『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第143話

青道高校野球部の1軍の座を巡る紅白戦は2回の表に入った。

 

赤チームの先頭打者は4番バッターのクリスだ。

 

白チームの先発である丹波はロージンバッグをマウンドの横に置くと、

プレートに足を掛けて御幸のサインを見る。

 

サインに頷いた丹波はフーッと息を吐いてから投球モーションに入った。

 

「ふしっ!」

 

丹波独特の投球時の掛け声と共にボールが投げ込まれる。

 

初球。

 

白チームのバッテリーが選択したのはナックルカーブだった。

 

アウトコースの甘い所に投げ込まれたが、クリスはこの初球を見送った。

 

この1球はストライクとなった。

 

(先ずは予定通りにワンストライク。)

 

横目でチラリとクリスの反応を見る御幸だが、クリスの狙いが読みきれない。

 

(クリスさん相手ならホームランさえ打たれなければ合格点だけど、

 レギュラーの座を奪う為にも抑えたい。)

 

2球目。

 

御幸が出したサインに丹波が首を横に振る。

 

(丹波さんはピッチャーの本能で危険を感じ取ったのか?)

 

御幸は直ぐに頭の中でリードを組み立て直してサインを出す。

 

だが、丹波は首を横に振り続ける。

 

(まさか…?)

 

御幸が半信半疑でサインを出すと、丹波は力強く頷いた。

 

(マジか…たはっ!丹波さん、とんでもない度胸ですね!)

 

マスクの奥でニッと笑いながら御幸がミットを構えると、丹波が投球モーションに入る。

 

丹波が投じた2球目。

 

丹波が選択したのは初球と同じナックルカーブだった。

 

この1球にクリスが反応した様にバットを振るう。

 

クリスは差し込まれながらもバットを振りきったが、打球はライト線を切れてファール。

 

これでカウントはノーボール、ツーストライクと追い込んだ。

 

丹波は3球目のサインにも何度も首を横に振る。

 

そして漸く首を縦に振って投げ込まれたボールは、またしてもナックルカーブだった。

 

ストライクゾーンに投げ込まれたナックルカーブをクリスがカットする。

 

その後4球目、5球目も同じ様にナックルカーブが投げ込まれた。

 

4球目は低めに外れてワンボール、ツーストライクになったが、

それでも丹波はクリスに対してナックルカーブのみを投げ込み続けた。

 

そして6球目。

 

丹波はまたしても同じ様に首を何度も横に振る。

 

そして漸く首を縦に振って投球モーションに入った。

 

「ふしっ!」

 

丹波独特の掛け声と共にボールが投げ込まれる。

 

赤チームのメンバーの誰もがまたナックルカーブを投げ込むと思っていた。

 

だが、丹波はここでフォーシームを投げ込んだ。

 

この1球の為に丹波はリスクを背負い、ナックルカーブを投げ続けたのだ。

 

丹波が投げ込んだフォーシームが御幸がミットを構えるインローへと向かう。

 

そして…。

 

パァン!

 

御幸のミットが心地好い捕球音を鳴らすと、丹波は確信を持って右手を握り締める。

 

「ストライクスリー!バッターアウト!」

 

そして主審の片岡の判定を聞いた丹波は、マウンドで雄叫びを上げたのだった。

 

 

 

 

「丹波さん!ナイスピッチング!」

 

パワプロの声を聞きながら、落合は驚きに目を見開いていた。

 

(いやはや…クリスを相手にあんなピッチングが出来るのか…。どうやらノミの心臓は

 完全に克服したようだな。)

 

落合は丹波のピッチングで活気づくメンバーを見ながら髭を触る。

 

(今の丹波なら強豪と言われる高校でも間違いなくエースになれる。だが、青道には

 本物の怪物がいる以上、丹波がエースになる事は無いだろう。)

 

落合は横目でパワプロをチラリと見てから目を丹波に戻す。

 

(しかし、丹波は今の追いかける状況を楽しめる様になってきている。

 いや、間違いなく楽しむ様になった。)

 

片目を瞑った落合は頭を掻きながらため息を吐く。

 

(やれやれ、紅白戦が終わったらどんな相談をされることやら…。

 まぁ、コーチ冥利に尽きるがね。)

 

そう考えた落合は、顎を擦りながらニヤリと笑うのだった。




次の投稿は13:00の予定です。

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