『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です


第133話

東さんと沢村ってやつの1打席勝負が始まった。

 

その初球、沢村のボールはホームベースに到達する前にワンバウンドした。

 

一也は東さんにタイムを要求すると、ボールを手で揉みながらマウンドに向かった。

 

「ボールが引っ掛かったのかしら?」

 

礼ちゃんがボールペンを顎に当てながら首を傾げている。

 

「多分だけど、無理矢理引っ掛けたんだと思うよ、礼ちゃん。」

 

俺の言葉に礼ちゃんだけじゃなくて、ノリと東条も俺の方を見る。

 

「どういうことかしら、葉輪くん?」

「たまにあるんだけど、ランナーがスタートをきった時とかに、リリースの瞬間に

 ボールにわざと指を引っ掛けてコースを変える事があるんだよね。」

 

礼ちゃんは感心の声を上げながらボールペンでメモ帳に何かを書いている。

 

「川上さん、葉輪さんが言ったこと出来ますか?」

「いや、無理無理。」

 

東条の質問に、ノリは顔の前で手を横に振って否定した。

 

そんなに難しいことかな?

 

「それで葉輪くんは、沢村くんがわざと指を引っ掛けてワンバウンドを

 投げたと思っているのね?」

「多分だけどね。」

 

俺が肩を竦めながらそう言うと、一也がマウンドからゆっくりと戻って来ていた。

 

「パワプロ、御幸が要求したコースって東さんの好きなコースだったけど、

 お前ならさっきの1球どうしてた?」

「ん?一也のミット目掛けて投げ込んでたよ。」

 

ノリは俺の返事に首を傾げる。

 

「本当に?俺なら怖くて首を横に振ってると思うけど…、抑える自信があるのか?」

「う~ん、抑える自信というよりは一也への信頼かなぁ?」

 

俺の返事に礼ちゃん達は興味を引かれた様に俺をジッと見てくる。

 

「葉輪さん、バッターの好きなコースに投げたら打たれると思わないんですか?」

「その打たれるかもしれない1球にも、一也ならしっかりと意味を

 持たせているって俺は信じてるよ。」

 

俺のその言葉にノリと東条は感心の言葉を上げ、礼ちゃんは柔らかく微笑んだのだった。

 

 

 

 

「東さん、タイムをお願いします。」

「おう。」

 

沢村のワンバウンドのボールを捕球した御幸は、東にタイムを要求してマウンドに向かった。

 

御幸がマウンドに向かう途中、沢村は腕で顔の汗を拭っていた。

 

「沢村、さっきの1球、わざとか?」

「…あぁ。」

 

半ば確信を持って聞いてみた御幸だが、沢村の返事に僅かに驚いた。

 

「なんでワンバウンドにしたんだ?」

「あの1球、投げる瞬間に嫌な予感がした。」

 

この沢村の返答に御幸はまた驚いた。

 

そして…。

 

(へぇ、いい勘してるじゃん。)

 

そう思いながら御幸は笑みを浮かべた。

 

「沢村、実はあのコース、東さんの得意なコースなんだ。」

「はぁ!?」

 

見事な沢村の反応に御幸は笑ってしまう。

 

「お前も敵かぁ!?これがアウェーの洗礼ってやつか!?」

「ははは!悪い悪い。でも、緊張は解れただろ?」

「へ?」

 

御幸の言葉に沢村は身体の力が抜けたのを自覚した。

 

「次の1球からはキチンとリードするから、しっかりと腕を振って投げ込んでこいよ。」

 

御幸がそう言いながら沢村の肩を軽く叩くと、沢村はニッと笑顔を見せた。

 

マウンドからキャッチャーボックスに戻る間に御幸は思考を巡らせる。

 

(さて、どうするかな?)

 

御幸はわざとゆっくりと戻りながら東の素振りを観察する。

 

(本当なら、さっきの1球で東さんの打ち損じを狙いたかったんだけどな…。)

 

キャッチャーボックスにまで戻った御幸はマスクを被りながら座る。

 

(正直、沢村の球質を見られたら東さんとの勝負は厳しいんだけど…。)

 

悩む御幸の耳に声が聞こえてくる。

 

「その打たれるかもしれない1球にも、一也ならしっかりと意味を

 持たせているって俺は信じてるよ。」

 

このパワプロの言葉に、御幸はマスクの奥で口角をつりあげる。

 

(やれやれ、それじゃ相棒の信頼に応えるとしますかね!)

 

ミットに拳を叩きつけて気合いを入れた御幸は、キャッチャーボックスの中で

大きくミットを構えるのだった。




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