青道高校の１軍候補メンバーによる紅白戦が始まった。
１回の表のマウンドに上がったのは白チームの先発である丹波だ。
先頭打者は幸先良くアウトにした丹波だったが、続く２番打者の白州にフォーシームを
上手く打たれて出塁されてしまう。
これでワンアウト、１塁。
迎える赤チームのバッターは３番打者の結城。
御幸はタイムを取ってマウンドに向かった。
「丹波さん、哲さん相手にゲッツー狙いとか贅沢は言いません。歩かせる事を覚悟して
コースギリギリを要求しますが、ボールを置きに行かずにしっかりと腕を振ってください。」
御幸の言葉に丹波は力強く頷く。
そして御幸がキャッチャーボックスに戻ると、丹波は試合終盤かの様な集中を見せる。
（臆すな、腕を振れ！胸を張れ！俺に出来るのはそれだけだ！）
御幸のサインに頷いた丹波がセットポジションからチラリと１塁の白州に目を向ける。
そして、クイックモーションからしっかりと腕を振ったボールが
御幸のミット目掛けて投げ込まれた。
丹波が投げ込んだボールは右打席の結城の肩口に向かっていたが、
そこから鋭くインローへと変化をしていく。
僅かに身体を引く様な動作をしながら結城がボールを見送る。
主審をしている片岡の判定は…？
「ストライク！」
フロントドアのカーブがインローに決まってノーボール、ワンストライク。
御幸はマスクの奥で微笑みながら丹波に返球する。
（初球にストライクを取れたのは大きい。これで主導権は確保出来た。）
２球目、サインを出した御幸が外のコースに寄る。
頷いた丹波がセットポジションからしっかりと腕を振ってボールを投げ込んだ。
アウトローに丹波が投げ込んだフォーシームが向かう。
パァン！
ミットの快音がグランドに響き渡る。
だが…。
「ボール！」
主審の片岡の判定はボール。
（たはっ、監督～…、その判定は厳しいですよ。）
マスクの奥で苦笑いをしながら御幸はボールを丹波に返す。
（今のはボール半分外に外れてたけど、ピッチャー出身の片岡監督ならストライクを
取ってくれてもおかしくなかったんだけどな…。）
２球目の判定を受けて御幸がリードを組み立て直す。
（カウントはワンボール、ワンストライク…、丹波さんにはああ言ったけど、
出来るならゲッツーを狙いたい。）
横目でチラリと結城を見てから御幸がサインを出す。
サインに頷いた丹波は、１塁に緩く牽制を入れた。
この牽制の白州の反応から盗塁は無いと直感した御幸は、結城との勝負に集中する。
３球目。
丹波と御幸のバッテリーが選択したボールは２球目と同じアウトローへのフォーシーム。
だが丹波のコントロールミスなのか、ボールは２つ分程内に寄る
やや甘いコースに投げ込まれた。
カキッ！
結城のバットが丹波のボールを捉えたが、１球目のボールの残像がまだ残っていたのか、
スイングは差し込まれた様な形になり、打球はライト線を切れてファールとなった。
これでカウントはワンボール、ツーストライク。
４球目。
御幸はミットで地面を軽く叩くジェスチャーを入れて、ワンバウンドのフォークを要求した。
丹波はセットポジションからしっかりと腕を振ってボールを投げ込む。
左右のコースは真ん中と甘くなってしまったが、高さは低めのストライクゾーンから
ワンバウンドとなるボールゾーンへと落ちる素晴らしい変化を見せた。
結城のバットが反応するが、スイングは途中で止まった。
御幸は塁審を指差して判定を要求する。
判定は…ノースイング。
これでカウントはツーボール、ツーストライク。
このカウントで御幸は勝負に出た。
サインに頷いた丹波がセットポジションからしっかりと腕を振ってボールを投げ込む。
勝負の５球目。
御幸が勝負球に選んだのは丹波の新変化球であるナックルカーブだ。
インコースの甘い所からボールは真ん中へと変化していく。
コースだけを見れば失投と言えるボールだった。
だが、御幸のリードが結城のスイングに狂いを生じさせた。
ガキッ！
ボールの上っ面を叩いた打球が白チームの遊撃手である倉持の正面に転がっていく。
倉持は素早く正確にボールを捌いて２塁に入った小湊に送球すると、小湊も素早い動作で
白チームの１塁手である前園に送球した。
「アウト！スリーアウト！チェンジ！」
結城をゲッツーに抑える最高の結果に、丹波は右手をグッと握り締めると、
雄叫びを上げながらマウンドを下りるのだった。
本日は５話投稿します。
次の投稿は９：００の予定です。