月刊野球王国の記事でパワプロの周囲が少し騒がしくなってから日が経ち、1軍を決める為の紅白戦も終わって春の東京神宮大会まで後一週間となった頃、パワプロは青道高校野球部の室内練習場にあるブルペンで頭を悩ませていた。
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「う~ん。」
「パワプロ、どうした?」
悩むパワプロに、今日のパワプロのボールを受ける為のジャンケンに勝利した御幸が声を掛ける。
このジャンケンは三回勝負で行われ、その勝率はクリスが五割、御幸が三割、宮内と小野が一割という成績だった。
そして、どうやら今日は御幸が勝利したようだ。
「ん?一也か。いや、新しい変化球をどうしようかなって思ってさ。」
「新しい変化球?」
パワプロが新しい変化球と言った事で、室内練習場のブルペンにいる1軍メンバーが集まって来た。
「葉輪が新しい変化球か。」
「まだ成長するってか?望むところだ!」
「パワプロの新しい変化球かぁ…何がいいんでしょうかね?」
丹波、伊佐敷、川上がそれぞれの思いを口にするのにつられる様に捕手陣も会話をしていく。
「ンフー、葉輪の持ち球を考えると速い縦変化のボールか、利き腕方向に変化するボールだな。」
「候補としてはフォーク、SFF、シンカー、シュートってところですね。」
「どれも捕球が難しそうなボールだな…。」
宮内、御幸、小野がそう会話をしていくと、クリスがパワプロに声を掛ける。
「葉輪、悩んでいると言っていたが、候補は決まっているんじゃないか?」
「あ、はい。候補は決まっているんですけど、握りをどうしようか悩んでました。」
クリスの指摘に会話をしていた皆が驚きの表情を浮かべる。
「クリス、どうしてわかったんだ?」
「葉輪はカットボールやツーシームなどのムービング系は好みじゃなく、フォーク系の抜く感覚は苦手だ。それを考えれば、葉輪も球種にはあまり悩まないだろうと思ってな。」
リトル時代からバッテリーを組んできたクリスの見解に、ブルペンにいる皆が感心の声を上げる。
御幸だけは少し悔しそうに苦笑いをしているが…。
「ンフー!クリスは葉輪の新しい変化球を何だと予想してるんだ?」
「おそらくは縦のスライダーだろう…葉輪、違うか?」
「合ってます。流石クリスさんですね!」
笑顔でサムズアップするパワプロの姿にクリスは苦笑いをする。
「それで、パワプロは縦のスライダーの握りに悩んでいるってことだけど、どういうことだ?」
「ん?今のスライダーの握りで縦に落とせないかなって悩んでいるんだよ、一也。」
パワプロの言葉にブルペンにいる投手陣が話し始める。
「葉輪のスライダーの握りはツーシームと同じ筈だが…これで縦に落とせるのか?」
「そもそもその握りでスライダーになるのがおかしいと思うぜ。俺はツーシームにしかならねぇ。」
「同じ握りで変化の方向を変えるかぁ…俺もやってみようかな?」
丹波、伊佐敷、川上がそれぞれボールを手にしながら話をしていく。
そんな三人を横目でチラリと見てからクリスがパワプロに話し掛ける。
「あまり悩んでばかりいても解決しないだろう。とりあえず投げてみろ。」
「はい!」
元気よく返事をして動き出すパワプロに続こうとするクリスの肩を掴む者がいる。
それは…。
「クリスさん、今日は俺の番ですよ。」
今日のジャンケンに勝った御幸だった。
「今の話の流れなら俺が受けるべきだろう?細かいぞ、御幸。」
「金の事とパワプロのボールを受ける事ならいくらでも細かくなりますよ、クリスさん。」
そう話しながらも目が笑っていない笑顔の二人は、パワプロが声を掛けるまで牽制をし合うのだった。
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