「ドラァ!」
練習試合前の練習で鵜久森のリーゼント君は随分と気合いが入っているなぁ。
「礼ちゃん、鵜久森ってあまり聞かない高校だけど、よく練習試合を組んだね。」
俺がリーゼント君の練習を見ていると、横で一也が礼ちゃんにそう聞いていた。
「確かに鵜久森は激戦区の東京では有名ではないわね。でも、夏前の練習試合で明川学園と引き分けたり、秋の選抜大会の3回戦で稲城と2ー3の接戦をしたりしたのよ。」
「へぇ、楊や鳴を相手にそれだけやれるぐらい強いんだ。」
「強い…というよりは勢いのあるチームってところかしら。」
礼ちゃんのその言葉に俺と一也は揃って首を傾げる。
「鵜久森はとにかく失敗を怖れずに積極的に仕掛けてくるチームなの。そういったチームだからなのか、勢いに乗った時は本当にやっかいなチームなのよ。」
「それが他の強豪との練習試合よりも優先した理由?」
「半分はそうね。もう半分はあそこにいるマネージャーの松原君の熱意に負けたってところね。」
礼ちゃんの視線を追うと、そこには車椅子に乗った青年がいた。
「あれ?どこかで見たことがあるような?」
「パワプロ、あいつとはシニアで試合をした事があるぞ。」
「そうだっけ?」
一也の言葉で記憶を掘り返そうとするが、ぜんぜん思い出せない。
俺が腕を組んで思い出そうとしていると、一也はため息を吐き、そんなやり取りを貴子ちゃんはニコニコと見ていたのだった。
◆
練習試合が始まった。
青道は後攻なので、俺はレフトの守備位置に向かう。
何やら多くの視線を感じたので振り向くと、そこには鵜久森の人達がいた。
ピッチャーの俺がレフトを守るのはそんなに変かな?
試合が始まると、鵜久森の1番バッターは丹波さんのボールを初球から積極的に振っていった。
丹波さんは1番、2番は打ち取ったんだけど、3番バッターには上手くレフト前ヒットを打たれてしまった。
早速の守備機会を俺はしっかりとこなしたぜ!
そして鵜久森の4番バッターとしてあのリーゼント君が打席に入ったんだけど、ここで驚くことが起こった。
なんと、塁に出た3番の人が初球に盗塁を仕掛けたのだ。
盗塁の結果はアウトだったんだけど鵜久森ベンチの表情は明るく、盗塁失敗を少しも気にしている様子は無い。
「惜しい惜しい!次は盗めるよぉ!」
そんな声が鵜久森ベンチから聞こえてくる。
敵チームながら野球を楽しんでいる様に見えて、凄く雰囲気のいいチームだな。
盗塁失敗でスリーアウトになったので1回の表が終わり、今度は青道の攻撃だ。
鵜久森のピッチャーは4番として打席に入ったあのリーゼント君だ。
エースで4番とは凄いな。
俺も野手能力を成長させてクリーンナップを狙ってみようかな?
青道の1番バッターとして打席に入った倉持は、リーゼント君のボールをじっくりと見ていっている。
リーゼント君の持ち球はフォーシームとスローカーブってところかな?
この緩急差で倉持はボテボテのショートゴロに打ち取られたんだけど、快速を活かして内野安打をもぎ取った。
続く2番バッターは亮さんだ。
鵜久森は内野安打をもぎ取った倉持の足を警戒しているのか、何度も牽制をしてきた。
だけど、リーゼント君が投げる初球で倉持はスタートを切った。
亮さんは倉持の盗塁を助ける為に空振りをする。
すると鵜久森のキャッチャーは2塁に投げられずに、倉持の盗塁は成功してノーアウト、2塁の状況になった。
続く2球目、亮さんと倉持はヒットエンドランを仕掛けた。
鵜久森のお株を奪う積極的な仕掛けだったけど、この一打はヒットにはならず内野ゴロで進塁打となった。
これでワンアウト、3塁のチャンスでバッターは3番の哲さんだ。
リーゼント君は緩急差を活かしてカウントを稼いでいく。
そしてツーボール、ツーストライクのカウントでリーゼント君は勝負に出た。
リーゼント君がこの練習試合で初めて投げる変化球に哲さんのバットが空を切った。
空振り三振に抑えられた哲さんは、次打者のクリスさんに耳打ちしてからベンチに戻ってくる。
そんな哲さんに俺は声を掛けた。
「哲さん、最後のボールは何だったんですか?」
「パワプロか、残念だが球種まではわからない。」
「そうなんですか?」
「あぁ。縦のスライダーかと思ったんだが、少し独特な軌道だったからな。」
「へ~。」
俺が哲さんと話していると、クリスさんはリーゼント君に哲さんを打ち取ったのと同じボールで内野ゴロに打ち取られてしまった。
リーゼント君は俺に向けてグローブを突き出すと、ニッと笑みを浮かべて鵜久森側のベンチに戻っていったのだった。
本日は5話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。
今回から文章の途中での改行を自重してみましたがどうでしょうか?
見にくいようでしたら来週から戻したいと思います。