「監督―――!無事ですか!?傷は浅いですよ!」
第一球からやらかしてしまった俺は大声で監督の安否を心配する。
「マスクに当たったから大丈夫だ!心配するなパワプロ!それと、不吉な言い方をするな!
俺は嫁さんを貰うまで絶対に死なんからな!」
思わぬ所で監督の独身がわかってしまったグラウンドでは笑い声が響き渡る。
「元気いいなお前ら!パワプロ!ぶつけた事を気にして腕が縮こまったら怒るからな!
試合を思いっきり楽しんでいけよ!」
「はい!」
出来た大人である監督の励ましに俺は大きな声で返事をする。
「よぉーし!プレイ再開だ!」
監督にぶつかって地面に落ちたボールは、砂まみれになったので代わりのボールが投げ渡される。
俺は1つ息を吐いてから投球モーションに入っていく。
キャッチャーがミットを構える場所は一番の左バッターに対するアウトロー。
そこに向かって左腕を振る。
俺の指先から投げられたボールは少し内側に入ってボール一個分浮いてしまう。
ヤベッ!絶好球!?
そう思ったものの、振られたバットは低め一杯を通過する。
「ストラーイク!」
キャッチャーがボールをポロッと落としてしまうがこれでツーストライクだ。
落としたボールをキャッチャーが手で捏ねて砂を落としてから俺に投げてくる。
ボールを受け取った俺は直ぐにプレートを踏んでキャッチャーを見る。
キャッチャーの要求は真ん中高め。
一球目の事が頭を過るが監督の言葉を思い出して俺は笑う。
「野球、すっげぇ楽しいですよ。監督!」
ノーワインドアップで投じられる一球はビシッと感覚が嵌まって狙い通りのコースへ。
パンッ!
「ストライク!バッターアウト!」
俺の記念すべき初試合は監督の顔への直撃と三振から始まったのだった。
◆
いい球質だな。
主審を務めながら俺はそう思う。
キャッチャーの後ろという特等席でパワプロのボールを見た事で、
以前にクリスが言っていた事が理解出来た。
1人目はバットに触れさせる事もさせずに三振。
まだ本格的に野球を始めたばかりの3年生に、あれを打てと言うのは酷だろう。
そして、それはパワプロのボールを受けるキャッチャーも同様だ。
パワプロが投げるフォーシームを何度も捕り損なっている。
ノビのある球質に目測、予測を誤っているのだ。
パワプロはそんなキャッチャーのキャッチングに不満を見せていない。
むしろ自分が要求通りのコースに投げ込めないのが悪いと思っている様な感じだ。
ピッチャーとしての意識が高いのか大物なのか…。
いや、あの笑顔を見るに野球が楽しくて仕方ないんだろうな。
ああいう奴はドンドン成長していくものだ。
ケガをしないように指導者として注意していてやらないとな。
ケガと言えばキャッチャーもだ。
パワプロの球速はそれほど速くないとはいっても使っているボールは硬球だ。
パワプロの球をいい音をさせてキャッチング出来たのが嬉しいのか、
マスク越しでもわかる笑顔だが少しでも痛そうな素振りを見せたら交代させないとな。
マウンドではパワプロが元気良く野手に「ワンアウトー!」と声を掛けている。
それに野手も応えてグランドに子供達の声が響き渡る。
うんうん、いい雰囲気だ。
そんな声が響き渡る中で、ネクストバッターサークルに控えていた子が
バッターボックスに入ってくる。
新しく現れたバッターにパワプロが笑顔を見せる。
本当に野球を楽しそうにやる奴だ。
そんなパワプロだったが、クリスの評価の通りに制球はまだまだと言った所で
2人連続で歩かせてしまい、ワンアウト、1、2塁のピンチを招いてしまう。
ピンチの情況にマウンドには内野陣が集まってくるが、それでもパワプロは笑顔のままだった。
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