春の東京神宮大会の1回戦、1回の表の先発のマウンドにパワプロが上がると、球場に歓声とブーイングが入り雑じった声が上がる。
「な、なんだこれ!?」
歓声とブーイングが入り雑じる球場の雰囲気に驚いたのは、スタンドにいる沢村である。
そんな沢村に多少の事情を知る若菜が説明する。
「栄純、多分だけど、少し前の月刊野球王国に載った葉輪先輩のインタビューが原因だと思うわ。」
「若菜、何が載ってたんだ?」
「葉輪先輩は青道高校を卒業したらアメリカに行くって言ったのよ。」
「高卒でアメリカ!?いきなりメジャーか!?くっそ~、負けねぇぞぉ!」
少し前に沢村はパワプロにアメリカ行きの事を聞いていたが、その時に沢村はパワプロのアメリカ行きはプロ野球に行ってからと勘違いをしていた。
これは現状のメジャー行きがプロ野球で経験を積んでからというのが常識だからだ。
その常識破りなパワプロのアメリカ行き宣言に何故か対抗心を燃やす沢村の姿に、若菜は苦笑いをする。
「それで、なんでブーイングされるんだ?」
「なんでも、葉輪先輩は裏切り者なんだそうよ。」
「はぁ!?なんだそれ!わけわかんねぇよ!」
「私だってわからないわよ!でも、そう思う人達がいるんだから仕方ないじゃない!」
若菜の言葉を聞いた沢村は、まるで威嚇をする様に周囲を見渡す。
「一生懸命にやってる奴を!夢を追い掛ける奴を!なんで裏切り者なんて呼ぶんだよ!!」
そう叫ぶ沢村に周囲にいた青道野球部の者達が一度目を向けると、誰からともなくマウンドで投球練習をしているパワプロに声援を送り出す。
そんな仲間達の声援が聞こえたのか、マウンドのパワプロは笑顔で手を振ってきた。
「すげぇ…こんなブーイングの中でもあの人は笑えるのかよ…。」
パワプロの大きさに感動すら覚えている沢村の背中を若菜が叩く。
「いてぇ!?何すんだ、若菜!」
振り向く沢村に若菜は両手を腰に当てて答える。
「感心してるばかりじゃダメじゃない。栄純はあの人を超えるんでしょう?」
「うっ!?そ、その通りだ!俺は!パワプロ先輩を超えてエースになる!」
利き腕の拳を握り締めて頭上に突き上げる沢村に、若菜は笑みを浮かべる。
「見に来てよかったでしょ?」
「おう!ありがとな、若菜!」
そう言って笑顔を向けてくる沢村に、若菜は少し頬を赤くして微笑み返したのだった。
◆
春の東京神宮大会の1回戦、青道高校の試合が始まると球場は完全にアウェーになったかの様に歓声を掻き消す大ブーイングに包まれた。
しかし、その大ブーイングはパワプロの投げた1球で静まる。
初球、パワプロが笑顔でフォーシームを投じると、神宮球場の電光掲示板に153kmの球速が表示された。
この1球で静まり返った球場に今度は青道野球部の仲間達の歓声が沸き起こる。
まるで自分達のエースを誇るかの様に、喉が壊れんばかりの大声で応援をしていった。
そんな仲間達の応援に応える様に、パワプロは1回の表を三者連続三振で抑えてみせた。
球場の所々でまだパワプロにブーイングをする者がいるが、その者達は周囲の観客に冷ややかな目を向けられる。
そして多くの観客達がパワプロを応援する様になると、球場関係者がパワプロに向けて露骨な罵詈雑言を発する観客の肩を叩く様になった。
パワプロが三者連続三振で相手チームを圧倒した後の1回の裏、青道打線はパワプロの快投に続けとばかりに爆発した。
打者一巡の猛攻で1回裏で5得点と相手チームを突き放す。
そして2回、3回も得点を重ねて9ー0と点差を突き放すと、青道の監督である片岡は9者連続三振でパーフェクトを継続中であるパワプロをレフトに回し、マウンドには川上を送った。
片岡は4回の守備が始まる前にベンチで選手に檄を飛ばす。
「この試合、5回コールドで決める。どれだけ点差が開こうとも気を抜かずに全力で行け!」
「「「はい!」」」
この片岡の檄に応える様に、4回の表には倉持のファインプレーが飛び出して、パワプロから継続して川上もパーフェクトで4回の表を抑える。
そして、4回の裏にまたもや打者一巡の猛攻で6点を追加して15ー0と点差を突き放すと、5回の表のマウンドには引き続き川上が上がる。
川上は5回の裏の先頭打者である相手チームの4番バッターにヒットを打たれてしまったものの、後続はキッチリと抑えて試合は終了。
春の東京神宮大会の1回戦、青道高校は15ー0のコールドゲームで勝ち上がったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。