春の東京神宮大会の準々決勝、市大三高との試合で俺は先頭打者ホームランを打った。
いや~、インコースにボールが来てくれてよかった。
あのままアウトコースに投げ続けられたら上手く打ててもシングルヒットだっただろうからな!
俺はベースを回りながらチラリと相手ピッチャーを見る。
どこか飄々とした印象を受ける相手だったけど、今の一発で目が覚めた感じかな?
ベースを一週してベンチに戻ると皆とハイタッチをした。
イエーイ♪
「葉輪、天久のボールはどうだ?」
おっと、1番バッターの役割として相手ピッチャーの球質とかを伝えなくちゃ。
「バックドアでアウトコースに投げられたら手が出ないと思うぐらいスライダーはキレがよかったです。他のボールもよかったですけど、カーブだけはコントロールが甘いのかなと思いました。」
片岡さんは俺の言葉に頷くと、皆を見渡す。
「天久はエースの真中に代わって先発をしてくる選手だ。甘いボールは見逃さずに叩け!」
「「「はい!」」」
片岡さんの檄で皆は気合い十分だぜ!
◆
(いきなりホームランとはね。パワプロは1番バッターの役割をわかってるのかな?)
左打席に入って足場を作っている青道の2番バッターの小湊 亮介は常の微笑みを浮かべたまま天久に目を向ける。
(先頭打者ホームランを打たれたのに堪えた様子が無いね。真中の代わりに先発するだけはあるってところかな?)
スッと自然にバットを構えると、小湊は投球モーションに入った天久を観察する。
初球、天久は左バッターの小湊の膝元にスライダーを投げ込んだ。
(さっきホームランにされたボールを躊躇なく投げ込む辺り、強気なピッチャーみたいだね。まぁ、パワプロのスライダーに比べれば可愛気があるけど。)
初球のスライダーはストライクとなって次の2球目、アウトコースに投げ込まれたフォーシームを小湊はカットする。
(天久のフォーシームはノビがあるけど、投球モーションが素直な分だけ見やすいかな。)
昨年のオフシーズンから今年の春先まで、青道打撃陣は打席を奪い合う様にしてパワプロがバッティングピッチャーをする打席に立ってきた。
その練習で著しく打撃が成長したのが小湊 亮介とキャプテンの結城である。
結城はミートポイントをメジャー選手並みに後ろに置いてパワプロのボールに対応する様になった結果、クリスも認める程の打撃力を身に付けた。
そして小湊はビタビタのコントロールを持つパワプロとの練習で、プロの一流打者並みの選球眼を手に入れていた。
この選球眼を手に入れた時の小湊は野球が変わったと口にして興奮したのだが、そんな興奮した様子の小湊を見た同級生達は例外なく驚いたものだった。
場面を打席に戻そう。
3球目、ツーストライクと追い込んだ天久は高めに釣り球となるフォーシームを投げ込む。
この1球を小湊は余裕を持って見送った。
(球速は140km台前半ってところかな?投球モーションと同じく球筋も素直だし、長打を狙えそうだね。)
4球目、5球目とカーブとフォークの球筋を見た小湊は、フルカウントから粘り始めた。
(ストライクゾーンに投げ込めるコントロールはあるみたいだね。コースは少し甘いけど。)
フォーシーム、スライダー、フォーク、カーブと天久の持ち球の全てをカットしていく小湊は、常の微笑みを崩さない。
(皆は十分に球筋を見れたかな?それじゃ、そろそろ塁に出ようか。)
この打席の11球目、アウトローのやや甘い所に投げ込まれたフォークを、小湊は逆方向に綺麗に流し打ちをしてレフト前に運んだ。
(哲、後は任せたよ。)
1塁の塁上に立った小湊はヘルメットの鍔に手を触れて、歓声に応えたのだった。
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