『パワプロ成長』でダイヤのA   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第151話

青道と鵜久森の練習試合の8回の表、青道のピッチャーは丹波からパワプロに代わった。

 

パワプロがマウンドに上がったのを見た鵜久森のマネージャーである松原は、柏手を1つ打ってチームの皆の注目を集める。

 

「さぁ、ここからが本番だよ。僕達は秋の大会で稲城の成宮から得点を奪う事が出来たんだ。だから、葉輪からだって奪えても不思議じゃない。今まで通りに積極的にいこう。」

「「「応!」」」

 

松原の檄に応えた鵜久森のメンバーがベンチから大きな声を出していく。

 

(とは言ったものの、葉輪の投手としての能力は成宮よりも一枚上だからね。2イニングで攻略をするのは難しいだろうな。)

 

そう考えながら松原は車椅子をベンチの最前列に移動させてノートを開く。

 

(勝負は来年からと考えていたけど、それでも目の前の試合に負けるつもりは無い。皆、頼んだよ。)

 

松原はパワプロの投球練習のボールを一球一球余さずに観察してノートにメモしていく。

 

そしてメモを終えると、切なそうに自身の足に手を添えるのだった。

 

 

 

 

パワプロは投球練習を終えて御幸が2塁に送球したのを見送ると、マウンドをスパイクで均していく。

 

(なんかリリーフって不思議な感覚だな。試合終盤で気持ちは高まっているのに、肩を作ったばかりだから身体が軽い。いつも8回辺りは少し疲れてるんだけどなぁ。)

 

ボール回しが終わって戻ってきたボールを受け取ると、パワプロはマウンドで笑顔になる。

 

「まぁ、俺に出来るのは楽しんで投げる事だけだし、いつも通りに行こうか!」

 

そう言うとパワプロは、御幸のサインに頷いて笑顔でボールを投げ込んでいくのだった。

 

 

 

 

8回の表、鵜久森の攻撃は8番バッターからだ。

 

鵜久森の8番バッターは右打席に入ると、足場を作ってから気合いの声を上げる。

 

初球、鵜久森のバッターはパワプロが投げ込んだインハイのフォーシームを空振りしてしまう。

 

明らかに振り遅れたのを感じたバッターはバットを短く持ち直す。

 

それを横目で観察していた御幸が次の一球のサインを出すと、頷いたパワプロが独特な投球モーションに入る。

 

2球目、パワプロはインローにチェンジアップを投げ込んだ。

 

ややシュート方向に変化するパワプロのチェンジアップが、右打席にいる鵜久森の打者に対してフロントドア気味に変化していく。

 

パワプロのフォーシームに対応しようとしていた鵜久森の8番バッターは完全にタイミングを外されてしまい、手を出すことが出来ずにボールを見送った。

 

「ストライクツー!」

 

2球であっさりと追い込まれた鵜久森の8番バッターは慌ててタイムを取って打席を外す。

 

積極的に仕掛けてパワプロのペースを乱そうとしていたのに、いつの間にかパワプロの投球に飲まれていた事に気が付いたからだ。

 

二度、三度と素振りをする鵜久森のバッターを横目で観察する御幸は、既に三振を奪える事を確信していた。

 

鵜久森のバッターが打席に戻ると、御幸は直ぐにサインを出す。

 

パワプロがサインに頷いたのを見た鵜久森のバッターは慌ててタイミングを計る。

 

3球目、パワプロは初球と同じインハイのフォーシームを投げ込む。

 

そして…。

 

パァン!

 

御幸のミットが快音を鳴らすと、主審が力強くアウトをコールした。

 

手を出せずに三球三振で抑えられた仲間の姿を見た松原は、ノートにメモを取る手を止めて頬を流れる冷や汗を拭ったのだった。

 

 

 

 

8回の表、パワプロは鵜久森打線を三者連続で三球三振に抑える快投を見せた。

 

8回の裏、梅宮が鵜久森に流れを呼び込もうと力投を見せるが、青道打線に1点奪われてしまい、7ー4と点差を拡げられてしまった。

 

そして9回の表、鵜久森打線の先頭打者である2番バッターと、続く3番バッターも三球三振に抑えられてしまう。

 

8回の表から五人連続で三球三振。

 

そして9回の表、ツーアウトでランナー無し。

 

それでも鵜久森ベンチは諦めずに、4番の梅宮に声援を送っていく。

 

梅宮が打席に入ると、パワプロはサインに頷いて投球モーションに入る。

 

初球、パワプロは右打席の梅宮にバックドアとなる高速スライダーを投げ込んだ。

 

積極的なバッティングをする梅宮だが、この初球には手が出ずに見送ってしまった。

 

判定はストライク。

 

梅宮はタイムを取って打席を外すと素振りをしていく。

 

(ったく、なんで俺は中学の三年間を無駄にしちまったんだろうな…。)

 

素振りを終えた梅宮が打席に戻ると、パワプロは直ぐにサインに頷いて投球モーションに入る。

 

2球目、パワプロはインコースのやや甘い所にボールを投げ込んだ。

 

このボールに反応した梅宮がバットを振るが、ボールは抜群のキレでインコースのボールゾーンへと変化し、梅宮のバットを掻い潜る。

 

2球続けての高速スライダーであっさりと追い込まれた梅宮は打席で大きく息を吐く。

 

(いや、あの挫折がなけりゃ、俺は今程本気で練習をしてねぇな。リトルの時の俺は、チームの誰より上手いのを鼻にかけて天狗になってたしな。)

 

3球目、パワプロはアウトローにピンポイントでフォーシームを投げ込む。

 

梅宮はスイングをするが、先程の高速スライダーが頭を過り振り遅れてしまう。

 

バシッ!

 

御幸のミットが快音を鳴らすと、主審が試合終了をコールする。

 

(葉輪、感謝するぜ。俺は今、本気で野球をやれてる。あの頃よりもずっと楽しんでな。)

 

梅宮までもが三球三振に倒れた鵜久森だったが、試合終了の挨拶に並んだ時には、チームの誰もが笑顔で挨拶をしたのだった。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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