『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿4話目です


第130話

パワプロが外野ノックを受け始めた頃、青道高校正門前に2人の中学生が姿を見せた。

 

「東条くん、沢村くん、ようこそ青道高校へ。」

 

正門前で2人の中学生を出迎えたのは高島である。

 

この東条と沢村は高島がスカウトの声を掛けて今日の学校見学に誘ったのだ。

 

「えっと、今日はお誘いいただきありがとうございます!」

「へ?あ、っと、ありがとうございまっす!」

 

少しぎこちない挨拶をした東条に続いて沢村も高島に頭を下げた。

 

高島はそんな初々しい2人にニコリと微笑む。

 

去年の今頃はパワプロと御幸が青道の学校見学をしたのだが、

その際に2人は高島を礼ちゃんと呼んで教員扱いしなかったのだ。

 

もっとも、礼ちゃん呼びは今も変わらないのだが…。

 

「それじゃ案内するわ。2人共、気になる事があったら遠慮せずに聞いてね。」

 

東条と沢村は高島の案内で青道高校内を歩き始める。

 

そして校舎内や野球部専用の練習場等を見回っていく。

 

その見学の途中、金属バットの音が響き渡るグランドに着いたところで、

沢村がふと言葉を溢した。

 

「これだけ設備を揃えて全国から選手を集めたら、強いのなんて当たり前だろ。」

「は?沢村、何を言ってるんだ?」

 

沢村の言葉が理解出来ずに東条が疑問の声を上げる。

 

「こんな勝ちだけを目指す野球が面白いのかよ!野球ってそうじゃねぇだろ!」

 

大声でそう言った沢村はグランドで汗を流している青道野球部の者達を指差す。

 

「東条見ろよ!誰も笑顔じゃねぇ!こんな野球が楽しいのかよ!」

「レギュラーの座を勝ち取ろうと真剣に練習してるんだから、

 笑顔じゃなくても当たり前じゃねぇか。」

 

東条は沢村の言葉に呆れた様にため息を吐く。

 

東京に在を置く強豪の松方シニアでレギュラー争いをしてきた東条は、都内でも屈指の

強豪である青道野球部の状況に一定の理解を示している。

 

対して沢村は中学の軟式野球で友人達と楽しく笑顔で野球をやって来た。

 

その環境の差が2人の反応の違いに現れていると言えるだろう。

 

その後、沢村の一言がキッカケで東条と沢村の言い争いが始まってしまう。

 

少しの間2人のやり取りを見守っていた高島がそろそろ止めようと口を開こうとしたその時…。

 

「コラァ!何やってんねん、川上ィ!」

 

グランドに響き渡る怒声で東条と沢村の言い争いは止まったのだった。

 

 

 

 

「インコースに投げきらんのは仕方ない!せやけど真ん中にボールを

 置きにいってどうすんねん!しっかりと腕を振らんかい!」

「はい!すいません、東さん!」

 

パワプロに頼まれて川上を打撃投手に指名した東は、頭が痛い思いを堪えて川上を叱る。

 

東が思ったよりも川上の状態が酷いと感じたからだ。

 

投球の始めはアウトコースにいいボールを投げ込んだ川上だったのだが、

東がインコースにシンカーを要求すると途端に腕が縮こまってしまった。

 

「もう1球!インコースや!」

「は、はい!」

 

東の要求で川上が投球モーションに入る。

 

すると明らかにアウトコースに投げ込んだ時と比べて力の無いシンカーが、

真ん中付近の甘いコースに放り込まれてきた。

 

カキンッ!

 

その甘いボールを東が痛烈に弾き返した。

 

「あっ…。」

「何が『あっ』や!あんな甘いボール、打たれて当然やろうが!やる気あるんか?!」

「は、はい!すいません!」

 

東はため息を吐きたい気持ちを堪えて続きを促す。

 

「次!アウトコースや!」

「は、はい!」

 

東の要求で川上が投球モーションに入りシンカーを投げ込む。

 

すると、サイドスロー独特の横の角度を持つ見事なボールが、

バックドアとなってストライクゾーンギリギリに入り込んできた。

 

「しっかりと投げ込めるやないか!なんでそれをインコースに放れんねん!」

「はい!すいません!」

 

帽子を取って頭を下げる川上の姿に東は鼻を鳴らす。

 

(川上の奴…イップスにでもなってもうたんか?オフの間に解消出来ればええんやが…。)

 

実際の所、川上は元々はノミの心臓であった丹波に何度も相談したことで、

秋の大会での失敗にある程度の折り合いをつけられるようになっていた。

 

だが東が放つ強打者としての重圧とドラフト候補をケガさせてはいけないという思いが、

川上にインコースへシンカーを投げさせるのを躊躇させてしまっているのだ。

 

そうとは知らずに後輩の現状を心配する東はヘルメットを取って頭を掻く。

 

そんな東に対して…。

 

「ピッチャーに投げてもらってるのにその態度はねぇだろ!」

 

学校見学に訪れていた沢村が、東に抗議の声を上げたのだった。




これで本日の投稿は終わりです

体調を崩してしまい5話目を書けませんでした…

また来週お会いしましょう

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