『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

140 / 291
本日投稿3話目です


第138話

青道高校の学校見学を終えて長野に帰った沢村は、心此処に在らず

といった感じで日々を過ごしていた。

 

そんな沢村の頭に過るのはもちろん青道高校の学校見学をした時の事だ。

 

地元の仲間達と野球をしていた時には聞いた事が無い心地好い捕球音。

 

打席に立つだけで圧力を感じて膝が笑いそうになりそうな強打者との勝負。

 

そして…。

 

(葉輪 風路…あんな凄いピッチャー、見たことなかった…。)

 

フォーシーム、カーブ、スライダー、どれを見てもプロの投げているボール

なんじゃないかと沢村は感じた。

 

残念ながらチェンジアップの凄さは理解出来なかったが、それでも東が空振りをしたのを見て、

あの遅いボールにも意味はあるんだとなんとなく感じていた。

 

(青道に行けば、あんなに凄い奴等と競いあえる…でも…。)

 

沢村の頭にこれまで一緒に野球をしてきた友人や幼馴染みの姿が浮かぶ。

 

(あいつらを裏切れねぇよ…!)

 

頭を抱えた沢村は歯を食い縛って苦悩し続けたのだった。

 

 

 

 

東条や沢村が学校見学に来てから数日後、片岡さんから秋の神宮大会に合わせて

紅白戦や練習試合を組んだと発表された。

 

先ずは紅白戦で暫定の1軍や2軍等を決めて、練習試合を戦っていくらしい。

 

練習試合をする相手は主に東東京地区の高校の様だ。

 

この発表に青道野球部の皆のモチベーションは一気に高まった。

 

現在1軍メンバーは白紙の状態だ。

 

レギュラーの座を掴み取ろうと目をギラギラとさせている。

 

いいね!俺もモチベーション上がって来たぜ!

 

え?俺は紅白戦は見学ですか?

 

なんてこったい!

 

俺が頭を抱えて身を捩ると、それを見ていた貴子ちゃんが俺を可愛いと

言って微笑んだのだった。

 

 

 

 

パァン!

 

青道高校野球部の施設の1つであるブルペンにミットの音が響き渡る。

 

「丹波、ナイスボール!」

 

丹波が投げ込んだボールを受けた宮内が声を大にして称賛する。

 

その1球に手応えを感じたのか、丹波も自然と笑顔になる。

 

「どうだ丹波、ナックルカーブの調子は?」

 

顎髭を扱きながらブルペンを見ていた落合が、アンダーシャツで額の汗を

拭う丹波に声を掛けた。

 

「コントロールはまだまだです。ですが、手応えは悪くありません。」

「今はコントロールを気にするな。今まで投げていたカーブと球速差をつけられる様に

 しっかりと腕を振って投げ込め。」

「はい!」

 

夏の大会が終わってから丹波は新しい変化球を模索していた。

 

丹波の持ち球はフォーシーム、カーブ、フォークである。

 

基本的な丹波のピッチングはフォーシームとカーブでカウントを整えて

勝負といった感じである。

 

しかし、丹波は今のピッチングに限界を感じてきていた。

 

それは、狙ってカウントを取れる球種が無いことだった。

 

丹波のフォーシームはパワプロは別として伊佐敷程のキレはなく、

それだけで勝負が出来る様なボールではない。

 

フォークは低めに落として空振りを奪う事を目的としたボールなので

カウントを奪うのにはむかない。

 

いや、正確には低めのストライクゾーンに投げ込むコントロールが無いというのが現状だ。

 

そのため、これまでは決め球であるカーブをカウントを整えるボールとしても

使ってきたのだが、パワプロ程のコントロールが無いので少し甘いコースに行ってしまい、

それを上手く合わされてヒットにされることが増えてきていたのだ。

 

そんな時に丹波は落合に相談すると、球速の速い変化球をすすめられた。

 

ツーシーム、カットボール、スライダーとカーブよりも球速の速い変化球を教えられたが、

どれも丹波の感覚にはしっくりとこなかった。

 

そこで落合は球速の速いカーブを丹波に教えた。

 

これに丹波は驚いた。

 

丹波もそういったカーブがあるのは知っていたが、丹波の認識としてカーブは球速が遅く、

緩急を活かすものという決め付けに近いものがあったからだ。

 

自分が初めて覚えた変化球が新たに自分の戦力になる。

 

この事に丹波の気持ちは高揚した。

 

それから丹波は落合に主に2種類のカーブの握りを教わった。

 

1つはパワーカーブというものだったが、これは残念ながらしっくりとこなかった。

 

次に教わったのは現在練習をしているナックルカーブだ。

 

握りは極単純なもので、これまで投げていたカーブの握りの人指し指を曲げるだけだった。

 

この新たな握りに丹波の感覚はビシッと嵌まった。

 

最初の1球こそ引っかけてワンバウンドさせてしまったが、次の1球はこれまで投げていた

カーブに比べて間違いなく速いカーブを投げる事が出来たのだ。

 

「意識は前に投げる力がメインだ。極論だが、フォーシームに比べて最後の一伸びが

 無いだけでも、バッターを打ち取る武器として使えるんだからな。」

「はい!」

 

元気に返事をしてナックルカーブを投げ込む丹波を、落合は片目を瞑って観察する。

 

(ナックルカーブがものになれば丹波は1つ上のレベルに行けるが…。

 さて、春までにものになるかな?)

 

そう疑問に思いながらも笑みを浮かべた落合は、ブルペンの奥で新たな変化球に挑戦している

伊佐敷の元に歩いて行ったのだった。




次の投稿は13:00の予定です

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。