打線全体で考えれば

成宮に完全に抑え込まれてしまっている。

 

試合はそのまま0ー1で進んでいき9回の裏。

 

声を枯らしながらの青道の応援が球場に響く中でマウンドに上がった成宮は、

マウンドの上から堂々と青道打線を見下ろしていた。

 

 

 

 

(あと1回、抑えればパワプロに勝てる。)

 

9回の裏の投球練習を終えた成宮は、ロージンバッグを手にしながらそう考える。

 

成宮はロージンバッグをマウンド横に置くと、打席に入ったクリスを睨み付ける。

 

(今日こそパワプロに勝つんだ。邪魔すんなよ、クリスさん!)

 

原田のサインに頷いた成宮が、クリスに立ち向かう様にボールを投げ込んでいく。

 

ワンボール、ワンストライクの後の3球目。

 

成宮は決め球のチェンジアップをクリスに左中間に運ばれてしまった。

 

これでノーアウト、2塁のピンチ。

 

気持ちを切り換えるために成宮はマウンドの上で大きく息を吐く。

 

(クリスさんを塁に出すのはオッケー。ホームランじゃなけりゃ俺の勝ち。)

 

打たれて乱れた気持ちを飲み込んだ成宮は、次のバッターに集中する。

 

成宮は5番バッターの前園に強い打球を三遊間に打たれたが、白河のファインプレーに

助けられてワンアウトにした。

 

そして続く6番バッターの門田は三振に抑えてツーアウトにまで辿り着いた。

 

最後のバッターは7番の白州。

 

だが、青道の監督である片岡はここで御幸を打席に送った。

 

御幸の勝負強さは東京地区では既に定評となっている。

 

その御幸が打席に送られてきた事で原田はタイムを取ると、稲城の内野陣をマウンドに集めた。

 

「雅さん、一也を歩かせてもいいよ。」

 

成宮の一言に稲城のメンバーは驚いて目を見開いた。

 

「成宮…。」

「一也を歩かせれば次は楽勝な相手だからね。パワプロに勝つんならその方が確実だし。」

 

そう言う成宮を原田は睨む様に見据える。

 

「成宮、それでお前は葉輪に勝ったと胸を張れるのか?」

「…ごめん、雅さん。俺らしくなかった。」

 

成宮は気恥ずかしさを隠すように目を逸らす。

 

そんな成宮の様子に、稲城の内野陣は笑顔を見せた。

 

「正直、御幸との勝負は打球がどこに飛ぶかわからない。皆、集中してくれ!」

「「「応!」」」

 

原田の言葉に返事をした稲城の内野陣は声を出しながら守備位置に戻っていく。

 

(一也、いいチームだろ?俺達と一緒に来なかった事を後悔させてやるよ!)

 

不敵に笑った成宮は原田のサインに頷くと投球モーションに入る。

 

1球目。

 

成宮はアウトローへのカットボールを投げ込む。

 

高さは甘かったが、アウトコース一杯に投げ込まれたカットボールを御幸は見逃した。

 

主審の判定は…?

 

「ストライク!」

 

主審の判定を当然と言わんばかりの表情で原田からの返球を受けた成宮は、

マウンドから御幸を見下ろしていく。

 

(夏の様には打たせねぇよ、一也!)

 

原田のサインに頷いた成宮がボールを投げ込む。

 

2球目。

 

成宮はインハイのボールゾーンにフォーシームを投げ込んだ。

 

御幸はこのボールにバットが出そうになった様子でスイングを止める。

 

主審の判定はボール。

 

ワンボール、ワンストライクの平行カウント。

 

3球目。

 

原田のサインに迷わず頷いた成宮はアウトローにスライダーを投げ込んだ。

 

背中から出てくる様な軌道のボールに、御幸のバットが反応する。

 

カキッ!

 

詰まった様な打撃音を残した打球は、3塁線を切れてファール。

 

これでワンボール、ツーストライクと御幸を追い込んだ。

 

そして勝負の4球目。

 

成宮は原田のサインに迷わず頷いてボールを投げ込む。

 

成宮が決め球に選んだのはチェンジアップだ。

 

シニア時代にパワプロの助言で握りを変えた成宮のチェンジアップは、

フォーシームと同じ腕の振りでありながらボールが来ない。

 

それだけでなくフォークの様な落差も持つこのチェンジアップに、

成宮は絶対の自信を持っていた。

 

クリスには上手く左中間に運ばれたが、それでも成宮は変わらずに自身の決め球を信じていた。

 

そんな成宮のチェンジアップを御幸は待っていた。

 

そして…。

 

カキンッ!

 

金属バットの快音を残して打球はセンター方向に飛んでいく。

 

成宮が即座に打球方向に振り向くと、その視線の先には目を切って全力で

打球を追うカルロスの姿があった。

 

カルロスがその俊足で必死に打球を追う。

 

打球は外野の選手にとって最も難しい真後ろの方向だった。

 

打球にはあまり角度は無いが、勢いは衰えずに飛んでいく。

 

そしてフェンス際、カルロスは衝突を恐れずに飛び付いた。

 

ドガッ!

 

外野フェンスに衝突したカルロスが弾かれた様にグランドに転がる。

 

ボールの行方は…?

 

球場を静寂が包む中で、カルロスのグローブがゆっくりと上に掲げられた。

 

「アウト!ゲームセット!」

 

カルロスのファインプレーに球場が歓声と悲鳴に包まれる。

 

そして稲城のメンバーが集まっていくマウンドの上で、

成宮は人目を忘れて涙を流したのだった。




次の投稿は午後3:34の予定です

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