「タイム!」
キャッチャーが主審である監督にそう言ってマウンドに走ってくる。
なぜか内野陣まで一緒に集まってきた。
「まぁワンアウト、1、2塁のピンチだからしょうがないか。」
俺はそう言いながら苦笑いをする。
さて、集まってきた皆にまずは謝るか。
俺は謝る事の出来る男だからな!
「皆、すまん!コントロールが悪くて連続で歩かせちまった!」
俺の言葉に内野陣は顔を見合わせる。
「そう言うけど、笑ってるよね?」
確かに俺はピンチの状況だが笑っている。
そう言ってきたのは遊撃手の…えっと…?
「誰だっけ?」
「白河…まぁ、一緒に練習してないから知らなくても仕方ないけど。」
白河か!お前の名前は忘れるまで忘れないぞ!
だって、人の名前を覚えるの苦手なんだもん。
「それで、何で笑ってるの?」
「いやぁ、野球してるなぁって感じてさぁ。」
俺の言葉に集まった内野陣はまた首を傾げる。
「それに、ピンチの場面をバシッと抑えたらカッコいいじゃん!」
「自分で招いたピンチだよね?」
「それは言わないであげて!」
そう言って俺が頭を抱えて身を捩ると内野陣からも笑い声が出てくる。
「さて、キャッチャーさんやい、ちょいと相談があるんだけど。」
「何?」
「コントロール悪くてコーナーを狙えないからさ、真ん中に投げて勝負したいんだけど。」
俺の言葉を聞いた内野陣が驚きの表情を浮かべる。
「えっと、俺はいいけど…」
「よっしゃ!そう言う訳だから内野陣の皆もよろしく!」
俺の言葉を聞いた内野陣がグローブを拳で叩いてパンッと音を出す。
「俺の方に打たせればアウトにしてあげるよ。」
「ハッハッハッ!白河!俺にそんな技術は無いぜ!」
「知ってる。」
「ちくしょ―――!」
俺と白河のやり取りを見て内野陣が笑いながら守備位置へと戻っていく。
さぁ、試合は始まったばかりだ。
楽しんで行くぜ!
◆
「真ん中に集めて打たせてとるつもりか…。」
クリスがベンチで見学をしながら、キャッチャーのミットの位置を見てそう判断する。
「葉輪のコントロールを考えれば悪くない選択だ。」
下手にコーナーを狙っていって押し出しになるよりはマシだろうとの考えだ。
クリスがそう考えているとマウンド上のパワプロが、ランナーを背負いながらも
ノーワインドアップの投球モーションに入っていく。
「…そのうちセットポジションを教えないとな。」
パワプロが投げたボールは高さはあっているが少し内よりになり絶好球となる。
だが、振られたバットは空を切る。
「明らかに振り遅れているな。」
クリスはベンチでこうして観察するのも悪くないが、やはり実際にこの手で
受けてみたいなと考える。
クリスがそう考えているとパワプロが2球目を投げる。
すると、バッターはボールを打ち上げてしまった。
ショートフライでツーアウトだ。
続くバッターは2球で追い込むと今度はピッチャーフライを打ち上げてしまう。
「…これで交代か。」
なんと助言をしようかとクリスは考え始めるが、ここでパワプロがやらかしてしまう。
なんと、ピッチャーフライを落球してしまったのだ。
「やっちまった―――!」
ランナーが埋まり満塁となったマウンドで、パワプロが叫んでいるのを見て
クリスはため息を1つ吐く。
「…守備も教えないとダメだな。」
クリスが頭を抱えながらそう呟く。
やらかしてしまったパワプロだがマウンドで1つ息を吐くと直ぐに笑顔に戻る。
その後、パワプロは次のバッターを空振り三振で抑えて初回のピンチを切り抜けたのだった。
◆
なんとか切り抜けた1回に続く2回ではまたフォアボールでランナーを出したり、
送りバントをお手玉してバッターランナーもセーフになったりとまたピンチを招いてしまった。
そして、ツーアウトになってからまたバッターにピッチャーフライを打ち上げられたのだが、
高めに上がったからなのか遊撃手の白河が走ってきてピッチャーフライを
ショートフライにしてしまった。
ナイスだぜ!
そして続く3回。
またしてもフォアボールでランナーを出すもなんとかツーアウトまで辿り着く。
だが、俺はマウンドの上で肩で息をする程にバテていた。
「…きっつ!」
そう言いながらも俺はマウンドの上で笑う。
前世ならさっさと風呂に入って寝たいとか思っている所だな。
「パワプロ~、この回が終わったら交代だぞ!頑張れ!」
主審をする監督の声に笑顔で手を振り応える。
すんません、声を上げるのがキツイっす…。
でも監督?こっちに肩入れしていいの?
よく見ると監督は相手チームにも声を掛けている。
おのれ!純情な少年の心を弄びおって!
「フーくん!後1人だよ!頑張って!」
フハハ!任せてくれ貴子ちゃん!
バテ過ぎて声を出して返事出来ないけどな!
俺は1つ大きく息を吐いてからプレートに足を掛ける。
「…俺には足りないものが多すぎる。」
球速、制球、スタミナ、変化球と考えればキリがない。
「あと、やりたいことも多すぎる。」
足りないものを考えるとそれを出来る様になりたいと思ってしまう。
「やりがいがありすぎるだろう、野球!」
多分、今の俺は今日一番の笑顔をしている筈だ。
俺はノーワインドアップで踏み込んで左腕を振る。
投じられたボールがミットへ納まり心地良い音を鳴らすと、俺はさらに笑顔を深めるのだった。
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リトルリーグのルール説明をした第12話の所で
『サドンデス』となっていたのを『タイブレーク』に修正しました