クリスを見逃し三振に抑えた後、丹波は後続の打者に甘いコースに行ってしまったボールを
ヒットにされてしまったものの、2回の表を無失点で終えた。
対する伊佐敷もヒットは打たれたものの、2回の裏を無失点で抑えた。
そして3回でも両チームにヒットが出たが、ここでも得点には至らない。
そんな紅白戦のスコアが動いたのは4回の表だった。
2回には仕止める事が出来なかった丹波のナックルカーブを、
クリスがソロホームランにしたのだ。
これで赤チームが1点リード。
4回の表はクリスのホームランによる1点に止まったが、徐々に赤チームに
ヒットが増えていった。
そして4回の裏、今度は1塁ランナーに倉持を置いた状態で御幸が
タイムリーツーベースヒットを打って同点に追い付いた。
その後、伊佐敷は前園にもレフト前ヒットを打たれたのだが、打球が強かったので
御幸がホームに帰れず、その後の打者を抑えて4回の裏は1失点に抑えた。
5回は両チーム共に無得点に終わり、丹波と伊佐敷は両者共に5回を1失点という結果だった。
そして6回の表からは他の投手候補が登板をしていくが、ここからは乱打戦となった。
5回まで両チーム合わせて2点という試合展開が一気に加速していった。
7回終了時には赤チーム7点、白チーム6点の1点差に変わっていた。
そんな乱打戦となった8回の表、出番を待ち焦がれていた川上がマウンドに上がるのだった。
◆
「ノリ、無失点で抑えて流れを呼び込むぞ。」
「うん、リード頼んだよ、御幸。」
御幸はミットを川上のグローブと合わせると、キャッチャーボックスに戻っていく。
その後ろ姿を見送った川上はマウンドの上で大きく息を吐く。
(今の俺には右打者のインコースにシンカーを投げきるコントロールは無い。
でも、東さんのおかげでバックドアにシンカーを投げ込む事は出来る様になった。)
川上は沢村達が学校見学に来た日に東のバッティングピッチャーをしたのだが、
その時に東からアドバイスをもらっていたのだ。
(本当はスライダーとシンカーを同じ所から変化させて内と外を投げ分けたいんだけど、
スライダーをフロントドアに、シンカーをバックドアに投げるピッチングも面白い。)
川上はあの日の東の言葉を思い出す。
『追い掛けがいがある男やで。』
(結果が欲しい…。俺もパワプロを追い掛けて成長したい!)
川上が打席に目を向けると、そこには赤チームの先頭打席である1番バッターの姿があった。
(俺に与えられたチャンスは2イニング。相手は1番からだけど、抑えたら大きい。)
プレートに足を掛けた川上が御幸のサインを見た。
(絶対に抑える!抑えて、1軍でプレーをするんだ!)
◆
8回の表、川上は1番、2番バッターを連続で抑えたのだが、3番の結城にソロホームラン、
4番のクリスにツーベースヒットを打たれてしまった。
その他のバッターは9回も合わせて抑えた事で紅白戦は白チームが逆転勝利となったが、
1失点の結果に川上は悔しそうに歯を噛み締めた。
紅白戦が終わった後日、片岡から1軍メンバーが発表された。
捕手としてクリスと御幸の名が呼ばれた。
片岡は練習試合の結果で正捕手を決めると二人に告げた。
この片岡の言葉に御幸とクリスは大きな声で片岡に返事をした。
1軍メンバーの発表が再開されると、丹波と伊佐敷の名が呼ばれた。
片岡は丹波と伊佐敷の二人にも、後日に行われる他校との練習試合の結果で
第2先発を決めると告げた。
伊佐敷と丹波はお互いに負けない、譲らないとばかりに目線で火花を散らした。
その後の1軍メンバー発表は結城や小湊等の秋の選抜大会で1軍だった者達が
順当に選ばれたり、新たなメンバーが加わったりしていった。
だが、川上の名前は中々呼ばれない。
18人目、19人目と1軍メンバーが発表されてもまだ呼ばれない。
そして、最後の1人となる20人目…。
「20人目!」
川上は祈るような気持ちで片岡の言葉の続きを待つ。
「…川上!」
「は、はい!」
少し言葉につまりながらも大きな声で返事をした川上は笑顔で片岡から背番号を受け取った。
そして1軍メンバーの列に並ぶ際に、手を差し出してきたパワプロと
力強くタッチをしたのだった。
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