春の東京神宮大会の決勝戦は1ー0の雨天コールドで俺達、青道高校が勝利して優勝したぜ!
それはそれとして見事なまでに雨がどしゃ降りである。
俺は特殊能力のおかげで風邪はひかないけど、貴子ちゃんや皆はそうはいかないからな。
早く帰ろう。
そんなこんなで帰りの準備をしていると、楊がこっちのベンチにやって来た。
「雨天で試合が途中で終わったのは残念だったが、今の俺に出来るベストの投球が出来た。悔いが無いと言えば嘘になるが、まだ成長出来ると実感したいい試合だった。」
そう言う楊はずぶ濡れだ。
大丈夫か?風邪ひくぞ。
「あの失投は?」
「リリースの瞬間にボールが滑った。足元は気にしていたんだが、無意識に投げ急いだのか、ロージンバッグをあまり使わなかった俺のミスだ。」
俺みたいに足元が滑ってなかったのにすっぽ抜けたボールが来たのはそういう事だったのか。
「楊、もう1つ聞いていいかな?」
「あぁ。」
「亮さんと哲さん…うちの2番バッターと4番バッターだけ妙にストライクゾーンぎりぎりのボールが多かった様に見えたんだけど…?」
俺がそう問い掛けると、楊はニヤリと笑った。
「あの二人はボール球は振らない。逆に言えば葉輪の様に多少ボール球でも振ってくる怖さが無いんだ。だから歩かせても構わないと割りきってギリギリを狙って投げ込めたんだ。」
楊の言う通りに、オフシーズンの時にバッティングピッチャーをやった時は、ギリギリのボール球でも亮さんと哲さんは見逃してたなぁ。
「今回は負けてしまったが、夏にリベンジさせてもらうぞ。」
「おう!また投げ合おうぜ!」
俺がサムズアップして応えると、楊は笑顔で戻っていった。
風邪ひくなよ~。
「怖さが無いか…。」
「歩かせるのを気にしない投手相手には、少しぐらいのボール球は打ちにいった方が嫌がらせになるかな?」
「だが、それでスイングを崩したら意味が無い。」
なんか哲さんと亮さんがバッティング談義を始めた。
こうなると長いんだよね。
まぁ、二人共着替えているみたいだし、貴子ちゃんも待ってるから先に行こう。
お疲れ様でした―!
◆
時間はパワプロが足を滑らせて失投した後に三者連続三振をしたところまで遡る。
この日、雨にもかかわらずスタンドには稲城実業野球部のメンバーの姿があった。
そのメンバーの一人がパワプロが三者連続三振をすると傘を片手に球場を後にしようとする。
その人物は稲城のエースである成宮だった。
「成宮、もういいのか?」
「雅さん、あいつが失投をしても崩れないのに、俺がいつまでも投球フォームを崩してるわけにはいかないでしょ。帰って練習するよ。」
そう言って成宮が歩き出すと、その後にカルロスや白河といった成宮が声を掛けて稲城に集まったメンバーが続いていく。
そんな成宮の後ろ姿を見た原田は嬉しそうに微笑んだ。
これで俺達のエースはもう大丈夫だと。
原田は早足で成宮の横に並ぶ。
「今日は一日雨だ。肩を冷やさない様に気をつけろよ。」
「わかってるよ。ケガをしてあいつと投げ合えないなんてバカらしいからね。」
そう答える成宮の背中は、春の甲子園の時よりも一回り成長した様に見えたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。